時を超えて笑う 狂言って面白い

狂言との出会い

子どものころ、節分が近づくと、そわそわした。
学校が終わると急いで、お寺に向かう2月3日。
千本釈迦堂で執り行われる節分祭の狂言が観たい私は小学生の小さな体を、さらに小さくして、境内の前へ前へと人混みを潜り抜ける。
少しでも前に行って観るのが毎年恒例。

狂言が始まる前に、おかめさんに手を合わす演者の方が、目の前を通っていく。
きれいな衣装と佇まいに「わぁー」って声が出る。子どもの頃から変わらない私。

節分祭の演目の内容はこんな感じ。
鬼がやってきて、いたずらをします。
豆をまいて、追い返そうとしますが、なかなか鬼も強くって、
とうとう豆が無くなり、鬼が暴れます。
そこにおかめさんがやってきて、豆もまかず、笑顔を振りまきます。
そうしたら、不思議と鬼たちが逃げていく。

鬼が登場!
そこにおかめさんがやってきて、にこにこ笑顔で踊ります。
この姿がなんとも愛らしい。

千本釈迦堂はお堂の通称で、お寺の正式名は大報恩寺。
このお寺には、こんなお話しがあります。
大工の棟梁・長井飛騨守高次(ながいひだのかみたかつぐ)は、四本立てる柱の一本を誤って短く切ってしまいました。困り果てた夫の姿を見た妻のおかめさんが、残りの木も短く切って、上に「斗栱(ときょう、ます)」を乗せてはどうかと提案。
見事なアイデアで無事に本堂は上棟式を迎えるのですが、おかめさんは妻が助言をしたと知れては世間の恥と考え、自害をしてしまいました。棟梁は、妻への感謝と冥福を祈るため、上棟式の日におかめさんの顔をかたどった面を付けた扇御幣を奉納したそうです。
いまでも、家を建てる時、おかめのお面と扇を飾るのはこれからだとか。

狂言が終わると、豆まきがはじまります。

子どもの頃、この狂言に出会える2月3日が、本当に楽しみで楽しみで。
狂言師の動き、笑い声、すべてが楽しくて仕方がなかったのです。
帰り道では友達と、狂言師の真似をして「はーははははは」と、大きな声で笑い声を出したり「えーーーんえんえん」と泣いてみたり。

狂言の素晴らしさは、年齢も超え、言葉も超え、時代すら超えて、人々を笑顔にするところだと思います。
ずっとずっとずーーーっと昔の人たちも、この狂言を見て笑ったのかな。
滑稽な面白さの向こうに、いじわるな感じが全く無い。
喜劇として成立しているであろう狂言ですが、
人間の弱さや滑稽さ、そして喜怒哀楽があり、とても完成された舞台芸術だと大人になってから気付くことができました。

鬼の登場!鬼の面は怖いけど、それもまた面白いのです。

ひとつひとつの所作にも無駄がなく美しく、卓越した美すら感じる。
私はそんな狂言が好きで、ときどき狂言を観に行きます。
そして、たくさん笑って、元気になるのです。
いつか、大好きな大蔵流 茂山狂言のお話しもしたいです。

大報恩寺(千本釈迦堂)
〒602-8319 京都府京都市上京区溝前町1034


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