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名刀は「戻す」もの

保存や特保位の物であればあまり関係ないとは思うのですが、特重や重美、もしくは重要刀剣でも上澄の方の名刀や名刀装具(こうしたものは大体値段が付いていないです。鑑定書無くてもそうした品に準ずるものも含む)を刀剣店で買う事があった場合、手放す時はやはり「買った場所に戻す」というのも大事な事に思うのです。

そうした品は誰でも手に入れられる物ではないと思います。
中には目にする事すら出来ない物も。そうした物は秘匿性が大事なのでSNSなどに出てくる事もありません。

故にそうした品に出会い手に入れる事には大きな困難が伴うわけですが、それは現在の所有者の方もきっと同じで並々ならぬ苦労のもとその刀なり刀装具を手に入れているはずです。
長く刀剣店の店主を務めている方は刀が好きで好きで堪らないからやっている人が多いです。
より良い刀を買う為に刀を売っている人もいるくらいです。
そのような方から刀を見せて頂きながら刀の入手エピソードなどを聞く事もありますが、その刀の背景には様々な人の想いや人生が複雑に絡み合っているのを見るに、刀の購入は刀そのものの移動だけではなく常にそうした人々の人生模様や意思が共に次の所有者に移動していくのだと感じます。

刀が持ち主を選ぶ、とは何だか嬉しい気持ちになるので私も時々使いますが、実際は一定以上のものになると当たり前ですが現在の所有者が次の所有者を選びます。
という事で最近は刀剣店の店主を店主ではなく一愛刀家、蒐集家としての側面を強めて見ているのですが、そうする事で腑に落ちる事が色々あります。

そのような中でもしそうした名刀や名刀装具を譲ってくれる縁に恵まれたなら…。
誰にでも良いわけではない中で「貴方なら」と譲ってくれたその方の気持ちは大事に大事にするべきに思うのです。
手放す際にA店、B店、C店…と渡り歩いて下取価格が一番高い所を探したいという気持も分かります。
別の刀剣店からしても秘蔵の名刀といえるような在庫が増える事は歓迎な所も多いでしょうが、全く別の場所にその品を出すというのはそれを譲ってくれた前店の店主、いわば一愛刀家の方の気持ちを踏みにじる事にも感じます。
刀剣店は刀の移動時に利益が発生するので、買った場所に戻す事はその譲ってくれた刀剣店が次の利益を生み出す事にも繋がります。
裏を返せば他の所に出すと、前刀剣店主の今後の利益を他所へ移すという事になります。
名品の数は圧倒的に少なく、更に一部が海外に流出している中で在庫の確保が近年難しくなっているようです。

考え過ぎかもしれませんが、そうした事なども踏まえるとやはり元の場所に戻すのが一番良いのではないかと。
貴方ならと信頼して譲ってくれた気持ちを蔑ろにするというのは、人として何かもっと大事なものを失ってしまっているような気がするのです。

まぁただ必ずしもそうできない事情の方もいるでしょうし色々な意見があることでしょう。
何が正しい選択なのかはその時々の状況にもよるかもしれないのでこれが一概に合っているとも分かりません。

尚冒頭にも書きましたが「一定以上の品の話」をしているので数十万円の刀装具などは自由にすれば良いと思います。


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それでは皆様良き刀ライフを!

↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

「刀とくらす。」をコンセプトに刀を飾る展示ケースを製作販売してます。

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