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日記や感想など

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自分の特性の話や、読んだ本の感想などを書く予定、でも未定。
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記事一覧

映画日記:キリエのうた

初めて観た岩井俊二映画は、たぶん『スワロウテイル』封切の年に、心斎橋パラダイスシネマの岩井俊二監督特集で観た『undo』『PiCNiC』二本立てだと思う。(もしかすると『スワロウテイル』が先かも。) その場で虜になり、初期作一気見して、以来ずっと彼の映画のファンだ。その時の濃厚な映画体験のおかげで、同時代の監督による邦画が好きになった。『ウォーレスの人魚』も買って読み、長編小説すら自在に書きこなす才能にひれ伏した。 好きに理由は無いけれど、彼の映画の、複雑な陰影とスケール感あ

読書日記:川上弘美『某(ぼう)』

川上弘美の小説は、『椰子・椰子』までの初期作品と東京日記シリーズが、シュルレアリスティックで大好きです。現実と幻想が全くの地続きで、かつどこか土の香りがする。 作品から段々幻想が減って恋愛へと重心が移り、わたしには合わなくなったようで、最近のものは細かく追ってはいなかった。 これはたまたま近所の古本屋で手に取り、粗筋・書き出し・装丁の3つが良くて安かった(レジに持って行った瞬間に半額の100円にしてくれた)ので買って読んだら、別次元に入ったと思わせる傑作でした。 今回のネタバ

映画日記:夜明けのすべて

違う事情を持つ人にも応用できるよう、これを見ただけで出て来る病気や状況をわかった気にならないように、慎重に配慮された映画だと思う。 抑制された表現のせいか、観てからずっと余韻を感じている。 ネタバレあらすじ。 PMS(月経前症候群)に悩まされる20代前半の藤沢さんが、雨のベンチでくずおれていて補導される場面から始まる。警官に返事せず自分の鞄の中身を地面に投げつける。母親が警察に迎えに来る。 藤沢さんは、生理前は体調不良に加えてイライラがつのり思ってもいないような暴言も吐いて

映画日記:王と鳥

ジブリ高畑宮崎両氏が絶賛してたらしいってことで観たフランスのアニメ。サムネイルの絵柄が好みじゃなくて期待せずに観たら、鷲掴みされてしまった(鳥だけに、ってすんません)。 監督はポール・グリモーというアニメーター、『天井桟敷の人々』も書いた詩人ジャック・プレヴェールが脚本。 製作時間がかかり、資金難であせったプロモーター?が、未完成品を無断編集して発表した『やぶにらみの暴君』が、実はジブリ2人が絶賛した方らしいけれど、そっちは監督によりお蔵入りにされている。 ネタバレあらすじ

映画日記:PERFECT DAYS

ヴィム・ヴェンダース監督が、TTT(東京(渋谷)のトイレをデザイナー建築にして、今迄より綺麗に使ってもらいかつ観光に役立てよう、というプロジェクト)からの依頼で製作した映画。 TOTOウォシュレットを使った荻上直子監督の『トイレット』を思い出した。あれは日本人がアメリカで撮った映画で、やはり何でわざわざ外国で?と思ったけども面白かった。 この映画は、出来事が起きている脚本に描かれた部分と、決められた日常生活を送る行為をドキュメンタリー風に撮り貯め編集された場面とで、構成されて

映画日記:トウキョウソナタ

黒沢清監督が家族を撮った作品。好きというのとは違うけれど記憶に滓のように残り、数年おきに観たくなる映画。 ネタバレあらすじ。 タニタの総務課長だったがリストラされた父(香川照之)、 家族他に振り回され続ける専業主婦(小泉今日子)、 「日本を守るため」突如米軍へ志願してそのまま中東へ派兵されるフリーターの長男(小柳友)、 思ったことをすぐストレートに言葉にする為に教師(児嶋一哉)と折り合いが悪く、近所のピアノ教室(講師:井川遥)に給食費をつぎ込む6年生の次男(井之脇海)、 か

映画日記:リトル・パレスティナ―包囲下の日々―

たまたま、UNWRA(国連パレスチナ難民救済事業機関)から各国の資金引き上げが始まったタイミングで観ました。 2009年にシリアを旅行した際、この難民キャンプの存在を知らずに近辺を呑気に観光して、戻った後もその封鎖などにも恥ずかしながら全く気付いていなかったので、更に何とも言えない気分になりました。 今回もネタバレで感想などを書きます。 ストーリーの無いドキュメンタリー映画で、ひたすら封鎖されたキャンプの日々が展開します。中での生活のリズムをトレースしているような雰囲気もあ

読書日記:村上春樹『1Q84』

ネタバレ的に考察します。 普段小説を読む時は、分析抜きでただ物語として楽しむので、書きながら考えた部分が多くて、長くてしかも半分はヤマギシ会(農畜産業集団)の説明になった。 ユートピア思想と宗教と政治の関係についての考察、みたいになちゃった。 他の作品についても書いてるので、春樹好きの人なら少しは楽しく読めるかも。現時点の考えでごく適当に書いたものですが。 村上春樹が繰り返し小説に出すモチーフのひとつに、学生運動があります。 熱心でなくそれなりに参加した人が、その経験を未消

映画日記:リアリティのダンス

ホドロフスキーを見るのも、たぶんこれが初めてだと思う。 あっけにとられながら興味深く見て、他の作品も見たくなった。マジック・リアリズム的めくるめく急展開のストーリーに振り回されるのが楽しく、南米らしい鮮やかな色合わせが展開にマッチして目に楽しい。 お父さん役の人は、過酷な運命で人相がどんどん変わる役を見事にこなしていて、最初はえげつない暴力親父だったのが、愛すべき人間になっていって、泣かせる。どこまでが実話なのだろう。 一人だけオペラ歌手なお母さんもシュールで最高。DV夫にさ

映画日記:ドライブ・マイ・カー

いまさらですが、ネタバレありで感想を書きます。 一見して掴みどころがなく感じたので少し掘りたくなって、二度続けて見て原作も読み返し、劇中劇の筋や監督インタビューを読んで、最終的には、こうして書いて少し整理しようとしてます。 しかも書きかけて何となく一か月以上寝かせていて、今書き上げたのは、他のやるべきことからの逃避行動です。 声について 映画を見る時は、一度その世界を受け入れて、終了後の余韻をもとに、見ながら感じたことを振り返ることが多い。 つまり、ふわっと見て結論なくふ

映画日記:ノスタルジア

タルコフスキー監督作品を観たのは初めて。 難解そうな巨匠の映画は、理解できないのではないか、それを誰かに知られるのは恥ずかしいというストッパーを感じ、なかなか手を出せない。他人の評価より自分の好き嫌いが大切とも思ってはいるけれど。 素直に受け入れられず損をしている。自分本来の薄っぺらさを胡麻化さねば、みたいなくだらない防衛本能が消せない。 末っ子気質でよく知らない話題でも背伸びして話を合わせる癖があるからか、知識豊富と時々勘違いされるが、自分には教養に厚みが無い。経験値はもっ

映画日記:岸辺の旅

悲惨な学生時代の後遺症か、三年周期くらいで、友人との関係性を破壊するような失敗をする、または問題が起きていると感じることで逆に自ら問題を呼び込んでしまう。 自分も他人も信用できない。 問題と常に同居していた頃から、未だに抜け出せない。 常時一対一を保てる相手なら比較的大丈夫だけど、たいていの人とは複数人含めた関係にならざるを得ないので、キャパオーバーでぎこちなくなっていって、自分できっかけをみつけては駄目にしたり疎遠になる。 平常運転として、関係性が壊れていた頃の状態が記録さ

姉妹というもの

最近、大島弓子の「バナナブレッドのプディング」が入っている選集をパラパラ読み返していた。 改めて読むと、彼女がテーマとして何度も描いているのは、優秀な姉とそうでない自分とのギャップに苦しむ妹達が、そこを抜けて自分自身へと歩き出す瞬間だ。そこに至る過程には、周囲を振り回す程の葛藤がある。 自身の経験を、何度も繰り返し描いて確認しているのだろう。 それぐらい噛みしめ甲斐のある、姉と妹という関係。 わたしも妹で、華やかで行動力のある年の離れたふたりの姉達の影響をもろに受けて、一番

映画日記:アフター・ヤン

 普段は映画の感想はfilmarksに書いているけれど、今回は長くなり整理にも時間がかかりそうで、中途保存したり修正ができるこちらに書こうと思う。とりとめなくなりそうな予感。  この映画は、音楽にリリィ・シュシュの「グライド」を使うセンスに惹かれたのと、坂本龍一さんの曲もあること、一番はストーリーに興味が惹かれたので見に行った。経済的制約があり、基本的に1カ月にそんなに映画館では見られない。今月は、これを最優先映画に決めた。  たぶん、SFというジャンルだけで捉えると、映