小説 【 あるハワイの芸術家 】 -11-
その日はそれで終わったものの、お互いがお互いを意識する微妙な空気が続いた。
クリスがノースショアに越すことになったのはジェシーが9歳になってすぐ。
「そんな、急じゃない。なんで?」
「むこうで絵に集中するって」
ケイトにそう聞いてもジェシーは納得できず、
「どうするの私ら。ノースショアなんて、すぐ会えないじゃん」
「どうもしないよ。普通に戻るだけ。今までが普通じゃなかったの。よくしてもらって――でも、自由にしてあげないと」
「寂しくないのママは」
「ジェシーがいれば寂しくない」
「――」
「会いたくなったら、いつでもバスで行けるじゃない」
説得するケイトの態度にも納得できず、ジェシーはクリスとふたりで話した。学校帰りに寄ったクリスのアパートで、
「釣りはどうするの。来月約束したじゃない」
ふくれてソファーに座り抗議した。
「連れてくよ。車で来る。すぐさ。住む場所が少し離れるだけ」
「そんなに私たち面倒だった?」
「そんなことない」
「叔父さんは楽しくなかった?」
「楽しいよ。でもジェシーはもう大きい。俺なんかいなくても」
「誤魔化さないで」
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