見出し画像

『数字とデータで残る命の価値』16


死んじゃった犬を
家族に迎え入れてから
毎日
日記なんていうハイレベルなものじゃなく
『数字』を記録する
『データ』としてのメモを
書いてきた

おしっこやうんちの回数
食べたごはんやおやつの量
お散歩した時間
体調管理としての
ただの
『数字・データ』を
書いてきた

✳︎

7歳の時
自己免疫性疾患という
厄介な病気になってからは

ドクターに端的に伝える為に
「○時に嘔吐◉回、下痢◎回」

より正確な『数字・データ』の共有が
治療に役立つように書き

14歳の時
クッシング症候群を発症してからは
水分量の把握イコール
病状の把握だったので
飲んだ水の量を
軽量カップで測り
更に細かく
『数字・データ』化し書き記した

✳︎

18歳の時
口腔内メラノーマで余命宣告を受けてからは
最期の日々として

寝た時間
起きた時間
1日の全てを
『数字・データ』化し

その日“感じた事“も
合わせて記録として書き記した

✳︎

そして
その『数字・データ』は
2023年12月20日で
終わりとなった

✳︎

おしっこの回数
うんちの回数
お水を飲んだ量
食べたごはんの量

もう
どんなに望んでも
『数字・データ』は
書き記す事が出来ない

✳︎

『データ』や『数字』の中に
犬が生きた
【価値】があるのか?

どこまで行っても
ただの無味乾燥なものに過ぎないのか?

そんな事を思いながらも
犬の『数字・データ』としての
20年263日間の日々を
書き連ねた
ノートやメモ帳を
私が生きている間は
捨てられそうに無い

犬の『データ』と『数字』の一部

✳︎

私が死んだら
犬の『数字・データ』の
【価値】が
本当の意味で無くなるのだろう
そんな事もわかってる事だ

✳︎

でも
実は犬の『数字・データ』は
私の手元にあるだけでは無い

犬の病気は厄介なものだったので
大学病院にもお世話になっていた

大学病院は
治療機関でもあるが
研究機関でもある

そして
犬の主治医が血液内科の分野で
世界的に名を通すドクターの1人だった為

犬の血液を
半永久的に保存し
遺伝子を取り出し
遺伝子レベルで
病気だけでなく
犬という生命の
生きる長さ
生きる速さについても
共同研究で調べていきたい

そう言われ

犬の血液は
大学病院の
冷凍保存室の中で
半永久的に
残る事となった

✳︎

犬の遺伝子情報
エコーやレントゲンの映像データは
全て
デジタル化され

世界を飛び回ってる

✳︎

大学病院で眠る
犬の血液の事に
思いを馳せると

130キロメートル離れた
大学病院まで
車で駆けつけて
今すぐにでも
犬の血液で良い
犬に会いに行きたくなるのだから

『データ』化出来ない
私の感情程
扱いにくいものはない

✳︎

現在(いま)
犬の『データ』を
生成AIに取り込めば
より正確な
【犬の生きた価値】を
見る事が出来るのだろうし

AIとしての
バーチャルな犬に
会う事も出来るだろう

あと数年も経てば
犬の『データ』と
犬の『遺伝子』から
生み出された
犬のコピーの生命を
買う事が出来るのだろう
(現在も出来るのかもしれない)

✳︎

そんな
『データ』の『集積』の
犬のコピーに会いたいか?
と問われれば

会いたくないとは
言い切れない

会いたいと願う
自分も居るのが確かだ

✳︎

でも
それでも

其処は

人間が
『足を踏み入れてはいけない聖域』
なのだと思ってる

コピーであっても
どんなカタチで生まれたにしても
その犬は
新しい『生命』なのだから


✳︎

犬を買った時

犬を家族として迎え入れた時

『犬の寿命は私より短い』


絶対的なその事実を

共に買い

共に迎え入れた

✳︎

もし
犬が
100年生きる生命だったとしたら

私は
犬を買う事が出来なかっただろう


✳︎

子どもの様に育て
親の様に看取る事が
『約束』されていたから

人間より速いスピードで駆け抜ける
犬という生命を買い

その短い生命を
その短い生命と生きる時間を

愛おしむ事が
出来たのだ


✳︎


終わるからこそ

命は尊い

✳︎

映画に終わりが無かったら?
小説に終わりが無かったら?
見ないし読まない
価値はない

枯れない花は便利なのかもしれないが
魅力はない

✳︎

終わるからこそ

価値がある

✳︎

終わりの見えない

コピーの生命に

価値を見出してはならない

✳︎

犬は
一度きりの命を
20年263日間
明るい気持ちで希望を持って
生き切った

やり残した事など
何も無いほど
生き抜いた

『数字』と『データ』と
その『事実』があれば
それで
十分だ

✳︎

犬の命は

終わりを迎えられたのだ

そして

其れこそ

美しい『価値ある事』なのだ


✳︎

1000年後どころか
100年後に
私もいない

其れでも

半永久的に
世界中『データ』として飛び回る以上に

犬と私の間にあった
バイブスは
果てしない宇宙空間を
いつまでも飛び回れるのだから

それ以上の事を
望むのは野暮というものだ

✳︎

言葉は寝かせると腐る
言葉は推敲すると腐る
言葉は添削すると腐る

言葉は誰に向けるのか
ハッキリしないと腐る

言葉は心とかけ離れた
虚言が混ぜ入ると腐る

言葉は反応を予測して
頭で考え過ぎると腐る


✳︎

昨夜
夜中に目が覚めて

思った事を

今日
寝る前に書き留めておく

誰の為でもない

私一人の為に

誰から反応が無くても

其れで良い
其れが良い

私が書き起こす
犬との日々になど
価値はないのだ

価値があるとするならば
犬と私の中だけにある
『永遠の秘密』

✳︎

「箱庭の灯」tele をエンドレスで聴きながら…

灯りを忘れた箱庭で、
言葉が窓辺の海になる。
あいつの罵倒は遠くの雲、
稲光だけ。

飾りの過剰な優しさで、
染みついたエゴは隠せない。
あたり一面に飛び散るスパンコール、拾ってね。

僕ら不完全で、日々は未完成だ。
僕ら不安で、ひら、ひら、ひらと笑う。

寂しさは今じゃ免罪符。
他人を妬む自分を庇う為の
「誰も彼も醜すぎる。」って
自分はどうなの?

ありふれた日々に殺される。
孤独を舐めたら中毒になって
部屋の底溜まり、吐いた言葉がまた穢すだけ。

僕ら不安定で、日々は不完全だ。
僕ら不安で、ひら、ひら、ひらと笑う。
僕ら不安定で、日々は不完全だ。
箱庭の中で、遊ぶように息を紡げ。

ばいばい、どこへゆこうか。
砂漠でぽつんと夢が覚める。
何回も求めた光は幻だったな。
ばいばい、灯りはどこ?
足元を憎む義務なんてない。
あなたの言葉が造った世界を愛せばいい。
あなたの言葉をまず適当に愛したっていい。

僕ら不安定で、不完全だ。
箱庭の外へ、笑うように君を許せ。

輝け。
かたちのない自分でも。
また憧れ、でも壊され、
傷つけあっても未来へとずっと。
燻んだ瞳を振り解く愛が笑った。
ほら、わかったろう。
僕らこそが箱庭の灯。
君が君であるなら
ずっと箱庭の灯。
箱庭の灯。

僕ら不安定で、日々は不完全だ。
僕ら不安で、ひら、ひら、ひらと笑う。
僕ら不安定で、日々は不完全だ。
僕ら不安で、ひら、ひら、ひらと笑う。
僕ら不安定で、日々は不完全だ。
僕ら不安で、ひら、ひら、ひらと笑う。

✳︎

かなしみ かわのながれ ひとびとのおしゃべり あさつゆにぬれたくものす そのどれひとつとして わたしはたずさえてゆくことができない せめてすきなうただけは きこえていてはくれぬだろうか わたしのほねのみみに /谷川俊太郎「死と炎」

✳︎

こんなよい月を一人で見て寝る

尾崎放哉『尾崎放哉選句集』

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?