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『カタツムリレポート#6 キョーラク株式会社』〈後編〉

「一人ひとりが循環者になる未来ってどんな未来だろう?」
カタツムリレポートは、よりよい未来をつくろうとする人達や研究者の方に、その研究や取り組みのワクワクをご紹介いただくインタビュー記事です。子どもたちが「みらいをつくる職業」をもっと身近に感じられるよう、参加企業や研究者の取り組みにググッとフォーカスしてお届けします。

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このnoteは、JST「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」地域共創分野(慶應義塾大学×鎌倉市)リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点の循環者学習分科会が運営しています。


前編はこちら

研究にフォーカス!

プラスチックの独自技術で社会をよりよくする

片山 続いて、キョーラクさんの独自技術についてうかがいます。キョーラクさんが製造するハクリボトルにとても興味があるのですが、どのような技術が使われているのですか?

青木さん ハクリボトルは内部が二重構造になっている抗酸化ボトルです。マヨネーズ容器などの食品容器も、実は6層等の多層構造になっていて、中にEVOHのバリア層があります。EVOHはPE(ポリエチレン)やPPとくっつかないので接着層をつけています。ハクリボトルはこの接着層の片方をなくして、剥離(はくり)するようにできているんです。

ハクリボトルとは?最近スーパーのおしょうゆコーナーなどでもよく見かけますよね。「生搾り!」なんて書かれているとつい見てしまいますが、中身の食品そのものの鮮度を保つためや最後の一滴まで無駄なく使い切る技術開発がされていたのですね。
ハクリボトルの技術説明資料。PP(recycled)と書かれている素材は、キョーラクさんの工場内で出たPP素材をリサイクルしたものが一部使用されています。しかし6層ほどの多層構造になっているなんて、いち消費者として知りませんでした!!

EVOH(Ethylene vinylalcohol copolymer):エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂
エチレンとビニルアルコールからできた合成樹脂。バリア性に優れており、酸素をはじめとしたガス、化学物質、風味や香気などを通しにくい。

青木さん 普通のボトルだと、使っていく内に内容物が外気にふれて酸化・劣化したり、ゴミや菌が入る可能性があったりするので、防腐剤を入れるなど対策するのですが、ハクリボトルだと高い鮮度保持性があり防腐剤フリーにできる、フードロスにつながるといった多くのメリットがあります。
多層構造はキョーラクのコア技術で、それをさらに発展させたものがハクリボトルで使われている技術です。醤油などの調味料だけでなく、無添加の化粧品や洗剤など、さまざまな用途で使っていただいています。

大きな枠組みでリサイクルの課題をどうクリアしていくか

片山 そういった食品容器などのプラスチックは、今はどのようにリサイクルされているのでしょうか?

青木さん  現状ではプラスチック回収をする際に、ペットボトルとその他という風に大まかにしか分けられていません。
ペットボトルはPET(ポリエチレンテレフタレート)のみで作られたモノマテリアル(単一素材)の容器で、流通量も多いため、ボトルtoボトルのリサイクルが可能です。対して、マヨネーズ容器やハクリボトルは機能性を持たせるためにいろいろな種類の材料が入っているので、正直に申し上げるとリサイクルには若干不利な側面があります。ただ、ある程度の数量が集まれば、それぞれで水平リサイクルする仕組みが作れる可能性はあります。そういった容器to容器のリサイクルについて、回収方法や事業性の課題を検討しているところです。

リサイクル適性のある製品の製造は我々メーカーに求められていることのひとつです。機能性を維持しつつできるだけモノマテリアルに近い、リサイクルしやすい食品容器の開発にもチャレンジしていきたいと思います。
そして、リサイクルを含めた環境対策にはたくさんのアプローチの仕方があるので、大きな枠組みでリサイクルの課題をどうクリアしていくか、関係者の方々と協力しながら多様な視点で研究を進めています。

片山 お話を聞いて、プラスチックはあらゆる生活の中に必要不可欠な素材なんだなと感じました。研究職って成果が出なかったらつらいというようなイメージがありますが、どうなのでしょうか?

青木さん おっしゃる通りで、基本的にはうまくいかないことの方が多いので、つらい時もあります。ただ、うまくいった時の達成感は大きくて、自分が携わってできた容器を店頭で見た時は本当に嬉しいです。つらい中にも、いかにやりがいを感じるかですね。

未来にフォーカス!

自分たちの分別がよりよいリサイクルにつながる

片山 未来に向けて、子ども達に伝えたいことや教育に関して取り組んでいきたいことがありましたら教えてください。

青木さん プラスチック製品のリサイクルは「どう回収するか」という点が一番の課題で、やはり同じ材質のものを集めれば質のいいリサイクルができるので、より細かな分別回収が今後求められてくると思います。
消費者の意識の変化や多くの人の協力が必要で、そういった意識の変化につながるようなメーカー側からの関わり、環境教育などの機会を作っていきたいと思っています。

プラスチックも含めて、なんとなく言われた通りに分別する、その後どう処理されているかよくわからない、といった子ども達が多いと思います。私たちメーカーが環境に配慮した製品の開発や資源循環の取り組みと並行して「自分たちが分別することでよいリサイクルができて資源循環につながるんだ」ということを伝えていきたいです。

片山 最後に、青木さんの夢は何ですか?

青木さん 食品容器のようなプラスチック製容器包装の資源循環のスキームを確立することです。先ほどお話したように、ペットボトルはリサイクルの仕組みが確立しているのですが、私たちが取り扱っているマヨネーズなどの食品容器の分野は資源循環スキームがまだありません。リサイクルしやすい設計で作ってあっても、実際にリサイクルされているかというとそうでもなかったりするので、課題は多いのですが、そのモデルづくりに関わっていきたいです。

今社会で取り上げられているプラスチックの環境への悪影響については、その通りだと思います。と同時に、プラスチックは私たちの生活を助けてくれる優れた特長を持った素材です。我々の会社は企業間でのビジネスがほとんどで、一般的な知名度こそ低いのですが、実は身近でたくさんの製品を使っていただいています。暮らしや社会の「縁の下の力持ち」を自負して、お役に立っていきたいと思っています。

片山 みんなで協力して分別回収をして、もっと良い資源循環ができる社会にしていきたいですね。いつか青木さんが関わった資源循環スキームが教科書に載ってほしいです。青木さん、どうもありがとうございました!

ーーー青木さん、ありがとうございました!!
初めてのインタビューで研究職について無知だったのですが、無知な私にわかりやすく教えていただき、とても身近に感じました。
お話を聞く中で、私がとても驚いたのは、容器の多層構造です。
マヨネーズなどの容器はただプラスチックを薄く伸ばしただけのものだと思っていたのですが、研究に研究を重ねられた多層構造だと知り、今まで何気なく使っていたマヨネーズ容器の見方がとても変わり、ものの見方が変わる楽しいインタビューでした!(片山)


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