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SとMと黄金の左手

この年末年始は約2週間ほど妻の実家で過ごしている。理由は、妻が里帰り出産で第二子を産んだばかりだからだ。めでたい。2人目が生まれたことを受け、わが家における子守の役割分担は、よくあるように、下の子を妻が、上の子を私が、メインで見るようにしている。ちょっとしたコンビ結成だ。

まるで『わがままなお坊っちゃまと爺や』のような長男と私のコンビは、今日も仲良く午前中から庭で遊ぶこととした。と言っても私が決めたわけではない。お坊っちゃまの良きタイミングで手を引っ張られて外に連れ出されることが大半だからだ。

1歳8ヶ月の長男は今日も左手の親指を吸いながら(親指を吸っていない時間と吸っている時間がおそらく半々くらいで、彼の手は常にお風呂に長く入り過ぎた時のようにシワシワだ)私の手を引っ張り、玄関に通じるドアをノックする。「開けろ」の合図だ。この親指をいつかタバコにかえたりなんかしたら爺やは悲しい。という冗談はさておき、まだ1歳なのに何て男らしいんだ。いや、これはタダのわがままだろう。

そんなこんなでいつものやり取りを終えて庭に出てから、彼は庭の塀に手をかけ、フランス語っぽく聞こえるが成立してない言葉を、塀の向こうのみかん?の木に投げかけていた。そしてその様子を見守る私。私の任務遂行力に若干懐疑的な妻も玄関から微笑ましくその様子を見守る。ほんの数分間ではあったが、フランス語っぽく聞こえる1歳の言葉を聞き、言葉の先にあったみかんのような果実を見た私は、フランスの国民的炭酸飲料を思い出す。

少しして、木々との会話という高尚な遊びに飽きた彼は、倉庫からいつもの玩具を取り出すべく、またしても私の手を男らしく引っ張った。そんな私も必要とされる喜びを感じながら口元が緩む。彼の小さくも意志強固な左手は、私の毛深くも従順な左手を引っ張りながら倉庫の前へ。

倉庫のドアは上半分に窓ガラスが付いているため、自分の姿が窓ガラスに映った。ふと見ると左頭部の寝癖がひどい。これではお坊っちゃまのお供は務まらない。反射的に右手で左頭部の寝癖を直せるほど器用ではないので、彼に握られていた左手を一時的に振りほどき、髪の付け根どころか、左頬のあたりから大胆に、頬を、そして髪を撫で上げた。

瞬間、頬に違和感と、微かな臭いを感じた。それが鳥のフンだと気づくのに時間はかからなかった。ああ、そういうことか。彼がさっき塀に手をかけて木々と会話している時に、その意志強固な左手はこれに手をかけていたわけか。なるほど。それが、リレーのバトンパスのように私に受け渡されたということか。そう言えば私たちコンビだもんな。

その時妻は、文字どおり腹を抱えて笑っていた。本当にお腹が痛いと言ってちょっと涙目だった。なぜなら彼女は帝王切開の傷がまだ癒えていなかったから。私は、散々だと思って若干うなだれてはいたものの、妻が痛がりながらも笑ってくれるところが、本当に本当に申し訳ないが勝ったような気がして嬉しかった。ただやはり妻の方が最終的には上手だった。彼女は最後に一言こう言った。

「宝くじ買わなきゃね」

2017年は酉年。左手でチャンスを掴もう。

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