政治や政策を知る人、問題を解決しようとする人ほど有名人の「検察法改正反対」に賛同できない理由
キョンキョンこと小泉今日子さんが、「調べて、勉強して、その上でこの法案に反対します」という態度を示して、称賛されているようだ。一方で元AKB指原莉乃さんの判断を保留した態度は賛否もある。
話題を呼んだ例のハッシュタグだが、法案自体の持越しでいったんは収束するかに見える。ただ、この動きが本当に政治に対して「多くの人が声を上げて、政治について関心を持つ」という動きになるかどうかは甚だ疑問である。
法案(改正案)は、ざっくりいうと
(1)現状で不都合なところがある
公務員の定年、種子法、税制、年金問題、、、
(2)その不都合を解消するために、ルールを変える必要があると判断すれば、どう変えたらいいかを議論する。これには有識者、民間からの代表者も入る。
(3)法案が行政府の間でまとまり、与野党議員が構成する委員会で検討される。ここで法案ほぼ決定する。このあと内閣がいろいろ付け足すこともある(今回の改正問題の根源)
(4)国会で審議を経て可決
ということになる。
なので、今回騒がれている(3)の内閣が勝手に付け足した特定の幹部定年延長が、安倍総理の独裁だと騒ぐのは一見正しいように見える。ただ、それは安倍総理が言い出したのかはわからない。
それよりも、幹部定年延長はそもそもありうる、行ったほうが良いかどうかの問題が(1)であったのか、(2)(3)で議論されていたかどうかを見るべきなのである。たとえば、大きな事件で紛糾しているときにトップが変わることがあるほうがいいのか無いほうがいいのか。その部分を見るべきで、いきなり安倍総理の独断と偏見で入ったというのはおかしい。黒川氏がどういう人物かを知らずに語るのもどうかと思う(そもそも民主党政権下から要職にいる人である)。
有名人の何人かは、このハッシュタグ騒ぎの中で、「国会をチェックして正さなければならないと思った」などというが、本来は(1)や(2)の段階で声を上げるべきだし、有名人であればあるほど、国会ではなく(1)の問題をもっと明らかにするべきだと思う。グレタなんちゃらさんの環境問題はおいておくとして、貧困や世界平和に対する声を上げる有名人はいるが、そういう『ざっくりとした』問題ではなく、具体的に言えばシングルマザーで夜の街で働かざるをえない人が今回のコロナ騒ぎで、雇用調整助成金の対象にならないなどの問題などに声を上げるべきだ。
政治や政策に詳しい人、もしくは、(1)で述べたような課題に日々立ち向かっている人は、一つの課題解決のため、法律改正にまで行くのが並々ならぬ道であることを知っている。ちょっとした「子ども食堂」のために行政の支援(それが数万数十万でも)を得るまでにも多くの困難があることを知っている。ちなみに子ども食堂は大切な機能だが、家庭の貧困を解決する根本手段ではない。それを解決するには税制や支援機関の拡充、シングルマザーなどの貧困世帯の親世代に対する就労支援・能力開発支援、こどもの教育機会への支援が必用で、それは非常に大きな労力を必要とする。本当にこの国のことを考えているのであれば、(1)から(4)までの仕組みを理解してそれに対する努力をしている人こそ注目されるべき。国会だけ厳しく見ていればいいというのは、法治国家、代議士制度の否定である。安倍総理がどうのこうのいう問題ではない(ただでさえ、コロナ問題の対応等で首相は独裁者でもなければ決断力もない、党派内でも支持が盤石とはいえない政治家であることが分かってしまった)
有名人が政治発言をするなというのではない。政治とは政治家が国民をないがしろにするものではない。ただ、国民が(1)のような問題に対して無関心であれば、政治家は国民と離れていくだろうが、そうならないためにも多くの人が(1)に目を向け、問題があると騒ぐだけではなく、日々意見を出すべきである。それが本来の「政治的発言」ではないだろうか。どんな問題があり、どうすれば解決するのか。そういう議論が必用なのに、「安部は独裁者」などと、問題を不当に単純化する。政治や政策のために日々悩んでいる人、課題を解決しようとしている人は、問題の根本は政治家個人の資質などに関わるものとは思っていないため、有名人の発言には共感できない、むしろ不快感を覚える人もいるのである(もちろん同調する人もいるが、その人は問題解決には向いていない人だったりする)。Twitterなどでこのハッシュタグブームに疑問を呈した人の心理はこういう側面がある。
阪神タイガースが弱いと、たいがい監督が無能だと声が上がる(少なくとも過去何人かは本当に無能だったりするのだが)。そうではなく、右打者の強打の助っ人を補強すべきとか藤浪はトレードして次の世代の抑え投手を獲得するべきとかが課題解決への対策であって、監督の首だけ変えればすぐに強くなるのであったら、どこの球団もそうなる。選手層と監督はじめ現場首脳陣とスコアラーなどバック部門とフロントの方針が重なって結果が出てくるのである。ちなみに今シーズンは短縮になったので、投手力が他球団に比べて良いタイガースは2位あたりになれると予想する(1位巨人、2位阪神、3位横浜、4位広島、5位中日、6位燕)。
有名人の方でも、しっかりと(1)の課題を解決するために発信したり活動している人は多い。世界平和などのレベルではなく、本当に生活に密着したレベル(こども食堂の支援など)で。ただ、それが本来の「政治的議論」までには及んでない気がしてならない。今回のタグによる議案提議の持越しは、「民衆の無理解により課題の解決が先延ばしにされた」悪しき例となる気がしている。