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貞宗の在銘品について

少し前に徳川美術館で「相模国住人貞宗 建武二年正月日(1335年) 奉納御宝前 生年甲午四十二歳」と切られた小脇差が展示されていると話題になっていました。
なぜ話題になっているかと言えば、相州貞宗の在銘作は皆無と言われてきたからです。
そんな貞宗の在銘作が展示されていたとしたら大発見です。

写真を見ると徳川美術館蔵でかつ、端龍院殿墓所出土、尾張徳川家二代、徳川光友所持の物とのことで信用度がとても高そう。


尾張徳川家二代、徳川光友(1625~1700)↓

画像出典:徳川光友wiki


因みに先の投稿を見ると貞宗脇差の上に展示されている来国光の剣(同じ場所から出土&徳川光友所持)も、鎌倉期の体配を示したフクラの張らない小さな剣であり、粟田口あたりの剣の特徴とも近似している気がして、同じく山城の来派であればこうした剣を作るというのも個人的にはうなづけます。
中央にこうした彫がある剣を見るのは初めてなものの、同じく徳川光友が所持、そして同じ墓所から出土していたとの事もありこの貞宗の信憑性を増している気が個人的にはしています。(すみません、写真を拝借させてください)

来国光の剣(徳川美術館蔵)
(画像出典:https://x.com/hitatura_/status/1805887308283146656/photo/1

さて貞宗の方ですが、姿からすると幅広で少し変わっている物の、茎が短い点や寸伸び短刀のように短刀にしては少し全体的に大きくなり、先が少し反っているなど確かに南北朝期の体配を表しているように見えます。
包丁正宗などにも見られる姿ですね。

相模国住人貞宗 建武二年正月日 奉納御宝前 生年甲午四十二歳(徳川美術館蔵)
(画像出典:https://x.com/hitatura_/status/1805887308283146656/photo/1


彫物は今まで貞宗の在銘作が無かったので比較が出来ませんが、無銘での貞宗指定品には素剣に梵字、護摩箸、蓮台などが良く見られる気がし、上の在銘品とは少し異なります。
蓮台は今回の在銘貞宗にも見られますが、例えば物吉貞宗などと比較しても少し違う事が分かります。

物吉貞宗
(画像出典:徳川美術館
物吉貞宗の蓮台の彫
(画像出典:徳川美術館
相模国住人貞宗 建武二年正月日 奉納御宝前 生年甲午四十二歳
(画像出典:https://x.com/hitatura_/status/1805887308283146656/photo/1


但し先に書いたように物吉貞宗はそもそも無銘であるので本当に貞宗の作かどうかは誰にも分からず、無銘と比較する事に意味はないので、あくまで今まで無銘で貞宗極めになっている物と比較したら、という話でしかありません。貞宗初代、貞宗二代のように「代が違う」という可能性も無きにしもあらずです。


・押形に掲載された貞宗在銘品について

さて相州貞宗の在銘は存在しない、というのが通説ではあるものの、光山押形や継平押形では実は存在を確認出来ます。
これが正真作かというのは判断しかねる所ではありますが2つ並べます。

光山押形 乾」より
継平押形」より

特に最初の方は建武三年期のもので、今回徳川美術館で展示されているものと1年しか違いません。
すると銘の形などは近似しているはずです。
銘は写真では良く見えずこの辺り学芸院の方が調査を頑張ってくれるものと思いますが、茎孔の形状などは古そうで時代感ありそうです。

相模国住人貞宗 建武二年正月日 奉納御宝前 生年甲午四十二歳
(画像出典:https://x.com/hitatura_/status/1805887308283146656/photo/2


一方以下の「かぢ平押形」には、徳川美術館蔵の貞宗と同年紀の建武二年十月日の貞宗が掲載されていますが、こちらは偽銘と書かれています。

かぢ平押形」より


因みに少し話が脱線するのですが、高木貞宗は相州貞宗と別です。
こちらは在銘品が存在しています。
一応押形も一部載せておきます。

「土屋押形 上編」より
「土屋押形 上編」より
「土屋押形 上編」より


・終わりに

今回の貞宗在銘品は昭和57年に出土していたらしいですが、なぜ今まで騒ぎになっていなかったのか。
偽銘として見られていたのでしょうか?
しかしだとしたらキャプションにその旨が書いてありそうな気もします。
という事で徳川美術館の見解を待ちたい所です。
もしこれが在銘の貞宗で間違いないとなると(何を持って間違いないと判断するか良く分かりませんが)、刀で在銘が存在しないのはいよいよ郷のみとなります。(天国や神息などもありますがまぁそれは置いておいて)

ただ今までの無銘で貞宗となっている指定品を見てみると、彫などかなり相違がみられるようにも個人的には感じます。
新たな研究資料の発見となるのか、続報が楽しみですね!


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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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