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生贄にならないあなたへ

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創作大賞に応募した短編です。三万字くらい
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#格闘技

「生贄にならないあなたへ」第二話

「生贄にならないあなたへ」第二話

前回

「昨日はごめん」
 教室で塚本が木戸に謝罪した。
 塚本は本当にすまなそうな顔をしていた。太く整った眉が八の字になり、白く形のいい歯を隠した唇の端が下がり、申し訳なさを演出している。
 正直、こんなに顔の整った男が、自分に対して誠心誠意謝っているのは危ない。精神的に優位に立っているのが気持ちよくなってしまいそうだ。
「それで……、どうしてその体質に気がついたんだ」
 木戸は湧き上がる邪念に

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「生贄にならないあなたへ」第三話

「生贄にならないあなたへ」第三話

前回

 畳をばちんと叩く音がした。
「心はぶち殺すに限る」
 道場内にしわがれた声が響き渡る。木戸の祖父、玄昌によるものだ。
 木戸と塚本は、放課後に祖父の道場に足を運んでいた。道場は公民館の隣にあった。戦前からある建物で、立派な檜で造られている。そのため、道場は誰もいなくなると、ほのかに檜の香りが感じられた。
 道場の壁には無数の写真がかけられており、木戸たちを見下ろしている。
「歴代の零指だ

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