『カタツムリレポート#3 三菱ケミカル株式会社』 後編
JST「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」地域共創分野(慶應義塾大学✖️鎌倉市)リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点の循環者学習分科会が運営するnoteです。こちらのnoteでは、子どもの目線でわかりやすく技術を伝えたり、研究者や技術者などの「みらいをつくる職業」をもっと身近に感じられるように、参画企業の取り組みやエピソードをインタビュー形式でご紹介していきます。
前編はこちら
研究にフォーカス!
1日の中で決めていること、ブレイクスルーする秘訣とは
飯島
お仕事の進め方などにフォーカスしたいのですが、1日の流れや研究が完成するまでどのくらいの期間と工程があるのか教えてください。
多田さん
明確に決めていることは、午前中は頭を使う仕事で午後は頭を使わない仕事という風に分けていました。朝早く起きるのが得意だったので、朝のフレッシュな状態のまま研究計画を練ったり、発表資料を作ったりということを一気に行い、昼食後はあまり頭が動かなくなるので、午後はひたすら午前中に作成した計画に沿って研究を行うという単純作業をするようにしてました。自分は午後に集中力がなくなる、ということを大学受験のときに気づいたので、それが今でも生きていますね。
研究のスパンはものによりますが、1年ぐらいかけてその研究が筋がいいかどうかということを見極め、ようやく成果が現れるのはやはり2年は必要かなと思います。最初の1年は失敗を繰り返して勉強し、2年目からようやくオリジナリティをきかせられるような感じでした。弊社の場合、1人がいくつもの研究に関わっており、その中で筋がよいものとそうでないものが見えてくるので、上司や他の人と意見交換して変更することもできました。そういうことを最初の1年ほどで見極め、私はあまり手を広げすぎないようにしていました。
飯島
研究計画の作成などは1人でされるのですか?
多田さん
そうですね。計画は1人で立てるのですが、研究アシスタントさんがいてその方に測定を依頼したり、この大きいフィルムをこれぐらいのサイズに切ってくださいというようなお願いをしていました。大体2人1組のペアで行います。よくありがちなのは、研究に没頭するとどんどん専門用語を使ってしまい、依頼が伝わりにくくなる、ということですね。アシスタントさんは粘着シートに詳しくない方の時もあるため、わかりやすく噛み砕いてお願いするという能力が鍛えられました。
飯島
モチベーションが下がったというエピソードなどはありますか?
多田さん
ありますね。新型コロナウイルスの影響で検討が後ろ倒しになり、先行きが見えなくなった時に、モチベーションが下がってしまいました。
でもそのときにどう立て直したかというと、自分がやれることをやろうと思い、いつか報われるからこれを真似されないようにしようと、自分の研究を保護するためにとにかく粘着シートに関する特許を出しました。「技術が守られる」とよく表現しますが、この研究の成果を形として残せたということで、ようやくモチベーションを立て直しました。外部で発表したり、サンプルをお客さんに渡したりすると、どこかで他社さんの手に渡って分析されて真似されてしまう可能性もあるので、その特許をいかに早く作るかという事が研究者たちに付随した使命かなと思います。
飯島
特許チームのようなものができたりするのですか?
多田さん
そうですね。研究者が書いた特許を知財グループでブラッシュアップしてくれます。そこでOKが出たらようやく出願という形になります。だから研究者同士のチームというよりも別の部署とチームを組むという感じですね。特許は自分の守備範囲が広い方がよいので、もっとこういうふうに書いた方が幅広く特許をかけられるよとアドバイスをくれたりします。そういう人たちもやはり粘着シートに関しては全然知らない場合がありますので、わかりやすく伝えることが一つ重要な能力でした。
飯島
そのようにスピード感があるお仕事では密な関わりになりそうですが、研究者の仲間同士ではプライベート以外でも研究の話になりますか?
多田さん
あまりないですが、共通の趣味を持っている仲間はたくさんいます。私の場合ボクシングが趣味なのですが、同じ研究者と一緒にボクシングをやってました。深め方がやっぱり研究者っぽくなるというか(笑)相手の癖を分析してデータを集めて、なんでこういうスタイルなんだろうとか、趣味にも研究を当てはめるところがあるのかなと思います。研究者気質というものはあるかもしれないです(笑)
未来にフォーカス!
目標としている姿は、イタコさん!?
飯島
現在の研究をどんな風に世の中に広めていきたいか、想いなどがあればお聞かせください。
多田さん
まず私自身が目指す姿というものがあり、研究者や営業など色々な部署の方がそれぞれの業界用語を使っているので、そういったワードを全部翻訳してあげるイタコみたいな役割になりたいなと思っています。先ほどのスパゲッティの話になりますが、専門用語を使うと「貯蔵弾性率が」という話になりがちなので、その辺りをちゃんと技術者の知見で理解しながらも、営業の方にはスパゲッティで説明したり、翻訳し、憑依させるような役割になりたいと思ってます。全員に伝わるようなコミュニケーションを取らないと、なかなか戦略は練れないと思いますので、独りよがりにならず、そのような姿を目指すために必要な知識として、経済学や経営学、心理学など多義にわたるような領域のことも勉強しながら、社内・社外を問わず、いいイタコさんになりたいと思っています。
素材メーカーはなかなか一般の方にはフォーカスされにくいため、特に外向けにも翻訳してわかりやすくアピールしていけたらと思います。
飯島
循環やリサイクルの観点で、またはこのコンソーシアムで取り組んでいきたいことはどういったことでしょうか。
多田さん
一つ自分の中で取り組みたいなと思っていることは、世の中的にも会社的にもやった方がいいアクションだけど、お金にならないときにやりたい人とやりたくない人が出てきてしまう。その辺りをどう説得して実行してもらうか、もしくは諦めるか、誰もが納得するように説明して自分で方針を決められるかということが課題です。そのために大事なことは自分の知識もちろんですが、それらを誰にでもわかるように納得するように説明する翻訳能力かなと思っています。
またこのコンソーシアムでは、素材メーカーの立場で(特にフィルムの)リサイクル化のしくみ作りを通じて、地域の循環型社会の構築に貢献していきたいと考えています。
これからの子どもたちに向けて
飯島
ありがとうございます。
では最後に次世代に向けてメッセージをお願いしたいです。ちなみに多田さんは子供のときは何が得意で、どんなことが好きでしたか?
多田さん
小学校のときからバスケットボールに夢中でしたね。担任の先生が教えてくれたことがきっかけで始めたのですが、身長が高い方ではなかったので不利なスポーツを選んでしまいました。でも背が低いなりに生かせるポジションがあるので、背の高い人にアシストを出したり、他の人よりもすばしっこく動いたりして、ある意味ハンデを背負っていたけど自分なりの居場所を見つけた、というところが小学生の時にチームスポーツに没頭して得ることのできた貴重な経験でした。
飯島
学校で学んでおいてよかったこと、一生懸命やってよかったことはどんなことでしたか?
多田さん
チームスポーツですね。高校までバスケを、大学ではダンスサークルに入りました。どちらもチームスポーツですが、時には思い通りにいかないこともたくさんありましたし、それでも半年かけて作り上げた作品を学園祭で発表したときは、みんな感動もひとしおでしたね。SFCのダンスサークル「W+I&S(ドゥブルベプラスアイアンドエス)」というところです。
飯島
私も大学でダンスをやっていました(笑)多田さんが入っていらっしゃったサークルの公演を高校生の時に見に行ったことがあります。完成度高かったです!
多田さん
学生時代はみんな人生をかけてやってましたね。半年もかけて作り上げるので、仲間同士揉めるし、色々な感情が入り乱れながら、終わったときは本当に感動でした。チームスポーツはやってよかったです。
勉強は本当に嫌いで、高2のときに唯一好きだった科目が有機化学でした。パズル的要素が多くて面白いなと思い、有機化学だけを勉強してました。他を割とおろそかにしてたので、実は大学受験は一度失敗してしまいました。その1年間は他の教科もちゃんと勉強して入学し、入ってからもやはり化学が好きでしたので、その学部に進みました。好きな科目に出会えたから勉強の楽しさを学び、でもそれ一本では勝てないという厳しさも同時に知ったので、他は平均くらいに保ちつつも、一本人よりも強いものを持つようにしました。
ダンスがまさにそうで、10種類ぐらいあるストリートダンスを全部をやる人もいれば、一つに絞る人もいて、私は一本に絞りました。そうするとその世界の深みを知り、そこで学んだことは他のところでも応用できました。バスケもドリブルだけを極めてましたし、ダンスも一種、受験も有機化学だけ。その方法は、私は自分に合っていると感じました。
バスケやダンスなど、役に立たないと思っていたそのときの経験が、意外と仕事に生きてきます。もちろん勉強でもいいし遊びでもいいから、一つ得意なこと、誰にも負けない武器を身につければ、自分の自信にもつながるし、応用もできるのでおすすめです。
飯島
好きの力って強いですよね。
多田さん
そうですね。あれだけ人前で見られる経験をすると職場で発表しても緊張も起きないですし、ダンスのパンフレットも作っていたので魅せ方というものを学びましたね。
飯島
学生時代の情熱、青春ですね。
多田さん
そうですね。もったいないですよね。そういう経験は一瞬で終わってしまうので、謳歌して欲しいですよね。
ーーー多田さん、ありがとうございました!!
インタビューする前はフィルムってそもそも… ?!という状況でしたが、多田さんにわかりやすく「イタコ」になってお話ししていただき、研究のすごさ、大変さを純粋に感じられた回だったなと感じています。一つを極めるという多田さんの素敵な個性、ダンスという思わぬ共通点も伺うことができ、楽しいインタビューでした。(飯島)