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『カタツムリレポート#9 大成建設株式会社』〈後編〉

「一人ひとりが循環者になる未来ってどんな未来だろう?」
カタツムリレポートは、よりよい未来をつくろうとする人達や研究者の方に、その研究や取り組みのワクワクをご紹介いただくインタビュー記事です。子どもたちが「みらいをつくる職業」をもっと身近に感じられるよう、参加企業や研究者の取り組みにググッとフォーカスしてお届けします。

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このnoteは、JST「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」地域共創分野(慶應義塾大学×鎌倉市)リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点の循環者学習分科会が運営しています。


〈前編〉はこちら

人にフォーカス!

大学院時代は研究船に乗り太平洋の深層循環を研究

飯島 大成建設さんの資源循環の取り組みについてくわしく伺ってきましたが、羽角さんは大学では建築を学ばれていたのですか?

羽角さん いえ、大学では海洋物理学を専攻して、海の深層循環に関する研究をしていました。研究船に乗って太平洋に出て、いろいろな地点で海洋深層の拡散係数(海の細かい混ざり具合)を計測して、気候変動予測の高精度化に役立てるという研究です。

研究船によっては太平洋を北から南まで何か月もかけて回っていて、その途中の2週間だけ乗せてもらってハワイ周辺を観測する、そういうことをしていました。卒業後の進路について考えた時に、建設業でも海洋構造物に関する研究をしているという話を聞いて、大成建設の門を叩きました。

飯島 そうなんですか! ちなみに技術センターにはたくさんの研究棟がありますが、どういったことをされているのでしょうか。

羽角さん この技術センターには分野別に13の実験用ラボがあります。建設業はまちづくりのすべての分野に関わるので、幅広い分野で様々な実験が行われています。
いくつかご紹介すると、地震の揺れに対する耐震実験、火災時を想定した耐火実験、地震の加速度がかかった時にどう変化するかを調べる遠心実験、風騒音の実験、建築材料の音響性能に関する実験など。幅が広すぎて私も全部は理解できていません(笑)

羽角さん 入社してからは水理研究室に配属され、波や津波の波力や水位変動をシミュレーションしたり、対策方法を検討する研究に携わりました。
臨海部での構造物として、桟橋や取放水路があります。桟橋の施工中に高い波が来たら仮設構造物が壊れてしまうので、どれくらいの波が来るかシミュレーションして波力を算定したり、発電所の取放水路というのは津波がくると水が押し寄せたり引いたりするのですが、押し寄せても溢れないか、引き波でも問題なく水をポンプで吸えるかといったことを調べます。
大学院での研究対象が水深5、6千mの深海で、入社してからは50~60mくらいの沿岸になり、かなり違って戸惑いましたが、なんとかやってきたという感じです。

その後、イノベーション戦略部に配属されてからは、防災、スマートシティ、資源循環など、分野横断的なプロジェクトを担当しています。

飯島 長く海に関わるテーマで研究をされてきたのですね。

羽角さん そうですね、バックグラウンドが海で、入社してからは土木分野に携わっていたのですが、今COI-NEXTで関わっている建築はまた違うんです。土木は例えば防波堤ならこれくらいの波に耐えられる機能を持ったものにしようと、機能性を重視するのですが、建築は人が関わるのでそれだけではなく意匠性が重視されます。そういった違いがありますが、ボルテックスシティにもあるように市民参加にはこの視点が重要だと思うので、社内の人に聞いて勉強しながら進めています。

未来にフォーカス!

50年スパンでの資源循環を次世代の当たり前にしたい

飯島 最後に、子ども達に伝えたいことや教育について教えてください。

羽角さん ペットボトルや紙などマテリアルフローが短い資源とは違い、建築で使われるものは短いものでも10年程度、ものによっては100年以上使われます。その長い時間のサイクルで資源をどのように循環させていくか。廃棄物を減らすというだけではなく、使い続けていける資産を増やすという価値観をどう伝えるか。子ども達や若い方と一緒に考えられるような学習の場を設けていきたいと思っています。

今の子ども達はプラスチックを分別して捨てることが当たり前になっていて、小さい頃からの習慣や教育の重要性を感じています。分別と同じように、どんなものでも長く使うことを考えて、それも5年後じゃなくて50年後100年後のことを考えて作らなければいけないんだなと、当たり前のように思ってもらえたらいいですね。

建築を考えるときには、田中先生も提唱されているリープサイクルのコンセプトにも関わってきます。リープサイクルとは「モノの価値が使うことで減衰した際のことをあらかじめ見越した工夫を仕掛けておく発展的なアップサイクル」ですが、このコンセプトを念頭に、何十年も先のことを考えた上での設計していく必要があると考えています。

また、資源循環と共にモノの価値を高めていく必要のあるボルテックスエコノミーでは、モノの歴史やストーリーも付加価値として含めて大切に使う循環の形を目指しています。安全や品質を担保しなければいけないので難しい課題がたくさんあります。でも、子どもの頃からそういったものを見ていたら、そういうモノのもつストーリーを含めて格好いいなと思ってもらえて、本当にいいものの価値観が変わってくるんじゃないかな、という気がします。

環境配慮型コンクリート「T-eConcrete®」。セメントを全く使用せず、産業副産物を有効利用しながら、CO2排出量の削減も可能。
森林資源の循環を目指すため、研究所内でも建築の木材利用を進めているそうです。
ゼロエネルギービルディング。マットな黒い窓は太陽光パネルです。
昨年150周年を迎えられた大成建設さんでは「TAISEI Green Target 2050」を策定され、最終処分率をゼロにする大きなターゲットと、3つの社会の実現(脱炭素社会、循環型社会、自然共生社会)と、2つの個別課題(森林資源・森林環境、水資源・水環境)の解決に取り組まれています。

飯島 長く使う大きな買い物でも、選ぶ段階でその先まで見えている、買うだけではなく循環者になれる住まいみたいなものができたら、全然違いますね。

羽角さん そうですね、サーキュラーエコノミーを意識した建築を求めてくださるお客様も少しずつ増えてきているように感じます。

モノの歴史やストーリーの部分でいうと、建築業でもデジタルで様々な情報が管理・蓄積できるようになる必要があります。建築物や土木構造物のデータ構築管理をするBIM(Building Information Modeling:ビルディング インフォメーション モデリング)というシステムで設計図をつくり、合わせて資材の型番を紐づけることができますが、現状では型番と詳細な材料情報は紐づいていませんし、そもそも材料情報の開示が難しいという問題もあります。

理想として、どこに何がどれくらいあるかがデータで分かると、必要なところに必要な分だけをこちらから持っていくといった調整ができるようになると思うので、デジタル駆動の部分もCOI-NEXTのコンソーシアムで連携して進めていきたいと思っています。まずはミニ建築からがんばります。

ーーー羽角さん、ありがとうございました!!
究極の資源循環の世界、「ボルテックスエコノミー」にワクワクを感じた取材でした。長い時を生きる建物においては、耐久性などとの兼ね合いは本当に難しいところだと思いますが、わたしたちの暮らす、働く、学ぶ場所そのものが資源循環の体現になったら、より愛される建物になりそうですね。
(飯島)


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