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『廻る椅子』作家インタビュー 上田千尋さん(後編)

2021年9月13日(月)から5週連続公開がスタートしている演劇集団ふらっとのYouTubeラジオドラマ「廻る椅子〜出会った椅子は、あなたの椅子でした。〜」は、4人の作家による書き下ろしの作品で構成されています。

明日はいよいよ最終話のエピローグが公開なのですが、インタビュー記事はこの後もう少し続きます。

今回は第一話「カレイドスコープの景色」の作者である、上田千尋さんへのインタビューの後編です。作家としてのあゆみや普段のお仕事について語ってくださっています。
(インタビュー前編はこちらで読めます)
https://note.com/katherine_go/n/n74dc7a675e39

作家としてのあゆみ


――千尋さんは、どう言う経緯で作家のお仕事をされるようになったんですか?
最初はなんのあれもなく、急に小説を書いてみたいなと思うようになって(笑)。で、書いてみたら、最初にそこそこ長いものが書けたので、書いたものを公募に出してみることにして、公募にちょこちょこ出すようになって。それがきっかけで、本を出してもらうことになったんですけど。それから仕事の幅が広がって、今はゲームのシナリオを書く仕事が多いですね。何かやっぱり、物語を書くことが楽しいなっていう、そこからですね、スタートは。

――小さい時から書くことが好きだったんですか?
いや、そうではなくて。小学生くらいの時は漫画ばっかり読んでいたので、漫画家になりたいとはぼんやりと思っていたんですけど。実際に創作をやり始めたのは遅かったんですよ。もう25、6歳くらいの頃ですね、初めて書き始めたのが。

――じゃあ社会人になってから?
そうなんです。やっぱりなんか、ストレスが多い職場だったので(笑)。溜まっているものを作品に昇華するタイプの書き手の人って結構多いんですけど、自分も多分、そういうところから入っていったんだと思います。ハハハ。

――ストレスを作品に昇華できるというのはすごく素敵なことだと思います。ちなみに、その時は何のお仕事をされていたんですか?
当時は不動産会社に勤めていまして。営業をしていたのですが、不動産系って結構キツいんですよね(笑)。休みもほとんどなくて。精神が死んでいたところで、やはりエンターテイメントに救ってもらっていたところは大きかったので、自分もエンターテイメントに携わって同じように楽しんでもらうことで何か貢献できたらいいなっていう気持ちもありました。それと、やっぱり溜まっているものを昇華したい!っていう気持ちが大きくて、昇華方法が物書きに行った感じですね。何か、衝動的に書き始めた感じ。若い時の衝動ですね。色んなものをぶつけたかったんだろうなと(笑)。今は全然違いますけどね。

――そうなんですね(笑)。先ほど、「急に書きたくなって」とおっしゃった理由がわかった気がします。でも、それをお仕事にしていくというのはすごいですね。
最初は「プロになってやろう」という気持ちはありませんでした。ただ書いてみようと思って。気負って書いたわけではなかったので、1作目は書けたのかなと思います。その次はミステリーを書きました。その作品で初めて公募に出したんですけど、その公募で割といいところまでいったので、もしかしたら多少そういう才能があるのかもしれないと自分で思って、向いているかもしれないと舞い上がってしまって(笑)。その時からプロになろうという意識が芽生えました。最初からプロになろうと思ってやっていたら、逆にうまくいかなかったかもしれません。現実は結構大変で、その後の方が大変でしたね。商業の世界では、良いものを書けば売れる世界ではないので。そういう大変さはひしひしと感じるようになりましたね。

――今メインのお仕事としてされている、ゲームのシナリオというのはどんなものなんでしょうか?
子どもを出産するまでは、小説型ゲームのシナリオをずっと書いていました。ゲームだけど、小説型のシナリオです。今はパソコンでやる人が多いかな。子ども向けではなく、大人が楽しめる内容です。「プレイバイウェブ」っていうちょっと特殊なゲームで、お客さんのキャラクターを小説にして仕上げるというゲームなんですよ。例えば、ゲームの中で人を助けてあげなきゃいけないシチュエーションがあるとすると、お客さん(プレイヤーキャラクター)がそれに対して、どんな行動を取るかとか、どんな気持ちでいるかとかを書いた「プレイング」というものを提出してくれるんです。それに対して、じゃあどういう結果が起きたのかっていうのを作家が小説形式にして返してあげるんです。割とニッチな世界なんですけど。作家の私がお題を出し、提出してもらったものを見て小説に仕上げて返すっていうゲームです。お客さんのキャラクターを小説にするという特殊な仕事なので、最初はちょっと難しかったんですけど、性に合っていたみたいで、それをずっとやっていました。お客さんのキャラクターを魅力的に描いてあげる部分がかなりうまくいったみたいで、お客さんにはすごく喜んでもらえたんで。それを何年もやっていて他に手をつける余裕がなかったんで、小説の方にあまり意識を向けられなかったんですけど、ゲームの方で結局毎月何万字という字を書いていたので、楽しかったなあと。

――今お伺いしてみると、元々のゲームのお仕事が今回取り組んでいただいた「あてがき」に近いところがありますね。
あ!そう言われてみたら、確かにそうですね!キャラクターがどういうキャラクターなのか設定があって、それに沿ってシナリオを書くので。そのキャラクターがどういう活躍をしたのかをいかに面白く書くかが仕事だったので。言われてみたら、「あてがき」に近いかもしれません(笑)。好きな人は結構好きな世界なんです。知的ゲームで、子どもはちょっと難しい内容なので、大人の人たちが楽しむ…なんだろうな、出す側とお客さん側の知恵比べみたいな。お客さんに攻略してもらう(笑)。普通のロールプレイングゲームだと誰がやってもストーリーは基本的に同じじゃないですか。「プレイバイウェブ」は人が判定して人が書くので、行動の幅が無限にあるんです。単純に誰かが殺されそうになっているので助けに行ってくださいというゲームであっても、やり方は千差万別でアプローチの仕方が無限にあるので、本当の意味で自分のキャラクターだけの物語が展開していくんです。そこがこのゲームの面白いところなんですよね。一生懸命やっている方は、もう一人の自分がいて、もう一人の人生を演じているような感覚ですね。ゲーム自体が何年も続くので、もう一つの人生を歩んでいるくらい一生懸命される方は、内容も深くなっていきます。それに対して作家もそれなりものを返してあげないといけないので、本当にその人の人生を描いているような感じですよね、もう(笑)。そのキャラクターの人生を描くっていう感じです。

――面白いですね。作家さんとお客さんで作る別世界みたいな感じで。
ほんとにそんな感じですね。両方で物語を作っているという。物語の舞台を準備するのが私の役目で、そこでの実際の行動と広がりを作ってくれるのはお客さん。共同で作っていくような感じ。なので、そういう意味では、シナリオを役者さんと一緒に作っていく感じに近いのかもしれないですね。

――すごくそんな気がしました。
そうなんです。言われてみると(笑)。意外と、一人で小説を書くよりは、私はその方が向いたので、今回梅屋さんに仕事もらって、初めてシナリオを書かしてもらったんですけど、意外と合っているのかなあと気づきました。

――そのお仕事はこれからも続けていかれる予定ですか?
そうですね。子どもが小さかったので、ここ数年休んでいたんですけど、最近ちょっとまた始めて。昔のようにもう毎週何万文字も書けないので、仕事の量はセーブはしているんですけど、少し復帰して、また最近始めています。やっぱり、性に合うのか、楽しいなって(笑)。

――仕事が楽しいって良いですね。小説の方はどうですか?
小説はちょこちょこ書いています。今、小説投稿サイトって多いので、趣味で投稿して公開したりとかしてます。本当にダイレクトに感想がもらえる時代になったので。昔は公募に出して本にしてもらわないと読んでもらえる機会がなかったですけど、今は有名な小説投稿サイトがたくさんあって、それを読むお客さんもすごく多いので。出せば必ず誰かが読んでくれるので、有難いなと思います。気軽に出して、書いてるっていう感じですね。本当に趣味でやっています。締め切りに追われるとしんどいので、今は趣味くらいがちょうど良いかなと(笑)。最初は誰かに読んでもらいたいと思って公募に出してので、それをしなくても読んでもらえるのは助かりますよね。収益の問題がある出版とはまた別のところで、好きなものを好きなだけ書いて読んでもらえる喜びというのはあるなあと思います。お金を取るとなると、商業としての縛りも出てくるので。

――書くことが「ライフワーク」になっていると言える気がします。
4年くらい子どもを家でずっと見ていたので、その間は全く書いてなかったんです。それまでは、自分が書くことが好きだとという感覚はそこまでなかったんですけど、全く何も書いていないと、自分が何も生み出してないような気がして。もちろん、子どもを育てることは大事なことだし、尊いことなんですけど、なんか、書かないとストレスがすごかったんですよ、しんどくて(笑)。それで、3年目くらいにこれはもうだめだと思って、仕事じゃなくて趣味でいいから、一本でいいから何か書き上げようと思って、一年くらいかけて長編を一本書いたんですけど、その時ものすごく達成感に包まれたんです。その時、やっぱり自分は書くことが生きがいなんだと思いました。その時は書き始めて10年くらい経っていたんですけど、その時ようやく気がつきました。

――離れてみて初めてわかることってあるんですね。
そうですね。それまではずーっと書く仕事をしていたんで、ちょっとこうやっぱり、書くことがしんどくなっていた時期もあったんだと思うんです、毎日締め切りに追われて(笑)。だからこそ、一回休んで全部子育てに集中したいって思ったんですけど、いざ子育てに集中し始めると、今度は逆に書かないことが自分にとってこんなに負担になるんだと気がついて。やっぱり、離れてみて初めて気がつきましたね。

――子育ての経験が作品に反映されている部分はありますか?
今回のラジオドラマのお仕事自体も、子どもを産む前の私だったら、子どもがいる演者ペアは選ばなかったと思います。前は子どもがわからなかったので、自分には書けないなって。やっぱりどっか苦手意識があったので。今は、まあ、子どもと言ってもまだ幼児ですけど、それでも子どもを書きたいっていう気持ちが出てきたのが、すごく大きな変化ですね。子どもを産む前は、あんまりなんか、子どもが好きっていう感じでもなかったので。余計にあんまり興味が持てなくて。自分でも理解がなかったなあと、すごく後悔したんですけど。ママさんとかに対する理解がなかったなあとか。ものすごい反省したりしました。そういう劇的な変化がありましたね。よその子も可愛く思えるようになりましたし。全然可愛いとおもわなかったんですけど(笑)。この変化は自分でびっくりしているというか、すごいなあと思いました。

――なるほど、やっぱりご自身の人生経験も大きいんですね。また機会があれば、役者がいるシナリオもやってみたいですか?
そうですね、楽しかったんでまたやってみたいとはすごく思っています。

――作家さんにも楽しんでいただけたようで、それがとっても嬉しいです。
むしろこちらの方が素人なので、ご迷惑をおかけしないか心配していたのでよかったです。

――いえいえ、そんなことは全くなかったです。貴重なお話をありがとうございました。
いえいえ、こちらこそ、ありがとうございました。

おわり

上田千尋さん作品のご視聴はこちらから▼
『廻る椅子』第一話「カレイドスコープの景色」
https://youtu.be/-vd0UHwKbcc

インタビュー:2021年9月5日 Zoomにて
聞き手:竹峰幸美、キャサリン

(記事に掲載している写真は上田さんが趣味で育てている植物です。)

追伸:第二話の作者・武田さん、第三話の作者・田村けん太さんへのインタビューも掲載予定です。ぜひ作品と合わせてご覧ください。お楽しみに!


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