ショートストーリー『片手ちがい』
どうして、指が五本だと決め付けるんだい。確かに、今の主流は五本かもしれない。多くの人は五本だろう。生まれてきた赤ん坊の指を数え五本だとホッとしている親御さんも多いだろう。
だからって君、本当に五本無いといけないのかい? 君は本当に五本の指をすべて使いこなせているのかい? 例えば薬指が無くても生活には支障はないんじゃないかい?
そりゃあ、人は不思議なものを見るような顔をするかもしれないし、結婚指輪をはめる場所もなくなるだろう。でもたいして困らないはずさ。誰もそんなには使いこなせていないんだから、五本の指をね。
俺なんて生まれつき指が四本しかない。お前たちはファイブフィンガー、俺はフォーフィンガー、種族からして違う。でも肌の色が違うほどの差別は受けたことないね。
それにほら見てみろよ。バランスがいいだろう。パッと見では違和感があるが何がおかしいか一瞬迷うはずさ。そして気が付く。四本しか指が無いってね。でもどの指が無いのか判断がつかないだろう?
親指が別格だよ。こいつはあるのは誰が見てもわかるさ。でも他の指はどう判断すればいいかわからない。一番端についているから小指と言いたい気持ちもあるがもしかしたら薬指かもしれない。そう考えると、人差し指、中指、薬指、小指。どれがあってどれがないかなんてわからないのさ。
ボウリングの玉を投げるのにも苦労したことがないし手袋も一つ予備が空くぐらいで不便に感じたこともない。余計なことだが手袋はいつも薬指を空けることにしている。小指がないと思われると、ヤクザの指詰めだと勘違いするやつがたまにいるんだよ。そういう誤解を防ぐためにさ。俺としてはどっちでもいいんだがね。
それにさ、馬や牛は進化の過程で指が減っていったんだ。馬は蹄という指が一本、牛は二本だ。要するに俺は一歩進化した人間なんじゃないかな。使ってない指をなくして、よりシャープな手になったわけさ。
ハッハ、いいだろ、シャープって表現、俺の手にピッタリさ。
だから俺は自分の手に引け目なんて感じたことはないぜ。今言ったように優越感すら感じているんだ。
そんなわけで俺の基本は片手と言ったら四本、両手だと八本なんだ。だから四万円以上は払わないぜ。片手って約束だっただろう。まあ、人間食い違いってのはあるわな。種族が違うとしょうがないわな。
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