ゾン・ビル
「死」が並んだ!!時刻は14時44分。ガコンプシュー……。4両編成の最前列のドアが開くと、俺は嘘みたいな量の血とともに転げ出た。深呼吸をすると別にうまくもない空気がうまく感じる。今の今まで満員電車に押し込まれていたんだから当たり前だ。しかも、みんな食人鬼みたいに狂った連中だったら、何が起こると思う?答えがこの死体満載の車両だ。入口には俺を殺そうとした連中の肉が散らばっている。よく見ると腕だったり、脚だったり。嫌な気持ちだ。
結局、腕っぷしが強いヤツもでかいヤツも、だまし討ちをするヤツも運がなけりゃ死ぬしかない。最後に俺を撃ったヤツは跳弾に頭を撃ち抜かれて死んだ。とりあえず手足が無事にそろってることに感謝だ。ありがとう、でもクソッタレめ!
よりによってこの俺を「咎捨て場」に送るなんて!
都心から30km離れたここに、人を捨てる場所がある。隔離区画、屠殺沢(ところざわ)駅だ。政府は市民が突然狂暴化する奇病、「黒い雲」の一件以来、隔離区画の設立を決定した。それが屠殺沢駅、通称「咎捨て場」だった。最初こそ隔離対象は検査で選ばれていたが、今じゃ身内がチクりさえすれば問答無用に連れてかれる始末だった。だから、製薬会社の邪魔になった俺も体よく列車行きというわけだ。どうやら「黒い雲」に効く予防薬がない事実を広められるのは会社にとって不都合らしい。
「やったあ!レッドカーペットよ!」
最後尾からの声に振り返ると、タップダンスをしながら男は、歓喜の声をあげていた。身長180cm、すらりとした体に、黒のボンテージがよく似合っていた。血を撒き散らしながら、ステップを踏む姿は、この世のものとは思えない美しさを備えている。俺はしばらく眺めてから、拍手を送った。
「どっかで習ってたのか。」
「浅草でちょっとね。」
「あんた名前は。」
「あたしはサソリ。一緒に踊る?」
サソリは俺を見て笑いかける。笑顔は「黒い雲」特有の狂気を帯びていた。
(続く)