教師博覧会
2005年
3年C組 西塔 たまき
俺が話せることはひとつもない。まあ、無いなら無いなりに書くしかないか。担任の西本は生徒がひとりでも変な動きをするのは嫌だろうからな。黒板の消し忘れだけで我を失うくらい神経質なのは困りものだ。たぶんこの原稿を見たら烈火のように怒り狂うだろうが、あいにく俺はこいつを提出したらさっさとこの街から出るつもりだ。西本はこの世に一枚しかない原稿を仕方なく載せるのさ。笑えるよ。
さて、俺が白紙を埋められるものといえば、この三年間で集めた教師の生態観察だろう。
卒業するお前たちが俺のことを「陰タマ」だとか「ストーカー」だとか好き勝手言っているのは知っている。だが、お前たちがその一方で俺の活動に興味を持っているのも承知している。
どれ、軽蔑してた人間の最後っ屁を見ていくといい。
伊良禍 誠(47)化学
ゴム靴みたいな肌とコーヒーで黄ばんだ歯が目印。家族構成は23歳の妻と16歳の娘の3人暮らし。伊良禍の連れ子らしい。妻とは出会い系サイトで知り合っている。伊良禍のいない昼間には知らないシビックが家の前に止まっている。
州原 美波(24)現代文
愚鈍な卒業生諸君に祀りあげられた可哀想な教師。両親はC県の豪農。教師という職業には不信感があり、何度も帰省を勧めていた。また、眉目秀麗な容姿もあって言い寄る生徒と教師は数知れなかった。例えば本田秀や才頭神、伊良禍も多分にもれず。
虚像祭の後は州原の失踪とともに両親は発狂し、実家は荒地を残すのみとなった。
中村 錦(50)体育
狒々のような赤ら顔と大きな口が目印の剣道部顧問。冬の早朝の空名川で褌ひとつの男がいたら間違いなくこいつだ。だが、間違っても奴を肉眼で見られる場所にはいてはいけない。中村は持ち前の勘で気配を察し必ず小石を投げてくる。1km先で見ていた俺も双眼鏡のレンズを割られた。あとは曖昧な時もそばにいるな。
後輩には同情する。近所にこんな魑魅魍魎がいる学校があっただなんて!せいぜい生き残れよ!
気が変わった。俺は最後に中村を一目見てから街を出るとするよ。
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