地雷拳
診察室の天井には採光窓がはめられていた。満月を眺めながら、私は相手の反応を待つ。
「見事です」
しばらくして医者は言った。頭のレントゲンには弾丸が写っていた。
「どこまで覚えていますか?」
私は順を追って話す。ホストクラブで遊んだこと。帰り道で銃口を向けられたこと。
「誰が銃を?」
「あ……」
言葉が出ない。訴えようにも喉が動かなくなっていた。私は混乱した。
《待って》
頭の中に姉の声が響く。さらに動揺する私を医者が心配そうに覗きこむ。
「安静にしましょうか」
白衣の腕が私を押さえつけた。医者は注射器を取り出す。寒々しい液体の青に、私は戦慄する。
《奥歯を噛むの》
注射針が皮膚に潜りこむ。液体が押し出される前に、私は覚悟を決めた。
奥歯が軋んだ。視界がぼやけ、何かが乗り込む。
私は無意識に立ち上がっていた。
右腕を引いて医者に狙いを定める。そのまま腰を捻り、正拳突きをぶち当てた。
医者の顔がべろりとめくれあがった。中から板金とコードが露わになる。
私は傷ついた拳をまじまじと見た。
《カラテチップの力よ》
聞き返す前に身体を引いた。びゅんと足刀が鼻先を掠める。
「その弾丸。如月博士の遺物だな」
医者──白衣の機械男が構えた。
「俺はHG-16。マローダーだ」
《覇金グループは私の技術を盗み、暗殺部隊を造った》
「チップを渡せ!」
機械男が飛んだ。私は肘で裏拳を弾く。さらに拳が迫った。
《奴らから全て奪って》
「どうして私なの!」
叫びながら私の腕は連撃を処理する。
《お金。いるんでしょ?》
一瞬、身体が強張る。私はホストの彼にナンバー入りさせる約束をしていた。
互いの拳が顔面を打ち、距離が開いた。
「頃合いか」
機械男は口端のオイルを拭い、頭にチップを差し込む。
《あれは塔のカンフーチップ!》
両眼が怪しく発光した。
機械男が急接近して蹴り上げた。受け止めきれず、私は採光窓を突き破る。
病院に影が落ちた。空中で目を見張る。
夜空を巨拳が覆い隠していた。
(続く)