汝たとひ鷲の如くに高く挙り星の間に巣を造るとも我そこより汝を曳き下さん

Though you soar like the eagle and make your nest among the stars, from there I will bring you down, declares the Lord.(汝たとひ鷲の如くに高く挙り星の間に巣を造るとも我そこより汝を曳き下さん主これを言い給ふ)

 旧約聖書 オバデヤ書 1章4節より。
ロシア帝国最後の皇妃アレクサンドラ・フョードロヴナは、1918年7月にボルシェヴィキによって皇帝や従者たちとともに殺害される前夜、オバデヤ書の内容を子どもたちに読み聞かせた、と日記に記していました。
その内容はまるで、「双頭の鷲」を国章とする栄華を誇ったロシア帝国の落日を予言していたかのようなものでした。

2月23日、この日は「祖国防衛の日」というロシアの祝日でした。この由来は、1918年のこの日にソ連の軍隊「赤軍」が当時の首都ペトログラードで初めて本格的に組織され、第一次大戦の敵国ドイツと戦ったことが由来らしいですが、この辺は諸説あったり今回のお話では大して重要な問題ではないので割愛します。

その翌日2月24日、2022年。ロシア連邦が隣国ウクライナに侵攻しました。2014年のクリミア半島併合以来の本格的な侵略行為であり、3月7日現在もロシアによるウクライナへの激しい攻撃が続いています。戦争です。

私は8年前のクリミア危機以来ロシア史に興味を持ち、ラジンスキー氏や河島みどり女史の歴史小説を読んだり、土肥恒之氏や栗生澤猛夫氏の学術書を読んだり、古書店で見つけた原初年代記の邦訳を読んだりしてロシアの歴史を学びに学んでいるうちに今ではすっかりロシア文化好きになってしまい、いつか行くであろうロシア紀行のために10年パスポートを作ったり、ルーブル紙幣を換金しに行ったり、家でボルシチを作るようになったり、ドストエフスキーを読んだりチャイコフスキーやショスタコーヴィチを聴いたり、正教会の奉神礼(礼拝)に参加したり、NHKロシア語講座を聞いてロシア語を覚える努力を始めたりとすっかりロシアかぶれになっていました。

歴史というのは学んでみるとわかりますが、どこの国家も長い歴史の中では目を覆いたくなるような後ろ暗い出来事があるもので、ロシアも例外ではありません。政敵の目を潰して盲目にしたり、ユダヤ人を組織的に虐殺したり(ナチスドイツではなくてロシア帝国の話ですよ)、農奴を弾圧したり、貴族というだけで年端もいかぬ子どもまでも惨殺したり…しかし、これらの歴史を学んでこそその国の本質を理解できるというもので、そうしてよりその国のことが好きになれるというものです。

そして今を生きるその国とそこに住む人々は、自らの歴史の暗部に向き合い、二度と同じ悲しみと過ちを繰り返さないようにより良い未来を作っていく。歴史を学ぶというのはそういうことだと私は解釈していました。ですが現在のロシアの為政者は歴史から学んではくれなかったようです。

私はウクライナはもちろんのこと、今でもロシアの文化を愛しています。
これらがより良い形で後世に残るように、新たな汚点が歴史に残ることがないように、速やかにロシアとウクライナの戦争が終わることを願ってやみません。

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