書評 沼田真佑『影裏』-ことばの学校批評クラス豊崎先生回 試作
小説が目に見えないものを描けるとすれば、小説は、目の前から頑として消えない悲劇に対して、どのような力を持ち得るのだろうか。第157回芥川賞受賞作である本作は、そのような問いを読む者に突きつける。
本作の語り手である今野は、同僚の日浅と意気投合し、釣りを楽しみ、酒を酌み交わす仲となる。しかし、日浅はある日何も言わぬまま会社を去ってしまう。やがて東日本大震災が起こり、今野は、同僚から震災により日浅が死んだかもしれないとの情報を得る。今野は、日浅の足跡を辿る中で、日浅が周囲の人々