Boooom!!!!
浜辺の石を拾い、鬼崎がぶん投げる。かぁん、と甲高い音がして不発弾に当たった。
「おっし、大吉ィ」
鬼崎のネジは外れていた。拾った砲弾に石を投げるのが鬼崎流の「おみくじ」だった。
コールは右手の拳銃を眺めていた。古びたM1911は、在日米軍の父が中学祝いに寄越したものだった。
「家族を守れ」と父は言ったが、コールが最初に銃を向けたのは、その父だ。
アザだらけの母が縋りついた。父を撃つ。そう決めて引鉄にかけた指は、玄関扉が閉まっても動かなかった。
俺は負け犬だ。地べたに立つと、決まって無力感が這い上ってきた。
唐突にエンジン音が、コールの意識を引き戻した。振り返ると、黒い単車に乗った鬼崎が顎をしゃくった。
「コール。忘れてビッとしろ」
隣で白い単車が乗り手を待っていた。
あの時、鬼崎がどんな顔をしていたか。コールは思い出せずにいた。
1978年の秋暮れ。道路交通法が改正する前の最後の夜だった。
首都高を集合管の爆音がうわんうわんと揺らす。音は風の中でうねり、数万匹の雀蜂が暴れ狂うような騒ぎだった。
星空に暴走族「横須賀走流」が旗を掲げた。
単車300台、四ッ輪80台の先頭をコールのCB400Fが駆ける。抜きん出て速い。白い特攻服をなびかせ、さらに加速した。青い眼は突風を恐れず、眼前の鬼崎の黒いKHを捉えた。
水銀灯が鬼崎のシートを照らす。赤ん坊ほどの荷物が針金で括りつけてある。
コールには見覚えがあった。
あの不発弾だ。
鬼崎が応えるようにマフラーを地面に擦らせた。バッ、バッ、と赤い火花が散った。
「突っ込むんだよ、警視庁に。道交法ごとオサラバよ」
集会での鬼崎は完全にキレていた。
突然、KHが後輪を浮かせた。マシンが回転し、ヘッドライトがコールに向いた。
「ビッとしろ!」
銀光の向こうで鬼崎がぐしゃりと笑った。
あいつは俺たちを試す気だ。コールは直感した。
鬼崎の単車が迫ってくる。コールはサラシに挟んだ拳銃の感触を確かめた。
【続く】