
「生贄にならないあなたへ」第一話
あらすじ
「付き合ってください!」放課後の屋上で塚本が告白すると、付き添いの友人がバラバラになった。塚本は生贄を捧げないと告白ができない体質だった。
塚本の友人、木戸は告白で生贄にされずに生き残った。木戸は塚本の体質を知り、別のアプローチをすることを勧める。
木戸は武道一家だった。塚本に勧めたのは、1ヶ月後に行われるK-1の試合で勝つことだった。木戸は、人を生贄にしてもブレない塚本の心根が武道に向いていると見抜いた。強さで相手を振り向かせる。そのために、木戸の祖父、玄昌とともに木戸の家に伝わる拳法を塚本は始めた。
強くなりながら、告白も続けた。だが、行手を阻むように告白の犠牲者が塚本たちを襲う。
遠くで運動部が練習する声が聞こえる。秋暮れの放課後はどこか寂しい。
「氷川さん。俺と付き合ってください!」
塚本が告白すると、屋上に桜が舞った。
綺麗なピンク色の欠片がぶわっと広がった。風が吹いた。欠片が回って渦を作り出した。
秋の青空はどこまでも遠い。深い青色に桜が映えた。見とれてしまいそうだが、渦が巻き上げる風は生臭い。小動物を鼻先で潰されたような臭いがした。
鼻腔から広がる血生臭さで、木戸はえずいてしまいそうになる。
木戸の頬に硬い感触がした。頬に刺さった異物を引き抜く。
白い、人の歯だった。
「無理無理」
木戸と塚本の前にいる女、氷川が答えた。氷川の背は180センチほどある。スカートから見える白い脚はすらりと長い。黒髪のロングウルフの毛先がふわふわと風に靡いていた。
「なんで。松野が死に損じゃないか」
塚本が詰め寄った。
松野が死んだ。今この瞬間、塚本の告白で全身粉微塵の肉吹雪となった。
塚本は、告白をするために生贄を一人出さないといけない体質らしい。木戸も松野も塚本にこの体質について聞かされた時、冗談だと思った。だから、塚本の告白についてきたのだ。
おそらく、松野が死んだのは運命のいたずらにすぎない。ひとつ何かが狂っていれば、木戸が肉吹雪になっただろう。
木戸の背筋が冷たくなった。
「ハア? 死に損って……。アタシの前で人ぶち殺して従わそうとしてんだよ? 告白じゃなくて脅迫だから」
木戸は塚本を見た。塚本の横顔は美しい。鼻が高く、木戸は横顔を見るたびに海外俳優のようだと思う。松野が死んでも、塚本の表情は平然としている。
「前も、ってどういうことだ」
「……同じサッカー部で浦野くんっていただろ」
木戸の問いに塚本が答えた。
浦野大樹は塚本とサッカー部でコンビを組んでいた。息のあったプレーは県大会でもチームの得点源となっていたが、浦野は先週から学校を休んでいた。
「頼んだらさ、浦野くんが俺たち最高のコンビじゃん! 絶対上手くいくよって……俺より乗り気になっちゃって」
「それで浦野くんは」
「偏西風とともに……」
塚本はため息をついた。顔は平然としたままだ。
「コイツさ、外面は良いから他人が勝手にバンバン親身になってくわけ。あんたも気をつけな?」
氷川はそう言って屋上を出て行った。
「ちょっと待って。俺、本当に氷川さんのことが──」
木戸が塚本を遮るように立つ。電撃のような速度だった。
塚本の唇が子音を発する手前で、木戸は思い切り、塚本の股間を蹴り上げた。足の甲が上履き越しに、弱点を捉えた感触を伝える。もうコンマ数秒遅れていれば、塚本は告白していた。空手を教えてくれた祖父に今日ほど感謝する日はなかった。
塚本の黒目が裏返り、泡を吹いて昏倒した。他のクラスメイトなら見ていられないような表情でも、塚本の顔は美しいままだった。
とんでもない死に出くわしてしまった。松野がスローモーションで砕かれる様子を反芻する。
木戸の心から恐怖は薄れていた。代わりに興奮と待望の喜びが首をもたげていた。
木戸は家路につきながら、何度も松野の死を脳内で再生していた。
続く↓
いいなと思ったら応援しよう!
