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『カタツムリレポート#4 株式会社 オカムラ ワークデザイン研究所』 〈後編〉
「一人ひとりが循環者になる未来ってどんな未来だろう?」
カタツムリレポートは、よりよい未来をつくろうとする人達や研究者の方に、その研究や取り組みのワクワクをご紹介いただくインタビュー記事です。子どもたちが「みらいをつくる職業」をもっと身近に感じられるよう、参加企業や研究者の取り組みにググッとフォーカスしてお届けします。
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このnoteは、JST「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」地域共創分野(慶應義塾大学×鎌倉市)リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点の循環者学習分科会が運営しています。
〈前編〉はこちら
研究にフォーカス!
子どもたちも先生も健やかでいられる環境づくり
飯島 続いて、森田さんが取り組んでこられた教育施設での研究にフォーカスします。学校を対象とした研究のテーマや実際の調査方法、そのデータがどう社会に出され活かされていくのか、一連の流れをお聞かせください。
森田さん 私が教育施設の研究を担当していた時は、主に初等中等教育にあたる小中高校を対象としていました。「どのような環境だと子どもたちの学びや生活が良くなるか」「多様な体験ができるか」といった研究を行いました。また、学校は教職員の先生方が働く場でもあると捉えているので「教職員の働き方」や「職員室のあり方」に関する研究もしました。
実際にどういった調査をするのかというと、例えば、子どもたちがどの場所でどういうふうに行動しているのか観察してメモを取る。同時に、先生方の行動も観察してメモしていく。すると、ここの場所がすごく使われるけどここは使われていないな、動線が交錯してうまくいってないな、というようなことが分かってきます。今だったらビーコンを使って調査をするかもしれませんが、当時はとにかく観察してメモをしました。
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その他にも、先生方の働き方についてリアルな意見をまとめるために、インタビューをしたりアンケートを取ったり、職員室を見学してレイアウトのデータを取ることもありました。
飯島 学校での研究調査は、公立と私立どちらを対象とすることが多いですか?それと学校にはどのくらいの範囲でご協力いただけるものなのでしょうか。
森田さん まず一つ目のご質問で、オカムラのビジネスとしては私立の学校が対象となっていることが多いです。
アンケートへの協力をお願いしたり、「この製品を使ってみてください」といった実験は私立と公立どちらも実施したことがあります。学校での調査研究は、教職員や子どもたちも含めた学校の許可と、場合によって保護者の方への確認も取ってはじめてできるので、ご協力いただける学校探しから始めます。
次に二つ目のご質問についてですが、アンケートなどは全校児童生徒を対象にお願いすることもありますし、特定の子どもたちや教職員に絞ることもあります。内容次第ですね。多目的室のように、どこか一部屋だけで新しいチャレンジをしてみようという時は、お互いにフットワーク軽く動ける私立の学校にお願いすることが多いと思います。
教室のレイアウトや家具を変えて実験を行う場合の範囲や規模感としては、空き教室に1カ月間など期間を決めて製品を入れて使ってくださいということはお願いできますが、今使っている教室のデスクを研究のために試作品のデスクに入れ替えてくださいというのはハードルが高いです。基本的には、現状で空き教室になっている場所や学校側が「ここを変えたい、改善したい
」と思っている部分とフィットすれば実験ができる、といった感じですね。職員室の家具をすべて変えてくださいというのはさすがに難しいと思います。学校はイベントやテストや受験の期間、夏休みなどもありますし、いつでも実験にご協力いただける訳ではありません。何よりも、子どもたちや教職員の皆さんにとってマイナスがないことが重要ですね。
飯島 先生方へのアンケート調査では、職場環境や働き方についてどのような声がありましたか?
森田さん 小学校と中学校でもだいぶ違いますが、小学校の先生は基本的に職員室でも、ご自身が受け持っている教室でも仕事をしていて、紙や物が多いので収納がないと困る、席がなくなるのは困る、子どもたちのタイムスケジュールで行動するので自由時間はない、といったご意見や要望が多かったです。
あと、ここが少し驚いたのですが、リフレッシュする、ちょっと休憩するといったこと自体を子どもに見られたらいけない、という感覚を持たれている先生がとても多いんです。職員室の中に休憩スペースを作ってみてはどうかというご提案をしても、それだと休憩する姿を子どもたちに見られてしまうといったご意見が出てきたりしました。
子どもたちと同じように先生方も健やかでいてほしいと私は思いますし、先生が健やかだからこそ、それが巡り巡って子どもたちに還元されていくものだと思っています。ですので、先生方のマインドを変えていくために環境で何かできないだろうかと考えています。
飯島 子どもたちの学習環境でありながら先生の働く場でもある。立場の違う人が同じ空間で健やかに在ることができる環境・・・悩ましいですね。
森田さん そうですね。そういった先生方が働く場の提案としては、職員室のフリーアドレス化について話題に上がることがあります。先生方が授業をしている間は席が空くのでそこを有効活用してはどうか、フリーアドレスだと学年で集まるのではなくもっと広くコミュニケーションがとれるのでは、といった課題解決のための提案ですが、実際には導入は難しいようです。
柔軟で自律した働き方の手助けになるデータを出す
飯島 森田さんたちが集めたデータは、その後どのように使われて、どう社会に定着したりものづくりにつながっていくのでしょうか?
森田さん 研究データは、論文を学術誌に発表するというのが一番アカデミックな方法です。それとは別に、オフィスワーカー、経営者、総務の方へ向けて、研究内容をわかりやすくまとめた冊子を作っています。そしてより広く直接社会に届けるために、Webサイトでコラムとして紹介したり、研究員が書籍を出版したりもしています。
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研究内容を小さなTIPSとして発信しているメディアはこちら
オフィスづくりのコラム(COLUMN)
森田さん 社会への定着については、そうですね・・・例えば、オフィスに3~5時間滞在している人はクリエイティビティが高いという研究結果を情報発信したことがあるのですが(リンクはこちら)、それによって働く人全員がそうなるとか、そこまでは思っていないんです。
研究所としては、柔軟に自律して働けることこそがベストだと考えていて、その手助けになるデータを出すことが我々のミッションです。例えば医薬品メーカーさんが薬の研究をして新薬ができて社会に実装されて使えるようになるといった技術研究とは、われわれの研究所の位置づけがちょっと違います。
そういうふわりとしたテーマで研究をする研究所ってあまりないのかもしれません。かつ、オカムラの中にはコンサルティングやスペースデザインができる部門もあって、そういったトータルで提案できることがオカムラの魅力なんじゃないかなと思います。
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未来にフォーカス!
プロダクト、人、地域、経済・・・大きな資源循環のサイクル
飯島 今、未来に向けて進めている資源循環の取り組みについて教えてください。
森田さん オカムラでは製造と販売の両面で廃棄物の削減やカーボンオフセットの取り組みを行っていますが、海洋プラスチック問題へのアプローチとして、他社さんと一緒に使用済み廃漁網からリサイクル素材を開発し製品に使用しています。
また、次世代教育として中高生の探究学習を応援するプロジェクトに昨年から関わっているのと、家具メーカーとして2つのテーマで環境出前授業を実施しています。テーマは「日本の木の文化や木材の活かし方を伝えるもの」と、「資源の大切さを伝えるもの」の2種類です。
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森田さん それから、広義の意味での循環として、岩手県釜石市でのワーケーションの取り組みもあげられるかもしれませんね。
オカムラでは、釜石市を含めた4者共同で「Nemaru Port(ねまるぽーと)」というワーケーション施設を立ち上げ、運営を協力しています。そこで開催するワークショップの企画などを行い、他の企業さんに来ていただいて、釜石のことや震災のことなどを一緒に学んで、仕事もして、食事もその街でする、お店も潤うし来たみなさんの心も潤う、そういう大きなサイクルで街を元気にしていこうというプロジェクトです。
首都圏からワーカーが出かけていって、その地域の方と出会ってお互いに活性化されて、新しいコミュニティができて、そこで学んだ知識や情報を企業に戻す。オカムラがワーケーションや共創という働き方を実践し発信していくことに意味があるのでは、と感じます。
飯島 資源循環とはプロダクトだけの話ではなくて、人や地域がつながって循環していく、そういった大きなサイクルでの捉え方でもあるのですね。奥が深いですね!
働くことをもっと考えていい、もっといろんなことにチャレンジしていい!
飯島 では最後に、ワークデザイン研究所での森田さんの夢はなんですか?
森田さん 働くことについてもっと考えていい、もっといろんなことにチャレンジしてみていいということを、広くいろんな人に伝えられるようにしていきたいです。
私たちはこれからは柔軟であること、自律して働けることが必要で、そのベースがあるからこそ環境を使いこなして成果を上げていけるんだと思っています。オフィスで働くことってこんなに楽しいよとか、こんなに自分で考えたことができるんだよということを伝えたい。
そして、大人がそういう風に働いている姿を見せることで、子ども達に自分たちで考えていいんだよ、「自分はこうしたい」と言って大丈夫、どんどんチャレンジしていいんだよと伝えていきたいです。
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森田さん 日本は制度を守ることや指示されたことをするという仕事観が根強いように感じます。その根底に、仕事を楽しんだらダメという感覚がある。楽しみたいけど楽しむようなものじゃないという、そういった調査データが出たことがあるんです。
学校でもいろいろなことが決められているんだろうなと感じる瞬間があります。先生方が健やかであるというのはごく当然のことなのに、忙しすぎて意識が向かない状況なんだと思うんです。ですので、仕事を効率的にできるような環境や、先生方が楽に使えるシステムを入れる、そういう手助けをオカムラ側が提案していきたい。
私たち個々人がもっと自由に裁量をもって働けるような未来があると信じて、そういう部分で研究所が役に立っていきたいなと思っています。
飯島 森田さん、どうもありがとうございました!
ーーー森田さん、ありがとうございました!!
製品やその配置一つで、働く環境が劇的に変わる、どんどんよくしていけるということを実感しました。またそれを使う人や使い方によって新しい発見が出てくることもあり、働く環境って追求し甲斐がありそう!と思いました。(飯島)