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約300人規模のNPO組織で、一体感をつくる「カタリバ全社会議」の舞台裏

5月19日・20日の2日間、石川県加賀市でカタリバの職員とパートナー、約135名が参加した「全社会議」が開催されました。

現在、カタリバは300人規模の組織となり、首都圏から地方拠点、オンライン事業まで多様な働き方を実践しています。また子どもたちに直接関わるだけでなく、学校・先生・自治体・保護者など多くのステークホルダーと連携し、社会課題の解決と価値創出に取り組んでいます。

年に一度の全社会議は、組織の一体感を高める機会として2013年から毎年開催されています(コロナ禍ではオンライン開催)。

今回の研修後アンケートでは、約9割が研修の関連度、有用感、自己効力感の項目において高評価を受け、入社10年目の地方拠点の方、コーポレート部門、入社1年目の方々からも好評な結果となりました。

研修後アンケートを実施。参加者135名中88名が回答(回答率65%)。

どのように思考を巡らせ、どんなコンテンツを準備したのか、その裏側をご紹介します。本記事は、全社会議のプロジェクトマネージャーを務めた広報部のあべあいりが筆を取ります。

同様に社員研修の設計や組織の一体感を高める方法を模索している方々にとって、この記事がヒントとなれば幸いです!


地震被害を乗り越える石川県加賀市での、カタリバ全社会議の開催背景

カタリバの全社会議は毎年、社内で実行委員となるコアメンバーのもと、移動・宿泊のロジやプログラムをつくる、ほぼ自給自足型の体制で開催しています。

実行委員のキックオフは3月下旬。準備期間は2ヶ月弱で、移動・宿泊のロジやプログラムをつくることとなりました。

開催地は能登半島地震の影響もあった石川県加賀市。はじめは「このタイミングで石川県に行くのは迷惑じゃ…」と頭をよぎりました

加賀市は「加賀温泉郷」と呼ばれる温泉地で、能登半島から距離があり被害は比較的少なく、発災当初から二次避難先として多くの避難者を受け入れています。新幹線駅が開通し、観光客が増加すると思いきや、地震による自粛ムードの影響か、思っていたよりも観光客の足が戻らないのだといいます。

カタリバは災害以前から不登校事業において加賀市と連携協定を締結しています。そのつながりのなかで、発災後、いち早く二次避難者を大勢受け入れている「加賀百万石ホテル」の一角で、カタリバも二次避難者の家族を対象に子どもの居場所・預かり支援「みんなの子ども部屋」を設置。

約2ヶ月間に渡る居場所支援がきっかけとなり、この度石川県を応援する意味も込めて「加賀百万石ホテル」での開催に至りました

能登半島地震の二次避難者をいち早く受け入れた「加賀百万石ホテル」。ホテルのご協力もあり、カタリバは子どもの居場所・預かり支援「みんなの子ども部屋」を開設。開設当時の様子。

全社会議をつくるうえで大切にした「語り合いで生まれる熱を体感する」こと

約300人の組織規模となると、共通認識をもつことが難しくなってきたり、働いている仲間同士も深く話したことのないまま働くことが増えたりするタイミングではないでしょうか。

カタリバに3年ほど在籍している私も「チャット上では名前を見かけるけれど、あまり知らない人」と一緒に仕事をする機会が増えてきました。とはいえ、コロナ禍に新卒社会人となった私にとっては、ある意味当たり前で、それでも組織運営ができているため、気にしたことはありませんでした。

「組織」といえど、私が想像できるのは自分が所属するメディアリレーションチーム及び広報部くらいのもので、経営やマネージャーの視野と比べて狭かったため、組織の課題やありたい姿をイメージすることからスタート。

代表 今村と実行委員で何度も打ち合わせを重ねて、経営者が考えている組織像を捉えていきました。なかでも印象に残ったのは次の5つです。

●社会課題解決には明確な正解がないが、対話を通じて最善の解決策を見つけ出すことができるとカタリバは信じている
●NPOとして、社会にインパクトを生み出す野心を持つことが必要
●組織基盤が強化されたなかでも、ハングリー精神と熱意とスピード感を持ち続ける組織にすることで、さらなるインパクトを目指す
●職員が視野を広げられ、自分の役割の重要性を感じられる機会をつくることが大切
●ワンチームの意識を育み、組織全体として体現できているインパクトの実感、これから実現したいインパクトの共通認識をもちたい

つまり、NPOの業績やインパクトについて経営者と対話する場ではなく、どんな役割の人でも、一人ひとりが思いや考えを発露し、お互いに火を灯し合うような創発的な場が全社会議には求められていました。

そこで組織基盤や規模が強化されるにつれて、希薄化しがちな一体感を高めることが重要と位置付け「一人ひとりが対話を通してカタリバの熱源を体感する/熱源を生み出す存在になる」ことを目的と設定。

主なターゲットは入社1〜3年目のメンバーと設定し、カタリバという組織全体で物事を考える機会を通して、組織のアセットを活用しながら自己成長やインパクトを生み出すことへのコミットメントを高められる状態を目指したいと考えました。

研修評価はカタリバの理事でもある中原淳さんの『研修開発入門 「研修評価」の教科書 「数字」と「物語」で経営・現場を変える』を参考に、研修の関連度・自己有用感・自己効力感を測定し、熱源に関しては自由記述で測定することとしました。

そして研修全体を通したテーマを「3年後、カタリバは何を強みとして言い切れる組織になっているか」と設定しました。

プログラム設計の舞台裏。個を持ち寄る対話による「みんなでつくる」全社会議の実現

はじめに伝えておきますが、全社会議のプログラムづくりは大難航でした(笑)。
ここでは難航具合は割愛しますが、開始当日の朝まで議論があったとだけ伝えますのでお察しください。

さて、プログラム設計も、はじめは大切にしたいポイントをすり合わせることからスタートしました。

「みんなでつくる」を意識:メンバーは全社会議においてお客さんではなく、つくる側
個を持ち寄って話せる:普段の役割をおいて、個のストーリー、価値観、考えで語る
お互いに刺激し合い、学び合う:半学半教。みんながコンテンツになり、学びをつくる

この3つを叶えられるプログラムを、あれやこれやと考え、次のようなコンテンツが生まれました。

●インスパイアセッション・事前課題
●アクティビティ/YOUは何しにカタリバへ
●トークセッション
●ホームグループワーク
●プレゼンテーション

インスパイアセッション・事前課題

研修前のインプットと事前課題を設け、予め共通言語をつくり、自分と向き合う時間を設けました。
カタリバの強みを考えるにあたり、組織を超えて社会や業界の変遷を学び、視座を引き上げ、共通言語をつくることを目的としました。

インスパイアセッション

社会潮流や教育の歴史、これまでのソーシャルセクターの変遷を知り、これからを考えるヒントを掴むためのセッション。Zoomでのオンライン講義を実施し、リアルタイムで参加できなかった方はYouTubeで動画視聴。全部で3時間超えとなる動画ですが、事前に視聴してきてもらいました。

■第1部:カタリバ ディレクター兼兵庫県立大学准教授 菅野祐太「日本の教育変遷とカタリバの歩み」
■第2部:カタリバ常務理事 鶴賀康久「NPO・ソーシャルセクターの変遷」

事前課題
自分の仕事から振り返る【個】や【チーム】の強みや苦手の抽出を目的としたワーク。

子どもたちとの現場で働く職員もいれば、中間支援を行う事業、経理等のコーポレート部門など、さまざまな役割があります。いずれも参加するすべての人が取り組みやすい課題をつくらねばなりません。事前課題ひとつとっても多くの方に意見をもらいながらつくりました。

【裏話】
インスパイアセッションのオンライン講義を菅野さん、鶴賀さんに依頼をしたのは、実施予定日の4日前。無理を承知でお願いして、セッション内容や資料を用意してもらいました。動画は参加者以外にも全社向けにオープンにしたことで、参加が叶わなかったインターン生も視聴するなど、共通言語が全体に生まれました。

アクティビティ・YOUは何しにカタリバへ

アクティビティは「王様陣取り」というゲームを行いました。思いの他、大盛り上がり。

はじめに、オフラインで集まる意義を感じられるコンテンツかつ、個を持ち寄れる仕掛けとして、近くの公園にてアクティビティと自分のストーリーを語るワークを実施しました。

誰でもできて、チーム対抗感があって、意外な一面も見れるようなアクティビティを社内のユースセンターチームに依頼。功を奏して、大盛り上がり。その後、話したことのない人を交えた4人組をつくり行った、自分がどんな思いやテーマを持ってカタリバに参画しているのかを語り合うワークでは、涙あり笑いありの時間となりました。

【裏話】
会場の手配は、現地加賀市で活動するメンバーと自治会の協力により実現できました。また以前からつながりのあった音響さんも開催日直前のご連絡にも関わらず駆けつけていただき、音響を整えてもらいました。
またアクティビティを運営してくれたメンバーとも、何度もブレストを重ねて決まった「王様陣取り」は大盛り上がり。短い時間でコツを掴み、戦術を考えるメンバーも。(笑)

トークセッション

8つのテーマを設けたトークセッション、スピーカーが話すだけでなく聞き手と
インタラクティブに進めたことで学びを引き出し合う場が生まれていました。

大切にしたい3つのことを包括する試みとして、参加者の半数以上を巻き込み、8つのテーマでトークセッションを実施。普段の業務では語られにくい、原体験や違和感など、感じていることを率直に話してもらう場を用意しました。

●社歴が長い(5年以上)の方
●社歴3年目くらいの若手の方
●他セクターからソーシャルセクターに来た方
●親和性のある領域でひとりで事業をしてから、組織にジョインした方
●カタリバにUターンしてきた方
●学校の先生・スクールカウンセラーを経てカタリバにきた方
●教育機会・支援を受けた側からカタリバにきた方
●元インターンから職員になった方

参加者は自由に聞いてみたいテーマで話を聞き、カタリバの強みを考える上でのヒントを得る時間をつくりました。

【裏話】
ファシリテーターを含めた4人1組のグループを14組つくり、2ターンに分けて実施。スピーカー・ファシリテーター合わせて60名近くが、このコンテンツの担い手となったトークセッション。事前説明会は研修の2日前(笑)。 そんななか、快く引き受けていただいたことで学びの詰まった場がつくれました!

ホームグループワーク・プレゼンテーション

一人ひとりの事前課題・YOUは何しにカタリバへ・トークセッションを通して得た
ヒントをもとに「カタリバの強みは何か」を議論し合いました

ホームグループ(HG)とは、2日間の研修をともに過ごす5人組のグループです。これまでに得たヒントをもとに、カタリバの強みをHGごとに考え、プレゼンを実施しました。HGは所属年数・事業部・男女バランス・対話バランスなどを鑑みながら策定。HGで自己開示や考えを発露、対話ができることを意識して設計しました。

25チームあるHGが8つのグループに分かれてプレゼンし、さらにグループごとに強みを抽出するプレゼン+ワークを試みました。カタリバにはファシリテーションができる人材が多く、議論の場を任せることができるのも強みのひとつだと改めて実感。ファシリテーターとグラフィッカー(記録係)に分かれて各島での議論を深めました。

【裏話】
ファシリテーターが集められたのは、当日のプレゼン30分前(笑)。
ライブ感満載ですが、その場をみながら、どんなスタイルでワークをするか考えるのもカタリバ流です。全社会議の準備中からオフィスにいる私に「全社会議、なんでもやるから言ってね」と声をかけてくれてありがとうございました!

一人ひとりの物語が交差する、奥深い学びの場ができた本当のところ

ここでは2日間の社員研修のプログラムが、どのような目的や設計思想のもとにつくられてきたかをお伝えしました。当初設定した目的、プログラム設計での3つのポイントは、それぞれアンケート結果からも達成できたといえそうです。

●初参加で脳みそから汗がでるほど考えまくった2日間だったなと思います。 みんなで社会を変えていくことができる組織だと、対面で話したことで身をもって実感しました。

●お互いの異なる景色をシェアしながら、ひとつの強みを考えたことで、組織としての一体感を感じることができたり、組織の魅力やアイデンティティを再確認できる貴重な機会となりました。今回は多くのメンバーが参画できるようなさまざまな仕掛けがあり、自分もこの場をつくる一員であると感じることができました。「みんなでつくる全社会議」というコンセプトを掲げていただいたこと、とても嬉しく思います

●事業部メンバーからの「"働きやすさ"や"安定"と"パッションを発揮すること"は相反するものではなく、そういった基盤があるからこそ安心してパッションを発揮できる」という発言。コーポレート部門の自分の仕事はカタリバで働くメンバーが安心してパッションを発揮できる基盤をつくり、メンバーを守ることなのだと改めて認識できた

今回の全社会議がうまくできたのは、紛れもなく多くの方々の協力がありました。

元旅行会社に勤めていたメンバーを中心に結成された、移動や宿泊の手配を行うロジチームが、完璧に仕切ってくれました。そのおかげで、プログラム設計にたっぷりと時間を使うことができました。

プログラムを一緒に設計してくれたメンバーも、忙しい合間を縫って昼夜問わず打ち合わせをするなど、他の仕事が進まないほどコミットしてくれました。

また夕食や懇親会のコンテンツを考えてくれた、懇親会チームのおかげで、話したことのない人と新たな出会いが生まれる場ができました。他にもバックオフィスの方々、プログラムや事前準備のサポートで突然お呼び立てした経営ボードやメンバーも沢山います。

実は全社会議の前日には、能登半島地震の支援を続けているメンバーが企画した、能登地域でボランティア活動をするオプショナル研修も実施しました。(任意参加で、現地のご迷惑にならないよう留意をした上で実施しています。)

そこで能登半島地震で被災された輪島塗の職人さんのご自宅を、カタリバメンバーが片付けを手伝い、そのお礼にと、全社会議の夕食時に輪島塗の販売を行っていただきました。顔が見えるあの人を応援できることは、私たちにとって大変ありがたい機会でした。

そのような私たちのさまざまな要望に対して、温かいご理解とご協力をいただいた、加賀百万石ホテルの方々には心より感謝をしています。ホテルスタッフの皆様の細やかな心遣いやサービスに触れ、一流の対応と思わずにはいられませんでした。

本当のところPMの私がしていたのは、協力者の皆さんに電話をかけて要望とお礼を伝えることくらいだったな、と思う他ないほど、このように多くの方の協力によって、まさに「みんなでつくった」全社会議が成り立ったと感じています。

この体験によって、私自身が組織を多角的に捉えられるようになったとともに、多くの人の心遣いに触れ、成長できた機会になりました。皆さん本当にありがとうございました!

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こちらでも全社会議の様子をお伝えしています!