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『カタツムリレポート#1 花王株式会社』 前編

JST「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」地域共創分野(慶應義塾大学✖️鎌倉市)リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点の循環者学習分科会が運営するnoteです。こちらのnoteでは、子どもの目線でわかりやすく技術を伝えたり、研究者や技術者などの「みらいをつくる職業」をもっと身近に感じられるように、参画企業の取り組みやエピソードをインタビュー形式でご紹介していきます。


花王株式会社さんにおじゃましました!

はじめまして!株式会社 高山商会の大学生インターンでカタツムリレポーターの飯島詩(うた)です。鎌倉では森の活動や学生団体などにも参加しています。学生らしい視点で各企業の取り組みをご紹介していきます!どうそよろしくお願いします。

第一回目は、花王株式会社さんの墨田区にある東京研究所におじゃましました!インタビューにお答えいただいたのは、花王株式会社 包装技術研究所 リサイクリエーションプロジェクトの松本泰正(まつもとひろまさ)さん

花王株式会社に35年勤め、これまで研究開発や商品を作るための設備の開発などに携わりながら、現在は洗剤のつめかえパックの回収からブロックなどを再生し、再び地域の中で活用して、資源循環を体感する「リサイクリエーション」を担当されています。

リサイクリエーションとは、「リサイクル」と「クリエーション(創造)」を組み合わせた花王株式会社さんが独自につくられた言葉。リサイクルを創造の力で新たな価値に変えていく、そんな思いが込められています。「使ったら、捨てる。このあたりまえを変えたい。」がリサイクリエーションのコンセプトです。

敷地内にまさかの神社!?

下調べ中に発見した「花王神社」の4文字。
どうやら敷地内に神社があるらしく、調べたところ大正12年に建てられ、商売繁盛、家内安全などの神様や創業者などが祀られているそうです。
実際に敷地内を歩いていると

ありました!!!
花王神社~~~~!
そして石碑!

「人ハ幸運ナラザレバ、非常ノ立身ハ至難ト知ルベシ運ハ即チ天祐ナリ天祐ハ常ニ道ヲ正シテ待ツベシ」つまり「成功というのは、たまたまの偶然にすぎない。それはまさに、天の助けによる思いがけない幸運である。その幸運を得ようとするなら、常に道を正して待ちなさい。」という意味。

松本さんにお伺いしたところ、わかりやすくいうと「正しい行いをしていくと、善い人が集まってきて、いざという時に助けてくれる」なのだそうです。また全国の花王さんの工場にも神社があるみたいです。
花王株式会社の皆様の根っこにある言葉なのかもしれませんね。

研究にフォーカス!

社内でおかえりブロックを使われている様子。遊び心を感じますね!

飯島
これは何ですか?

松本さん
これはサイクロイドというもので、サイクロイド曲線(円が転がっていく軌跡)になぞらえています。大人でも楽しんでクリエーションできるものを目指しました。組み合わせて使ったり、パソコンの台とかペンケースにしてる人もいます。

飯島
社内ではこちらのおかえりブロックも使ってるんですか?

松本さん
そうですね。この形でいろいろ活用してます。一番最近だと消毒台詰め替えパックが大体50個〜100個ぐらいあればちょうどいい大きさになるので、色々なところに置いてもらっています。あとはイベントの展示会。ものすごいゴミが出るんですね。ワ〜ッとブースを作って、そのあと解体して全部廃棄してしまう。そのような反省もあり、4年前のエコプロ展ではおかえりブロックでブースを作りました終わったら解体し、また別のイベントに使うことで廃棄物を減らしました。ただ時間がかかるんですよね。他のブースの皆さんはすぐに撤収されてましたが、我々は最後まで片付けていました(笑)

飯島
でもそういうブースの方がとてもらしさが出ますよね。

これまでのご経歴を教えてください。

松本さん
社歴としては35年ぐらいになりますが、最初の20年はものづくりをやっていました。化学系の大学を卒業して、シャンプーやコンディショナーなどの中身の化学原料を作る装置、化学工場の中の設備を作る仕事を10年ぐらいやってました。そのあと原料を配合して実際に商品を作る配合や製品を作る設備の開発をまた15年ぐらい。そのあと今度は社外との連携を企画する部署に異動し、学生さんに花王の魅力や研究開発の話をしていました。
現在はリサイクリエーションですね。使い終わった詰め替えパックをいかに集めるか。市民の方に活動を理解してもらい、自らが循環者の一員になり、リサイクルの一端を担うような、コミュニケーションの部分を担当しています。後半はモノづくりというよりも研究のおもしろさを伝えたり、資源循環の中に一緒に携わってもらうような人々の行動変容を促すために、どうアプローチし、どうコミュニケーションをとれば循環型社会が実現できるようになるか。私のキャリアの中では「モノづくり」と人々の「行動変容」という全く違う2つに取り組んできました。

飯島
研究と技術両方の分野でのご経歴かと思いますが、研究者と技術者はどう違うのですか?

松本さん
基本的にはものを作って世の中に出すのは技術者ですね。色々な解釈がありますが、研究者は今まで世の中に知られていなかった新しい知見を導き出すとか、新しい自然の法則を見出すなどで、ものを作るのはやっぱり技術者なのかなと。そういう意味では技術者なんですね。私の立ち位置は。

飯島
松本さんがやっていらしたのは洗剤などを造るための装置を設計するとか、造り方を考えるということに携わられていた、ということですね。

松本さん
そうですね。少し説明が難しいですが、料理に似てるんですよ。料理だったら鍋ですが、化学プロセスだと反応釜というところに原料を入れて熱を加えたり、冷やしたり、撹拌したり、そうやって別のものにして造っていく。そのような装置を開発していた、ということですね。

飯島
お料理だと分かりやすいですね。装置を作る時にどんなことが大事になりますか?

松本さん
研究者というと、試験管やビーカーで「これできたよ」というイメージが多いかと思いますが、実験室でできたものをすぐ世の中で使ってもらえるかというと、すぐには使えない。ちょっとしかできてなかったものを、一般の方にも使ってもらえるよう大量に作らないといけないですよね。私が携わっていたところは、研究室や実験室でできたものを大量に造るスケールアップという方法を考え、実際に造って一般の方にお届けするところまでをフォローしていくということがメインの仕事でした。

飯島
そこがないと、いくら小さく成功しても実際に商品にならないですもんね。

松本さん
スケールアップをすることによって、一般の方に使ってもらい、それで初めて世の中の役に立つというか。そのために必要な撹拌の羽根の形を変えたり、回転の速度をどうしたらいいか、加熱のやり方をどう変えていこうとか、そういった工夫をするような研究をしていましたね。

飯島
それはどのような工程になるのでしょうか?

松本さん
基本的にはビーカースケールで研究者が造ったものを、次はベンチスケール(ちょうど机の上ぐらいのサイズ)にし、そのあとパイロットスケール(一部屋ぐらいのサイズ)。最後に(実際の)フルスケールにしていき、何段階かに分けて行います。最近はコンピューターシミュレーションが発達してきているので、そのような途中の段階を省略して、コンピューターの中で計算し、それで大きな設備を作っていくというような工程ですね。たくさん造らないといけない時は、専用の大きな釜で造りますし、それほど量はないけど、多品種少量生産でとにかく色々な種類のものを造らないといけない時は、できるだけ共通の釜でレシピを変えて色々なものを造るということをやらないといけないんですね。

飯島
まさに先ほどいわれた料理のようですね。
こういった研究のモチベーションはどういうところにありますか?

松本さん
よく就活の時に花王の魅力を説明するのですが、ふつうの化学会社は中間原料を作るまでのBtoBのための製品。中間原料なので、最終のお客様は一般消費者ではなく企業であることが多いですが、花王の場合は最終商品まで造れる。原料であるヤシやパーム油のところから最後のお客さんに届く商品のとこまでを全部やっているので、自分の造ったものが最終的に消費者に届く、消費者の方に満足していただける、ということがモチベーションですね。うまくいけば、ですけどね。

飯島
私はまだ学生なので同じ仕事を10年20年長くやる時の想像があまりつかないのですが、どんな風に自分のできることが変わっていくのでしょうか。

松本さん
そうですね。化粧品などは商品サイクルが早いので、平均すると1、2年、長くても2、3年ぐらいのスパンで研究テーマはどんどん変わっていきます。そのぐらいのスパンで様々なプロセスを開発していく、という感じですかね。花王の中には2000名以上の研究員がいるので、ものすごい期間かけて執念のような商品を出していく人もいますし(笑)

飯島
一番思い入れのある、これは執念をもって接したなというようなエピソードはありますか?

松本さん
長く使っていただけているものがいいのかな。結果的にいいものはそこで評価されるのかなと思うので。そういった意味では、もう15年ぐらい販売していますが、コンディショナーやトリートメントの中に配合されているものには思い入れがありますし、やった感がありますね。

飯島
10年15年と長く使われている商品が改良される場合は、どういった要因で改良される事が多いですか?  

松本さん
事例を上げると、特に花王の商品は半年に一回ほどのサイクルでどんどん切り替わり、技術も進化していきますが、それと同じくらい世の中の動きを見ます。
例えば衣料用洗剤のアタックは液体ですが、粉の洗剤がメインだったことをご存知ですか?かなり粉が主流の時代があって、もっというとすごく大きな箱の洗剤がありました。それで1か月ぐらいしかもたないんです。それを1987年くらいにコンパクトにしたということが、花王が大きく成長した一つのきっかけです。
粉末の洗剤と液体の洗浄力、性能的にはそんなに変わっていないかもしれないですが、使いやすさや溶け残りがないだとか、世の中の変化や流れにのっとって形が全く変わっていくということもあるので、技術の進歩に合わせて商品が変わるという場合もありますし、世の中の動きに合わせて別の技術でやっていくという場合もありますね。

飯島
粉、驚きでした(笑)

松本さん
最近は粉の話も通じなくなりましたね(笑)粉の技術は今でも花王が一番だと思います。


ーー後編へ続く


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