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らんぐらぬむの独楽 #同じテーマで小説を書こう

日本から5000km。熱帯雨林を5つ越え、アジサイの密集する丘を過ぎたところにタオ村はあった。
村を囲むのは森と崖。茅葺きの庵が立ち並び、村民が酒や肉で飲めや歌えの賑わいを醸している。鶴田はその間を縫い、一際大きな赤土の建物へと案内された。
ついに会える。そう思うと緊張と恋心にも似た胸のつかえを感じた。
ある日、神田で買い漁った古本を開くとひらりと落ちるものがあった。白黒の色あせた写真が一枚。それには、五角形の中に小さな三角形がいくつも入れ子になったような不可思議な構造体が映っていた。鶴田は目が離せないでいた。見れば見るほど多角形の渦に引き込まれていくのだ。
裏にはただ「1920/2/10/タオ独楽」と書かれていた。
独楽.......。この構造体は見るだけで心が揺さぶられる怪しい魅力を持っている。それなのに回してしまったら俺はどうなってしまうのだろう!ああ回したい!この目で見たい!鶴田の中に抗いがたい欲求が萌芽した。
衝動に駆られたのが3週間前。そして今、鶴田は恋焦がれた独楽のもとにたどり着いた。
「こちらでございます」
祭司長に奥へと通される。突き当りに二つの扉が松明に照らされていた。右の扉が開かれると祭壇らしき上に竹製の箱を見つけた。
あの中に入っているのだ。鶴田は確信した。
祭司長は目の前で静かに蓋を持ち上げた。
心臓が早鐘を打ち鳴らしていた。
夢ではなかった。
箱の中には、三つの独楽が収められていた。そのどれもが不可思議な見た目をしており、その中に鶴田が見た独楽も鎮座していた。
多角形の一片ずつがクロームメタルのような輝きを放ち、白黒で見た印象とはまた違った妖しさを放っていた。
ああ回したい!すぐにでも!!
独楽をつまみ、用意された銀皿に軸を置いた。人差し指と親指に力を入れる。ひゅんひゅんと回りだす。五角形たちはアニメーションのように円、方形、楕円へと姿を変え続けていく。
「魅力的でしょう。」
食い入るように見つめる鶴田は祭司長の言葉にうなずいた。
「ええ。本当にうつくしい......。こんなに美しいものをどうやって?」
「ラングラ=ヌムです。」
「それは一体?」
「毎年行われる試練です。独楽は村に伝わる椅子、ラングラが語りかける試練に打ち勝った者だけが成れる姿なんですよ。」
鶴田は耳を疑った。
「おっしゃっている意味が」
祭司長は訥々と語り始めた。
「今あなたが回している独楽。それは最も古いものです。ラングラ=ヌムに打ち勝った最初の民。誉れ高きシュピナートヌィが生み出しました。彼は夢の中で、「己の最も優れたものを食え」と語りかけられたそうです。シュピナートヌィには息子がいました。彼は腕っぷしも強く、釣りも父より何倍も上手かったといいます。」
「まさか、嘘でしょう」
「シュピナートヌィは、真っ赤になった皿を天に掲げるとたちまち彼の体は折り畳まれ今の姿になったのです。」
祭司長は、回り続ける独楽の横にもう一個回した。
その独楽は、蛹を円盤に五つ組み合わせたような見た目をしている。
「サラートは、婚礼を控えた娘でした。彼女は村で最も美しいと評判で、言い寄る男も少なくありませんでした。ラングラが見せたのは「愛するものが死ぬ姿」でした。」
「では、婚約者を」
「いえ、サラートは三日悩みましたが行動に移せないでいました。その時、隣村で男が殺されました。犯人は婚約者の男だったのです。サラートは嘆き悲しみました。やがて涙とともにボロボロと崩れた肉体の中に、この独楽が見つかりました。」
回転を続け、サラートが蛹から粘着質の液にまみれた五本の脚をのぞかせた。それは昆虫のように無機質で甘い匂いを放っていた。脳髄まで沁みるような多幸感に包まれそうになる。鶴田は鼻を覆った。
「最後に成ったのは10年前。これはスという卑しい老人で......。」
「もう、結構です。」
最後の独楽を回そうとする祭司長を、鶴田は制した。
「左様ですか。なら最後にラングラ=ヌムを見ていくと良いでしょう。5分間の祭事ですので。」
さっさと見て帰ってしまおう。独楽を横目に鶴田は心に決めていた。祭司長は、独楽の部屋と逆の部屋、左側の扉を開ける。
すでに村民が犇めいていた。
そして一段上になった場所には椅子が置かれていた。一見、簡素な椅子に見えるが、箒のようにびっしりと脚が生えている。
祭司長は、その一本を装飾された鉈で切り取ると端を咥えた。黒い大太鼓のように祭司長の腹が膨れ、一気に息を吹き込んだ。
象の断末魔のような大音声。
「痛いッ」
頭蓋に錆びた鋸を当てられるような痛みが襲った。
鶴田は立っていられず、崩れ落ちた。
その勢いでパスポートが落ちる。
「選ばれた!!」
祭司長の声に続いて、歓声が起こる
鶴田の意識はそこで途切れた。
パスポートを誰かが踏んだ。
姓/Surname
TSURUTA
名/Given name
 HIROSHI(YOOGURTUM)

(終わり/1988文字)


テーマは「シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタムの休日」です。面白そうな企画です🎍



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