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中村先生へ

2022年
3年A組 猫原 翔

 中村先生、すみませんでした。僕はついに卒業してしまいます。何度謝っても許されないでしょうが、この場を使わないわけにはいきません。
 あらためて、すみません。剣道部を全員斬り捨てたのに罪悪感が持てなくてすみません。
 たしかに僕は去年、ビームサーベルで中村先生の剣道部を廃部にしてしまいました。剣道部は毎回県大会まで出場し、去年の部員はインターハイを目指せるほどだったと伺っています。歴史の短いビームサーベル部が及ぶ存在ではないのは重々承知しています。ですので、僕らがピロティで素振りをしているときに角田くんが「指導」をしにきたのも無理はないと思います。
 E組の角田くんは最初に僕の脛を打ちました。体格に恵まれて岩のように大きい角田くんの打ちこみは相当なものでした。父と見た時代劇で野武士が振るような豪快な一撃で惚れ惚れしたのを覚えています。そのため僕もつい……、本当にすみません。何とお詫びしたらいいのか分かりません。ただ、僕もあの時はちょっかいのつもりでえいやっと胴を打ったのです。それがあんな風になるなんて思いませんでした。
 ビームサーベルを人に振った経験は角田くんが初めてでした。僕はあの瞬間を一生忘れません。きっとこれから僕の人生には数々の苦難が訪れます。ですがその度、あの時の角田くんを思い出せばいつでも僕は笑顔になれます。やはり僕は角田くんには「ありがとう」と言いたいです。
 その後については、本当にすみませんでした。反省しています。
 ピロティにやってきた剣道部の先輩方、後輩はぞろぞろと引き返しました。するとすぐに足音が戻ってきました。剣道部のみなさんは木刀や椅子を手にしていました。
 僕は悲しかったです。どうして剣道部なのに袋竹刀で勝負しないのかと訴えました。ですが、誰ひとり耳を貸してくれる人はいませんでした。結果は中村先生がピロティで見たとおりです。
 もっと早くに止めてほしかった。僕も悪いですが、先生の監督不行届もあると思います。そもそもビームサーベルで切れない竹刀を使わせるべきだったのではないでしょうか。

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