ウイスキーのいかなる要素がウイスキーをウイスキーたらしめるのか。 別の言い方をすれば、ウイスキーを形作る根幹にあるものは何か。 この問いに対しては三者三様、十人十色の答えがあると思うのですが、あくまで私見として、ウイスキーには少なくとも3つの要素が必要だと考えています。時間と、器、そして人です。 ウイスキーがウイスキーとなるためには、間違いなくそれ相応の時間を要します。穀物を糖化、発酵、そして(2~3回)蒸留すればすぐウイスキーが完成……ではなく、蒸留液はその後、相
「ウイスキーの闇」なる言い回しがあります。 ウイスキーがお好きな方には周知のことと思いますが、日本の酒税法は(歴史的な経緯はあるものの)ウイスキーに関し、恐ろしいほど雑な定義を行っています。具体的には「水と醸造アルコールと香料で9割薄めても」、「ウイスキーらしさの象徴である熟成を一切行わなかったとしても」、なんなら「外国産ウイスキーをそのまま使っても」、「ジャパニーズウイスキー(JW)として製造・販売して構わない」というものです。 このようにして生まれた偽?JWを、
そもそも私がマスター・オブ・ウイスキー(MW)をはじめとするウイスキーコニサー資格を取得しようと思ったきっかけは、MWの論文試験にあります。 当時、ジャパニーズウイスキーに関するある種の怨念(論文その4「Ⅴおわりに」に詳しいです。)を抱いていた私は、 ジャパニーズウイスキー(JW)の現状を何とかしないと ⇒私がひとりで叫んでも仕方ない、誰かを巻き込まなければ ⇒巻き込むならレジェンド土屋守先生だ、訴えるにはどうすればいい? ⇒そうだ、論文書こう! という、今にし
(その3から続く) Ⅳ 規制等の実現の方策 上記Ⅲにおいて、どのような法令改正等が本稿の目的を達するかを検討したが、本項ではこれを実現するための現実的な方策について述べたい。 法令改正等を行う場合、その制定・改正主体は法律であれば国会(国会議員)であり、政省令以下の法令であれば行政(当該法令を所管する省庁)である。この点、第三者がいくら要求しても、これら主体が動かなければ法令改正等は絶対に実現しない。 法令改正等に当たっては、まずは国会議員または所管省庁の担当者に対
(その2から続く) (4)特定農林水産物等の名称の保護に関する法律 上記1(4)の知的財産としての産品の名称を保護法益とする法律に、特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(GI法)があり、農林水産省が所管する。 本法は、マラケシュ協定附属書一Cの知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPs協定)において、「地理的表示」を「ある商品に関し、その確立した品質、社会的評価…が当該商品の地理的原産地に主として帰せられる場合において、当該商品が加盟国の領域又は…地方を原
(その1から続く) Ⅲ ブランド保護のための具体的な規制等 候補となる法令改正等を考えるに当たり、まずは製法あるいは定義上ウイスキーとは呼べないものがウイスキーとして製造・流通することにより、いかなる利益が損なわれるかを検討した上で、その利益を保護するために新たな、または既存の法令改正等を候補として挙げて分析する。 1 損なわれる利益 ジャパニーズウイスキー(JW)の製造、流通、販売、消費に関し損なわれる可能性がある利益を、誰がどのような不利益を被るかに着目し、
以下の記事は、私が2023年度マスター・オブ・ウイスキーの第一次試験である論文試験に応募した際の論文を、一部修正した上で要約・分割したものとなります。これから試験に挑戦される方の何かの参考となれば幸いです。 なお、論文試験の評価は「B」でした。A~Eの評価でC以上が1次合格とされていること、この論文がB評価が得られた程度のものなのだ、ということを前提としてお読みいただければと思います。 なお、論文はその1~その4まである長いものです。 手っ取り早く論文の結論が知り
第17代マスター・オブ・ウイスキー(MW)の片野圭介と申します。 2024年3月に試験に合格し、晴れてMWとなったのですが、実際のところ、マスターと言われるほどのウイスキー体験もなければ知識もなく、にもかかわらずMWとなってしまったことに対する面映ゆさと座りの悪さを強く感じています。 これからもMWの名に恥じないよう、ウイスキーの学びと探究は続けていかなければなりませんし、その意味で「引き返せないところまで来てしまったのだし、最善を尽くさなければ」という思いもあります。