大名刀はお金だけで買えない話
登録証のついた日本刀は約260万振だが、その中でも国宝や重文、重美、特別重要刀剣に指定されている名刀は無冠のまま眠る名刀を合わせても2000振も無いだろう。
その中には平安期や鎌倉期にも関わらず、生ぶ在銘品でしかも殆ど研ぎ減っていない信じられないような宝刀とも言える大名刀もある。
そうした刀は当然ながら数が残っていないので非常に希少でいわば愛刀家の終着点とも言えるものでもあり、求める人も多い。
当然ながら価値で言えば5000万円以上はしてくると予想されるが、大抵コレクターと直接応談になるので値段はあってないようなものだろう。
世の中に数振りもしくはオンリーワンの物なので当たり前の事である。
一方で付き合いが長く家族同然のような人同士であれば、勉強の為にあげるから持っていけという太っ腹な御仁ももしかしたらいるかもしれない。
実際に以前支部に在籍されていた方でもそのような経緯で譲り受けたという方がいらっしゃった。
さて、こうした超の付く大名刀を持っている人はまず間違いなくお金に困っていない人である。困っていたら早々にお金に換えている。
そして大抵1振ではなく沢山持っている。
織田信長も長船光忠の作を20振以上(その他の著名工作も多数)持っていたというし、いつの時代もお金のある所にそうした刀は集まっている。
そしてそうした人にとって、お金よりも刀の方が魅力がある、と思っている可能性が高い。
極端な話ではあるが、仮にもし刀が大好きな貴方が100億円持っていたとして、目についた刀を片っ端から買える位の財力があったとする。
そんな貴方が刀を買い続け、色々な苦労、努力、縁の末、20年かけてようやく手に入れた吉光があったとして、それをある日そこまで親しくもない人から唐突に3000万で売ってくれと言われたら売ろうと思うだろうか?
1億円だったら売ろうと思うだろうか?
3憶円なら?
お金を1億しか持っていなかったら心が揺らぐ人もいるかもしれないが、仮に100億持っていたら、苦労して手に入れた吉光とお金、どちらを手元に残したい人が多いだろうか。
そのような事を考えると、やはり大名刀はお金だけではなかなか手に入れられないのである。
所有者が亡くなって遺族が刀に興味が無い、というような状況であれば別かもしれないがその人が存命の内は難しいだろう。
しかし、もの凄く親しい人(極論で言えば自分の子供など)からの要望であった場合は、お金なんて要らないから大切にして、と譲るという選択肢が出て来るかもしれない。(相続税の話など細かい話は置いておいて)
何が言いたいのかと言えば、やはり大名刀は並大抵のことでは手に入れる事が出来ず、それは貴方に限らず、それを現時点で所有している人もきっと同じ苦労や努力、縁をもって手に入れているだろうという事です。
なので、少なくとも所有者の方が「この刀は売りたくない」と言った場合に、その翌日に現金の束を持って行って「これで譲ってほしい」というのは効果も無ければ、貴方の持って行った現金の数を所有者に突き付けて「あなたの刀の価値はこれです」と言っているようなもので大変失礼な行為だという事を頭に入れておくべきに思うのです。
そのような事をされたら、その人に会いたい気持ちも失せてしまうはずです。欲しい気持ちも分かりますが、相手の気持ちを尊重する事が同じ愛刀家としてのマナーにも思うのです。
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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑
「刀とくらす。」をコンセプトに刀を飾る展示ケースを製作販売してます。