失恋した
誰にも知られることのない匿名の日記として、ここに今の私の正確な気持ちを記しておこうと思う。
今日私は失恋した。今の気持ちを正確に表すなら「死にたい」だ。
これを見た人は、私が失恋したことに対して死にたいと思っている、と読み解くだろう。しかしそういうことではないのだ。
私は子供の頃から思い悩むことが多く、これまでも数多くの事柄に対して「死にたい」と感じてきた。私が今日失恋した時に真っ先に思い出したのはその気持ちだった。
しかし、わたしは相手の男に感して全く性愛を感じていなかった。なぜならわたしが彼に近づいた目的は「居場所」を作ることだったからだ。完全に平穏かつ安全な家。今便宜的に相手の男を「あいつ」と呼ぶとするならば、「あいつ」は私が告白でもしない限り絶対に手を出さないような男だった。
だからこそ、内弁慶で所属コミュニティの少ないわたしが「家」として重点を置くには素晴らしい相手だと思ったのだ。「あいつ」は奥手で恥ずかしがり屋だ。だから、もし私と「あいつ」が付き合えば、私が手を出して欲しくない時には手を出さない、理想的な「家」となってくれると考えたのだ。
しかし、わたしは基本的に一緒にいた女の子の友達と、3人で「あいつ」と話していることが多かった。そして私たちの間では恥ずかしい演技をしてお互いに「小っ恥ずかしい」と思いながら笑い合う遊びが流行っていた。
昨日の夜、私たちは少し下ネタも混ざるような演技をしていた。私がこれに本気になりすぎたのが良くなかった。深夜のテンションもあいまって、わたしはセリフを大真面目に演じた。本音を言えば「このセリフを聞いて、「あいつ」が私のことを意識すればいいのに」とも思っていた。
けれど、その演技会の後、彼女は「あいつ」に告白したらしい。
私がこれについて反省している点は次のようになっている。
•下ネタを大真面目に演じるなどという真剣さを弄ぶようなことをしたせいで、彼女と「あいつ」の気持ちを私がけしかけてしまったこと
どうやら彼女は私が「あいつ」にアプローチを仕掛けたいと考えていたことに、薄々気づいていたらしい。しかしここで私が真に反省しているのは、私のやり方が間違っていたことだ。
私に必要なのは、居場所なのである。だから「あいつ」がわたしのそばを離れなければ、誰と付き合おうが知ったことではない。しかし私が彼らの真剣な気持ちを弄ぶような真似をしたせいで、2人はまるでギリギリを保っていたラインを決壊させるように恋人となることを決め、そのせいで私は今日、2人が付き合うことを決めたと顔を赤らめて宣言するという地獄のような体験をしたのである。
わたしは性愛を抜きにした居場所を作ろうと試みたのだ。それなのに彼らの気持ちを私が弄んだせいで、これまでも結構居心地良かったコミュニティが性愛の絡む鬱陶しい場所に姿を変えてしまったのだ。
そしておそらく彼らは、私がそのことについてとても悩んでいる、だとか勘違いをしていることだろう。私はどうやってコミュニティを維持し、「あいつ」がどこかに姿を消さないか、ということしか考えていないにも関わらずだ。なんて鬱陶しいことだろうか。私はこれからさも大人ぶって、「2人が私の失恋を知って気遣っている」というようなそぶりを見せているのを、全く気にしていないように見せなければいけないのだ。これが私の「死にたい」の根源である。
これまで居心地の良かったコミュニティをそれなりに維持してきたにも関わらず、これからはなんだかよくわからない大人ぶったそぶりをしなければ、居場所がなくなってしまうのだ。これを「死にたい」と言わずしてどう言えば良いのだろうか。そしてその原因を作ったのは他ならぬ私自身なのである。愚かな私は自ら身を滅ぼすようなことをし、そのせいでまたもやこれまで何度も人生で経験してきた「死にたい」と再会してしまったのである。
これはそんな愚かな私の後悔の記録であり、誰にも知られることのない気休めのための日記なのである。これから私は彼女と「あいつ」の出方を見て、またひとりぼっちで人狼を強制させられるハメになるのだ。だから今夜はもう寝ようと思う。そしてほとぼりが覚めるまで、できるだけ平穏に過ごすことを気を付けたいと思う。ジーザスクライスト、居るならどうとでもしてくれ。