『カタツムリレポート#9 大成建設株式会社』〈前編〉
こんにちは! 大学生カタツムリレポーターの飯島詩(いいじまうた)です。今回は総合建設企業、大成建設株式会社さんの横浜市戸塚区にある技術センターにおうかがいしています。
インタビューにお答えいただくのは、技術センターイノベーション戦略部の羽角華奈子(はすみかなこ)さん。建設会社の立場から資源循環の在り方を研究されている羽角さんに、未来につながる研究のワクワクについてお聞きしました。
研究にフォーカス!
循環型社会の未来図 「Vortex Economy®」
飯島 はじめに、COI-NEXTでどのような資源循環の研究に取り組まれているのかお聞かせください。
羽角さん 当社は建設会社という立場からサーキュラーエコノミー(Circular Economy)のその先の循環型社会のビジョンづくりと、ビジョン実現のための建築の在り方を議論し、プロトタイプの設計を検討中です。
まずビジョンづくりについてですが、2022年にサーキュラーエコノミーを発展させた経済モデル「ボルテックスエコノミー(Vortex Economy®)」と、それを実現する未来のまちづくり構想「ボルテックスシティ(Vortex City)」のコンセプトを発表しました。
そのコンセプト動画がこちらです。
羽角さん サーキュラーエコノミーというと、原料から生産して製品になったものが消費者に使われリサイクルされる、ぐるぐると回るイメージだと思いますが、ボルテックスエコノミーでは、ひとつの産業ではなく多様な産業がさまざまな資源を通してつながり、ごみを資源に、さらに資源から地域で使う資産へ積極的に価値を高めアップサイクルしていくことで、地域全体が活性化していく、新しい資源循環型社会の形を提案しています。資源の循環が流体に発生する「渦」を連想することからボルテックスエコノミーと名付けました。
羽角さん ボルテックスエコノミーを実現した未来のまちでは、例えば建設業では使えないけれどアパレルでは使えるという資源をアパレルで使ったり、自然の資源も取り入れつつ、地域の市民が主体となって、まち全体としてバランスを取りながら資源を循環させていく、そういった姿を理想としています。
飯島 とても夢のある、ワクワクする未来図ですね! 動画の「建物自体も増築と減築を繰り返す」という言葉が新鮮で驚きました。
羽角さん 動画の中で、3Dプリンタで作った部品を建物に使ったり、建物の一部分をまちの他の必要な場所に運んだりする場面が出てきます。ボルテックスエコノミーにおける建築では、分解や交換ができる、モジュール型の構造でより自由に形を変えられるようになるのではと考えています。この動画はCOI-NEXTの対象とする人口20万人程度の中規模都市をイメージしており、「市民参加型」という側面が強調されてますので、市民の暮らしや地域通貨なども描いています。今後は他の中規模都市でも実現可能なモデルを検討しているところです。
建設リサイクルの現状
飯島 大成建設さんではどのような資源循環の取り組みをされているのでしょうか。
羽角さん まず、建設業全体における資源循環への取り組みの状況ですが、建設業では建設リサイクル法に則って、建設現場で出た副産物の再資源化や、再生資材の建設資材への活用が進められています。
建設副産物として出されるのは、主にアスファルトやコンクリート塊が混ざったもの、建設汚泥や混合廃棄物、木材などです。その内、コンクリート塊は道路の路盤材として再資源化されます。
再資源化できずに最終処分されるものの多くは建設混合廃棄物や廃プラスチックです。解体作業で出た建設混合廃棄物は中間処理施設で分別し、再利用できないものだけを最終処分(埋め立て)します。廃プラスチックも、例えば配管に使われる塩化ビニル管は取り外してリサイクルに回せるのですが、接着されている素材をうまく取り外せないとリサイクルできないため、廃棄されてしまう現状があります。
羽角さん そういった最終処分を減らすために、当社独自の取り組みを進めています。
一つ目が、巡回回収システムです。現場で出た建材端材はもとのメーカーさんにお返しして再資源化してもらう方がいいので、物流会社さんにご協力いただき、当社の建設現場を回って建築端材を回収し各メーカーに輸送するシステムを構築しました。例えば、回収資材のひとつである石こうボードは10年20年と使われるものなので、回収・再資源化し、その長いサイクルに戻すことは資源循環の推進につながります。
二つ目の例として、廃板ガラスの再資源化です。ガラスは高性能化するために多層になっていて、中に混ざっている素材も年代ごとに違い、何が含まれるのかを調べるところから始めないといけないのでリサイクルが難しい資材なんです。そこで大手ガラスメーカーさんと協働で再資源化への実証実験を行っています。
まず板ガラスから少量のコアを抜き、品質を確認します。そして適合したものだけをきれいに切り出してガラス製造会社に運び、また板ガラスの製品にしてもらうという流れです。
現状は、解体時の手間が増えることによってコストが上がってしまうため、資源循環の実現の難しさを感じますが、実証実験をもとに、品質とコストメリットを確保するための方策を検証していく予定です。
Vortex Economyを実現する、より自由な建築への挑戦
飯島 今後、ボルテックスエコノミーの実現にむけて、どのようなプロジェクトが動いていくのでしょうか。
羽角さん 社会実装へのステップとして、まずボルテックスエコノミーを体現したミニ建築を作ろうと考えています。
ミニ建築の特徴として、①少数でも資源を受け入れられる、②いつでも取り換えられる、③一つ一つの素材に分解できる、④必要な時に提供できる、の4点が上げられます。その試作として検討しているのが動画でも描いたミニ建築です。
羽角さん 仮設建設物にも建築基準法の縛りがあるので、いろいろなことを試すために車両にのせています。また、車両だからこそ、機動力を利用した使い方もできると考え、分科会で議論しています。資源を循環させやすいように、分解しやすくするため、フレームに自在に着脱可能なパネルをはめる構造で、地域の植物を植えた緑化パネルや古材、海洋プラスチックのブロック、様々な資源を調整した上で集めて、将来的には市民がみんなで組み立てます。
むかしの木造建築は石の上に木を組んで、土と紙で壁を作り、何年かに一度茅葺き屋根を交換したり、木はだめになったところだけを切り継ぎ足したりして使っていました。資源循環を考えると、むかしの建築っていい姿だったんだなと感じるので、そのいいところを取り入れながら、新しい建築の形を目指していきたいと思っています。
―― 後編へつづく。