関係人口という落とし穴~地方活性化の本質とは~

関係人口増加策が声高に叫ばれてしばらく経つ。このコロナ19騒ぎで、根本からその取り組みが達成できなくなっているが、そもそも、関係人口を増やすことは地方活性化において効果はあるのか、そこにはどんな問題があるのかを論じてみたい。


① 関係人口とは

地方の人口はどんどん少なくなっていく。高齢者が取り残され、町の経済は縮小していく。それに歯止めをかけるために、関係人口を高めていくことをしましょう、と総務省が言うている。
さて、上記のリンク先にあるが、関係人口でもいくつかのパターンがあり、

・関係深化型(ゆかり型)
 その地域にルーツがある者等
・関係深化型(ふるさと納税型)
 ふるさと納税の寄附者などが地域により魅力を感じる
・関係創出型
 これから地域との関わりを持とうとする者を対象
・裾野拡大型
 都市部等に所在するNPO・大学のゼミなどと連携するパターン
・裾野拡大(外国人)型
 外国人との交流を促進し地域(地域住民や地場産業)との継続的なつなが
 りを創出する

という形がある。

しかし、いくつかの面でよい面があるものの、この取り組みでは効果が限定的すぎる、というのが筆者の見解である。


② 関係人口自体が目的化する問題

関係人口が増えることはいいことずくめに見える。住む人の意識が高まり、都会から移住する人が増えるかもしれない。ただ、それは机上の空論である。関係人口を増やすことだけが目的化する事態に陥りやすいのがこうした取り組みの最大の問題である。
関係人口が増えた結果、何がその地域に生まれるのか。
長浜市の取り組み事例は、地元のスタディツアーを試行し(モデルツアーの実施)、その取り組みを向上させるためのプロジェクトに昇華させる、という方針であるようだが、ではその先に見えるものは何があるのかが分からない。ツアーに参加する人が増えることであろうか。定住人口を増やすことであろうか。市民の取り組み意欲が向上することであろうか。おそらくそれのどれもである。


② KPI設定が緩すぎる問題

後日、こういった地方活性化における「正しいKPIの作り方」という題で書こうと思うが、事業をするときに目標を作ることは当然である。しかし、この手の類の取り組みは、「ツアー参加者○○人」「ワークショップ開催5回、参加者累計80人」などの目標が掲げられるが、『ではそれが経済的にどのような波及効果が生まれるのか』が算出できないものが多い。もちろん、このような地方活性化の取り組みは人の心理面(モチベーション)に働きかけるものであり、数字検証ができないということはある。しかし、それは厳しい言い方をすれば「逃げ」である。参加者数や開催回数はいくらでも(サクラなどで)作ろうと思えば作れるし、毎回のワークショップに同じ人ばかりでは、心理面で働きかけができた人は限定的ということになる(理想を言えば、開催回数ごとに参加者が増えることである)。


③ 最終ゴールが見えない問題

 そういった『具体的な』成果を見られない取り組みに対して冷めている地域の人はいる。というかそれが多数派だと考える。少なくともいくつもの市町村で取り組みをしてきた私の経験上そうだ。この取り組みをして、地域から出ていく人の数の率を○○%にします!働く世代人口流入〇人を達成します!をというようなことでないと、分からないのだ。しかも、自然発生的にそうなったのではなく、この取り組みがあったからそうなったと言えるような。


④ そもそも「関係人口創出」でなくてもやっていた問題

 この総務省取り組み自体に絡んでいる人が友人知人に多いので言いづらいが、はっきり言って自治体の多くが実際に取り組んでいる内容は、『創業支援』『コミュニティづくり支援』『都会とのつながりづくり事業(「交流」人口創出、観光戦略事業)』などで、従来からやってきたものばかりだ。実際、鳥取市の事業報告書では、公募説明会「鹿野とあなたが出会う場」の開催にあたり参加者を募ったが、そこに参加した30数名(3回累計)の参加者は、もともと地域で活動していたまちづくり協議会の力が大きかったとしている。では、あえて今更関係人口などという必要はない。その地域の取り組みを大切に育てることの方が、理解が得られるかもしれない。
 関係人口創出とは、結局『定住人口を増やす』という目標を表に出しにくい(成功する確率が乏しい)ことから出てきた言葉だと推察する。でも、定住してくれないと、自治体には何のメリット(住民税など)が得られないのだ。そうでないというなら、関係人口の経済効果を図るべきであるが、『費用対効果的に』交流人口(≒観光客、ふるさと納税)の増加施策と比べてしまうと非常に乏しいものになるだろう。だからこそ、「関係人口」などという言葉を使わず、まちづくり協議会など既存取り組みを精査し、成果が出ていないところは反省し、必要な施策・予算について本気で取り組むべきである。


⑤ 結局地域が困っているのは人材と企画力問題

 どの自治体の報告書を見ても、課題として挙げるのは「若い人材不足」である。それは、こういうプロジェクトを進める力になってくれる人がいないということだが、事務作業であれば年齢関係なくできる。問題は、若い人からの企画がないということだ。そして、若い人が少ないということは、企画が出てもそれが本当に費用対効果も含め練り上げられているかの検証に乏しくなるということだ。意見を言い出す人が少ないのだから。(まあ、若い人が多くてもその自治体の風土的に言い出しにくければ一緒なのだが)
 工業で有名な新潟県燕市はその「燕」に連想して、ヤクルトスワローズの神宮球場でのドラゴンズ戦にPR作戦を行ったとしている。しかし、『やるならどう考えても地理的に巨人戦だろ』とか、費用対効果が薄そうだな、ということしか浮かんでこない。新潟にドラゴンズファンが多いなら別だが、どう考えても巨人ファンが多そう。また、それならアルビレックスとなんかやってやれよとも思う。
 私なら、『全国の工業高校の卒業生で、技術者として働いているけど、人間関係や給料体系に不満があり、新天地で働いてもいいと思っている』人を対象にする。そして、燕市内の人材不足や後継者不在に悩む企業に対して、人材育成の基本的なことができている&教育体制が整っている&給料を若い人にもしっかり出そうとする企業であれば人材をあっせんする、という条件で参加を募集し、お金もちょっとずつもらい、燕市で『最先端の研修を受けられます!無料で!といいつつ実は全国からのヘッドハンティング』取組をしたい。東京都台東区墨田区江東区、大阪府東大阪市あたりの中小企業にばらまく。そこら自治体とガチンコ喧嘩するつもりでないとできないと思うが。
 プロ野球の観戦者で、短いPR時間で燕市に興味を持つ人が本気でいると思っていたのであればそれは短絡的としか言いようがないし、自治体による「地方活性化頑張ってます!」アリバイ作りと取られても致し方ない。


⑥結論 今までの取り組みを徹底的に見直せ

 ④でも述べたが、問題の根本は「今までいろいろやってきたけど効果が出ていない」ところに対して真剣に反省していない、自治体及び国と協議会商店街まちづくり会社などその地域の団体の問題がある。やった気になっているだけではなく、「定住人口〇〇人増やす」「体験型・寄付型ふるさと納税○○○円達成する(購入型では物売り合戦になるのであまり意味がない)」などの明確な目標を定めるべきだ。絵に描いた餅のような数字ではなく、現実的なものを。であれば、本気でその数字を達成しようというモチベーションが沸かない。私は過去百貨店食品部営業として、目の前のお客に、今日の売上の「あと10000円」に対して真剣に取り組んできた経験がある。そのためにどんな工夫が必用かを毎日考え取り組んできた。
 地域活性化に必要なのは、「関係人口」などという緩いお題目でなく、「目の前のこの衰退を食い止めるために、一人でもここにこれから住んでいただく」という意思である。そのためには、地域コミュニティの再構築(≒田舎的な、排他的な考え方を『徹底的に改める』など)、『本当に若者から選ばれて長く続けられる』仕事づくりが必要になってくるはずだ。

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