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ごあいさつ

 第17代マスター・オブ・ウイスキー(MW)の片野圭介と申します。
 2024年3月に試験に合格し、晴れてMWとなったのですが、実際のところ、マスターと言われるほどのウイスキー体験もなければ知識もなく、にもかかわらずMWとなってしまったことに対する面映ゆさと座りの悪さを強く感じています。
 これからもMWの名に恥じないよう、ウイスキーの学びと探究は続けていかなければなりませんし、その意味で「引き返せないところまで来てしまったのだし、最善を尽くさなければ」という思いもあります。まさにMW合格はスタート地点でありまだまだ先は長いと思い知らされたところですし、ここから終わりのない世界の渉猟と、MWの名前に相応しい(恥じない)活動が続いていくのだなと考えると、背筋が無意識にシャンと伸びてしまいます。
 
 それはさておき、私のMWとしての活動の一環として、まずはこのnoteにいくつかのことを記事として残していこうと考えています。
 具体的には、次の3つです。

 1 MW1次試験で提出した論文(要約版)の公開
 2 ジャパニーズウイスキー製造基準の法制化について
 3 2の法制化が必要なことに関するさまざまな現状

 
 ひとつめの論文公開について。
 MW試験の合格者は、現時点で17名います(私が17番目)。10年以上続く試験で17人しか合格者がいないというのは(合格した人間が言うのもなんですが)これが難関試験であることの証です。とはいえ実際にMWの合格率を見ると17%と決して少なすぎるわけでもなく、どちらかというと受験者が少ないからMWの数も少ないのだと考えられます。
 なぜ受験者が少ないか、それはMWの受験資格を得るために2段階の資格(ウイスキーエキスパート(WE)、ウイスキープロフェッショナル(WP))を経る必要があり、取得までに根気と時間が必要だからだと思いますが、ほかの理由として論文試験の存在があります。
 MWの1次試験である論文試験では約2万字の文章作成を要求されます。2万字というと原稿用紙50枚分(改行しない場合)ですが、これは相当高いハードルです。まず「書く」作業が大変ですし、どれだけウイスキーが好きだったとしても、それについて論ずるというのはまた別の能力と動機付けが求められるからです。必然的に、論文が書けないのでMW挑戦は諦めるWPの方が多くなっているのだろうと推測します。
 率直に、そもそも何を書いたらよいかわからない、ということもあるかと思います。テーマである「ウイスキーについて論ぜよ」というのは抽象的な問い掛けなので、どこから手の付けてよいかわからず論文執筆に至れないということも大いにありえます。もちろんウイスキーに関係していれば何を書いてもいいのですが、だとしても「ウイスキーの何について」「どういう体裁で」「何をどんなふうに書き」「論文としてどのように着地させればいいのか」という具体的な見取り図がなければ、やはり挑戦は断念してしまうことになります。
 この点、過去の合格論文のいくつかが公開されており、こうしたものを読み、参考にしながら、受験者は(過去私がそうであったように)手探りで論文を書くことになります。そして参考にできるものは多くあれば、「これなら自分に書けるかもしれない」という挑戦者の門戸が広がることにもなるでしょう。
 とすれば、これからの受験者のために、私が書いた論文についても、原文そのままというわけにはいかないにせよ、どのような順序で書き記し、何を示そうとしたのかがわかる程度に要約したもの公開することにには益があると考えます。
 また私の論文には、私がMWになった動機、MWとして成したいことが書かれていますので、他の記事との相互理解を深めることにもつながるでしょう。
 こうしたことから、まずは論文をお示ししたいと思っています。
 
 その上で、ふたつめのジャパニーズウイスキー製造基準の法制化についても記事化したいと考えています。
 そもそもひとつめの論文のテーマが法制化ですので、あえて記事として切り分ける必要はないのかもしれませんが、論文を踏まえ、その実現のために何をすべきかの具体的な議論は、論文とは別のものとして示しておく必要があります。
 こうしたことから、法制化に向けた議論をふたつめのコンテンツとして書いていきたいと思います。
 
 みっつめの法制化が必要とされる現状もまた、随時記事にしていきます。
 MWになって数か月の間にも、さまざまな方にご意見をお聴きする機会がありました。結果、ジャパニーズウイスキー(JW)の法制化に関する危機感はより募る結果となっています。というのも、法制化に対する関係者のスタンスは、人により相当の温度差があるとがわかったからです。
 「既得権益」という言葉があります。
 すでにある程度の安定的な立場や利益を得ている者が、これを一種の「権利」と捉えていること、さらにはその状態を不安定にする人や動きに反対していくという意味まで含んだ言葉かと思います。
 JWにも製造者、消費者、その他の関係者がおられますが、その少なくない方に既得権益とは言わないまでも、さまざまな事情から現状を維持することへの指向があり、それらがすべて法制化に向けた障壁となっているように感じられます。
 具体的にそれが何かはここでは述べませんし、そうした指向の理由について一定程度(現実論として、あるいは人情としても)理解できる部分も多く、ましてや悪であると言い切ることもできません。しかしその一方で、そうした必ずしも悪とは言い切れないものの集合体がもたらすデメリットも無視できないものになっており、少なくとも彼らが述べる法制化のデメリットよりも大きくなっていると感じられます。
 このようなことから「現状、今まさにどんなデメリットがあるか」を可視化し、皆さんと共有し、ひいては法制化が必要とされる理由をきちんと整理したい、そのような意図のもと、いくつかの現状も記事としていきたいと考えています。
 
 長々としたごあいさつとなりましたが、このnoteに書く記事については、上記意図に基づき自由な転載をしていただいて構いませんし(出典としてはご記載ください)、またさまざまなご意見もお寄せいただければ幸いです。
 とまれ私のゴールは、次の100年も人々が美味しいJWを楽しめること
 そのために活動をしていきたいと考えております。


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