KAMOME 家
出演したお芝居、KAMOME家が無事に公演終了しました。
ご来場いただいたお客様、ご視聴いただいたお客様、
気にかけてくださった皆様にまずはお礼を申し上げます。
Covid-19の感染防止のために緊急事態宣言が発令される異例の事態のさなか
「お芝居を見る」という選択をしていただけたこと、
感謝しかありません。
原作「かもめ」と出会ったのは去年でした。
随分と遅い出会いです。
名前とあらすじくらいはなんとなく知っていましたが、
難しそうで、暗そうで、ちゃんと向き合うのを後回しにしていたのでした。
でもいざ読んで見ると、おもしろいこと。
登場人物たちの絶妙に噛み合わない会話と人間関係が
コントのようであり、でも悲劇であり、
「いつか演じてみたいなあ」と思っていました。
今年に入っていろんな事が起きて、これからどうするか手探りだった時に
この作品出演の募集を見て、飛びつくように応募しました。
お芝居に飢えていた私はどうしても誰かとお芝居がしたくて
合格するための対策を必死に考えました。
私の年齢とキャラクターから考えるとポリーナかな。
あれやこれやと試行錯誤し、
iPhoneで一人芝居を撮影して応募したのでした。
だからまさかアルカージナ役をやらせていただくことになるとは思わず
役が決まった時はびっくりしました。
このお話の登場人物ってみんな他の誰かの持っているものが欲しいのです。
でも、自分の持っているものの素晴らしさに気づくことはありません。
マーシャの心がほしいメドベージェンコ。
トレープレフの心が欲しいマーシャ。
ニーナの心と作家としての名声が欲しいトレープレフ。
トリゴーリンの心と女優としての名声が欲しいニーナ。
ドールンの心が欲しいポリーナ。
社会構造の変化に乗って旧上流階級の人間と肩を並べたいシャムラーエフ。
失った青春を取り戻したいソーリン。
常に溢れるアイデアと誰かからの賞賛が欲しいトリゴーリン。
アルカージナだけが、誰かの持っているものが欲しいわけではないように私には見えました。
欲しいものは全部自分の力で手に入れて、
欲しいものができたら「欲しい」と言う間もなく行動をとってしまう人。
強いて言えば手に入れたものを奪われまいとしている人。
なんだかこの人間関係の中でちょっと特殊な人に思えたのです。
力強くてかっこいい女性だけど、怖くもある。
歳を重ねたらいつか挑戦してみたいなと感じていたので
まさかこのタイミングで演じられるとは思わなかったです。
演じてみて、本当に難しかったです。
現代の日本で社会と関わって生きていくためには
見ないようにしている自分の欲望や
言わないようにしている言葉がたくさんあります。
生きるために自分の心を麻痺させて
感じることを放棄しているのは「生きるためにしかたのないこと」です。
アルカージナを演じるためにはその麻痺を解いて
欲望を解き放つ必要がありました。
いざやってみるとなかなかその欲望を感じることができない。
少しずつ欲望の感覚が戻ってきたら戻ってきたで
芝居をしていない時間でもその感覚に侵食されて
稽古から本番にかけてイライラピリピリする時間が増えていきました。
言葉尻もどんどんキツくなってしまって
嫌な思いをさせていた人もたくさんいる気がします。
申し訳なかったです。
だけど。
誰もが我慢を強いられているこのときにも
「私の気持ちは譲らない」と決めたアルカージナの我儘は
ある種の魅力がありました。
強い強い意志と欲望に魅入られるトリゴーリンや
取り込まれて逃げられないトレープレフの気持ちもなんだかわかったような気がします。
皆様にも彼女の魅力と恐ろしさをお伝えできていますように。
KAMOMEはまだまだ続きます。
ここから2021年にかけて続く旅の中で
アルカージナの新たな魅力を見つけてみなさまに感じていただけるよう
彼女と過ごして生きたいと思います。
では、また。