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古金工 一匹猿金目貫④ 抜きたくなる部分を抜いてない

③↓

久々に猿目貫の顔を見て癒されたくなり鑑賞。
見る度にしっかりと癒してくれるので改めて良い買い物をしたと我ながら思う。

この目貫は古金工極めであるが、かなり薄く金を伸ばしている事や縁の端面に鑢をかけていない点、くくり出しなどから、古美濃や後藤祐乗など金を貴重な資源として特に重宝していた室町時代頃との共通性を個人的には感じるところ。
桃山だと後藤栄乗などの時代になるが、もっと金を贅沢に使っている気もするので時代的に少し合わない気がしている。

しかしここでふと思ったのだが、古美濃や祐乗であれば「抜け」が多い。
例えば以下は古美濃であるが、抜けが多く、裏は薄さで捲れた部分が見える。

ところがこの猿の目貫は抜けが一切ない。
抜けが無い事は前回のブログでも触れたが、よくよく考えてみれば特に脇の下など赤丸部は古美濃や後藤系であれば抜きたくなる(抜いている)ような箇所であるがそれをしていない。ここを抜いていても強度的に弱くなるかと言えばそんな事もない。
故にこれはこの目貫がそれらに属さない金工の手によるものであることを明確に示している部分であるような気がする。

では誰が作ったのかという話にはなるが、埋忠系統であればもう少し金は分厚いので埋忠とは異なる作風である気がする。
という事で現時点で感じている最有力候補は古正阿弥あたりの作。
しかしながら驚くべきことに正阿弥極めの目貫がほぼ無い。
1点重要刀装具指定のものがあるが、ウットリ色絵の松と鹿図で金無垢ではない。故に金無垢目貫の正阿弥極めのものはまだ未見。

ところが「文化の中の刀装具 著:橋本晴夫」を見ると、正阿弥派は後藤や古美濃よりも前から活躍していると述べており、ともすれば必ず正阿弥による目貫がもっと残っているはずである。
今回の猿目貫がどうかは分からないが、古金工極めの目貫には正阿弥による作がかなり紛れ込んでいるのではないだろうか。

「文化の中の刀装具 著:橋本晴夫」より


いずれにしてもこの抜きたくなる部分を敢えて抜いていないという明らかな違和感をなぜ今まで見落としていたのか。
買ってから2年近く経ちようやく気付いたものの、何度目かの鑑賞でこうして気が付けた事は何だか少し嬉しい。


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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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