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スマホ利用は1日9時間ーー今どきの多忙な女子高生が、区が設置するサードプレイスに集うわけ

今どきの中高生たちには、可処分時間の使い道が無限にあります。

YouTubeやTikTokで好きなアーティストの動画をみたり、Netflixでドラマをみたり、InstagramやLINEでコミュニケーションを楽しんだり、Twitterで好きなアイドルの情報を集めたり……友だちと買い物に行ったりカフェに行ったりすることもあります。部活や習い事もあるし、何より勉強も。

そんな忙しい合間をぬって、中高生たちが集まってくる場所が文京区にあります。認定NPO法人カタリバが運営する 、“文京区青少年プラザb-lab(ビーラボ)” です。

b-labは、文京区が設置する教育センターの中につくられた、中高生にとっての家庭でも学校でもない自由な居場所。文京区に在住・在学・在学している中高生なら、だれでも利用することができる場所です。年間2万人以上の中高生が集まってきます。

サードプレイス・居場所・ユースセンターなど、さまざまな呼び名があるb-labは、なんだか不思議なところ。

行政がつくった立派な建物の中に入ると、児童館ともカフェとも学校とも図書館とも違う空間が広がっています。

イベントやクラブ活動のようなものが日常的に開催されていて、あちこちに参加者募集の貼り紙が。利用者の中高生たちは、友だちと談笑したり、スタジオでドラムを叩いたり、ホールでダンス練習をしたり、ゲームをしたり、スタッフと話したり、カウンターでヘッドフォンをして勉強に集中していたり……思い思いに過ごしています。

なぜ中高生たちは、たくさんある選択肢の中からこの場所を選び、集まってくるのでしょうか?

b-lab運営団体のNPOカタリバ、新人広報担当者のわたしが、利用している高校生にその理由を聞いてきました。

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安心安全で、行くと何か楽しいことがある場所

話を聞いたのは、2人の高校生。れいなさんとかれんさんです。いま1番はまっているものはK-POPで、推し活が楽しいと笑う15歳の少女たち。コロナ禍で中学校生活を送り、今年の4月に高校生になりました。

インタビュー中、通りすぎるスタッフや中高生にやわらかい笑顔で手をふる様子から、「ああ、ここは彼女たちにとって居心地のいい場所なんだな」ということが伝わってきます。

2人とも、毎日3〜9時間ほどスマホを開き、動画コンテンツや友だちとのDMを楽しむのが日常という、今どきの高校生。部活も勉強もあり、毎日が忙しく、充実しているようでした。

そんな彼女たちが、あえて放課後に訪れるb-lab。2人にとってb-labとは「フラッと行くと友だちがいて、いい距離感で見守ってくれる大人がいて、安全で、行けば何か楽しいことがある場所」なんだそうです。

――なにがきっかけでb-labに来るようになったんですか?

れいなさん:「学校が終わるとすぐ家に帰るんですけど、勉強しないで帰るのは罪悪感があって……b-labが入っている建物の2階に、集中して勉強ができる自習スペースがあるんです。その自習室を使いたくて、放課後に立ち寄るようになりました。

最初は知り合いもいないし、わいわいにぎわっている1階のスペースに1人で行くのはなにか気まずくて。自習室だけを使っていました。

でも、たまたま『マナビ場』というみんなで自習をする勉強会のお知らせを見つけて。勉強会だったら……と勇気をふり絞って、1階に初めて行ってみました」

――はじめは一人でもくもくと自習をする場所だったんですね。勇気をだして参加してみた勉強会はどうでしたか?

れいなさん:「勉強会に行ってみると、ただ勉強するだけではなくて、スタッフさんたちが色々と話しかけてくれました。好きなことや趣味なんかも聞かれて。たのしく話していると『それだったら今度こういうイベントがあるよ』『あの子もこれが好きなんだよ』と、どんどん交友関係や過ごし方を広げる提案をしてくれたんです。

b-labの安心安全なマッチングシステムって、すごいんですよ!

スタッフさんと雑談していると、あれよあれよという間に新しい友だちができたり、おもしろそうなイベントを紹介してくれたりして。b-labに来ることがどんどん楽しくなっていきました」

――スタッフが、いい意味での“おせっかい”役になっているんですね。さすがにほっといてほしいな…と思うようなことはないんですか?

かれんさん:「スタッフさんたちはみんな、めちゃくちゃフレンドリーでコミュ力が高いんです。なので話しかけられて嫌だなとか、ほっといてほしいなとか思ったことはありません。

むしろ、1人で来ても必ずスタッフさんが声をかけてくれるので、孤独感や居心地の悪さを感じないんですよね。

わたしははやくb-labに行きたくて、いつも授業が終わったらすぐに学校を出ちゃいます」

 “きれいごと” は抜きで、本音で話せる大人と初めて出会えた

――b-labにきたときは、どんな風に過ごしているんですか?
 
れいなさん:「b-labでできたともだちと話したり、マンガを読んだり、Switchをかりてゲームしたり、自習したり……イベントに参加するのもたのしいし、大学生スタッフさんの人生経験をきくカタリ場というプログラムに参加したりすることもあります」

――その日によって違うんですね。学校や家やカフェなど、さまざまな居場所があると思います。場所ごとに違いのようなものはあるんですか?
 
かれんさん:「家は寝たり食べたりする場所で、学校は単位を取りに行く場所。カフェは友だちと行きたいときに行く場所で、b-labは趣味でつながるような新しい友達ができる場所、という違いがあるかなと思います。b-labに来るようになって友だちが増えました。

あとb-labは、すきなことややってみたかったことをどんどん実現できる場所なんですが、『すきなものが新しく見つかる場所』でもあります。

たとえば、わたしはもともと楽器に興味はなかったんですが、最近ベースの楽しさを教えてもらって。b-labに来るようになって自分自分の世界が広がっていて、そういう場所はほかにないと思います」

――b-labは、人間関係も経験も、自分の世界が広がっていく場所なんですね。特に印象に残っていることはありますか?

かれんさん:「仲のいいスタッフさんに、悩み相談をしたときがあったんです。わたし、大人はきれいごとを言うものだと思っていて。親や先生には、立場上こういうことを言わないといけない、というのがあると思うんです。それはわかるんですが、きれいごとを言うなぁと思ってしまって……

でも、b-labのスタッフさんにちょっとした悩みみたいなことを話したときの反応には、すごく驚きました。言い方が難しいんですけど、きれいごとじゃなくて、汚いことも含めて話してくれたっていうか……本音で話してくれてることが、伝わってきました。上辺だけじゃなくて、本当に内側の部分まで見て考えて話してくれてるなって。

先生や親からはなかなか本音の言葉は聞けないし、友だちに話してもそんなに深い返答はもらえない。そういう、本音で話してくれる大人には出会ったことがなかったので、とても印象に残っています。

それに、ずっと続く関係性の相手だと、悩みを話すことで負担をかけてしまうんじゃないか?と気になって、話しづらくて。b-labは中高生の居場所なので、ある意味期間限定。だから、安心して甘えやすいというのもあります」

いま中高生に必要なのは、自由に行き来できる居場所

――b-labのようなサードプレイスが全国に必要なんだなと感じます。たとえば、何も知らないひとに、こういった場所をつくる重要性を伝えるとしたら、お二人ならどの部分を強調しますか?いちおしのポイントといいますか……

れいなさん:「やっぱり、新しい友だちができる場所という部分だと思います。わたしは中高一貫校に通っているので、なかなか新しい友だちができないんです。それにコロナもありました。新しい友だちをつくるどころか、分散登校でこれまで仲の良かった友だちに会えることも減ってしまって。

b-labに来なかったら、知り合うこともなかった子たちと友だちになれたことは、すごく大きいことでした。そういう場所ってないので、その部分がいちおしのポイントだと思います」

――かれんさんはいかがですか?

かれんさん:「行きたいときに行けて、帰りたいときに帰れる安全な場所が、わたしたちには必要だと思うんです。

たとえばネット上にも、色々な出会いがあります。でも、SNSでつながったり、ネットを中心に世界を広げるのは、やっぱり怖くて。

b-labはリアルな場所で、大人がちゃんと運営してくれています。だから、安心して友だちを増やしたり、新しいことにもどんどん挑戦できます。さっきも話題にでましたが、安心安全なマッチングシステムがある場所、というのが重要だと思いますね」

***

いま「居場所がない」と感じる子どもたちが増えているそうです。それだけを聞くと、中高生が放課後に集まりやすい場所をたくさんつくればいいのではないか?と考えてしまいがちです。

ただ、今回b-labを利用する彼女たちの話を通して、物理的なスペースよりもソフトの部分が何より大切だということを実感しました。

しかも、このソフトの部分はなかなかマニュアル化できません。「中高生とはきれいごとを言わずに本音で話しましょう」なんて書かれたスタッフマニュアルがあっても、きっと意味がないからです。

中高生の可能性を最大限広げようと常に考える、スタッフの振る舞い一つひとつが「安心安全なマッチングシステム」を機能させる重要なパーツになっている。一見するとなんでもない日常の中に、さまざまな仕掛けがある。

そんなb-labのようなサードプレイスが、すべての中高生の徒歩圏内にある未来をつくれたら……そう思わずにはいられませんでした。


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▼b-labホームページ
https://b-lab.tokyo/

▼b-lab活動紹介ページ
https://www.katariba.or.jp/activity/project/b-lab/

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