信家鐔に刻まれる文字から戦国時代の世相や武士の心情を感じてみる
信家は戦国時代末期から桃山時代にかけて活躍した鐔工の1人で、金家と並んで称されている鉄鐔界の名人です。鉄鐔趣味の行きつく先は信家、とはよく聞く言葉です。
信家の作は鉄味は勿論のこと、戦国時代の世相や武士の心情などが鐔から感じ取れる作も多く残っている事から人気なようです。
私も少し前から信家という作には興味が出ていたので以下の本を買ってみました。
この本には信家の作が140近く掲載されており、鐔に文字が刻まれた作も数多く載っていましたので、どのような字が彫られているのかについて調べ、そこから当時のどのような世相が感じ取れるのかを考えてみようと思います。
あくまで私が個人的に感じた事ですので、温かい目で見て頂ければ嬉しいです。そして別の解釈をお持ちの方は是非教えて頂ければ嬉しいです。
・運在天 具足有質屋
運は天に在り、具足は質屋に有り、と読めます。
運を天に任せて戦に臨んだものの、目立った手柄も立てられずに戦が終わり、褒賞も無いので生活する為にやむなく具足を質屋に売ったと解説する本もありますが、個人的には少し疑問があります。
というのも当時の武士はこの鐔を付けて戦いに臨んだはずですが、戦の惨めな無念な結果を鐔に刻むか?という疑問。
そのような結果刻んだ鐔を戦場に持っていく可能性は低いのではないかと個人的には感じます。
なので個人的には、「お金が無くてやむなく具足を質屋に売ってしまった。しかし運は天に有り。この戦で手柄を立てて出世するぞ」というような後に引くに引けない状況からの一発逆転を狙うような意気込みが感じられました。
・南無八幡大菩薩
南無八幡大菩薩は刀身彫でも良く見ます。
武人達の間で特に信仰が厚かった武神です。
八万大菩薩については以前こちらで触れているのでよろしければご覧ください。
・南無妙法蓮華経
こちらに私の考察を書いていますが、斧透かしや裏面の唐草模様などと合わせて見ると法華経を信仰する信仰心、長寿や一族の繁栄、山への礼節と身を護る信仰心、といった意味が込められていそうな気がします。
・一心不乱に
斧透かしについては先に挙げたような山への礼節であったり、身を護るという信仰心の表れだと個人的には考えています。
「一心不乱に」という文字と合わせて考えると、何が何でも「とにかく生きのびる」という強いメッセージ性が感じられます。
守りたい人がいたのかもしれません。
・生者必滅
こちらは鐔全面に「生者必滅」と文字が刻まれています。
生きている者はいつか必ず死ぬ、という意味でしょうか。
皆いつか死ぬ時がくるのだ、と当たり前の事をあえて刻むことで自分自身が抱く「死」の恐怖から何とか解放されようとする葛藤なのではないかと感じたのが一つ。
もう一つは「生きている者、必ず滅してやる」のような意味だと少し怖さを感じますが、戦っている最中は敵味方を判断する余裕がなく、とにかく目の前の生きている者を皆殺してでも生きのびてやるというような、戦場に行く武士の並々ならぬ覚悟のようなものも感じます。
・地水火風空(火の下に山を毛彫)
これは表に万物を生成する五つの元素である地・水・火・風・空(五大ともいう)が刻まれています。どうやら仏語のようです。
因みに「地水火風」を四大というようですが、これに無礙(むげ、妨げのない事、何ものにも捉われない事)を本質とする「空」を加えています。
裏には南無妙法蓮華経が書かれている事からも信仰を表しているものと考えられそうです。
・表:運有天 裏:弓矢八まんかまふまじ人がかまはばかまふべし
表の運有天は運は天に有り、という意味でしょう。
裏の「弓矢八まん」は弓矢八幡を表していると予想。
弓矢八幡は武士が誓約する時の語で、「~に掛けて誓う」のような意のようです。
「かまふ」は「関わる」、「まじ」は「~ないつもりだ」というような意から、「関わらないつもりだ」のような感じでしょうか。
しかしそれ以降の「人がかまはばかまふべし」がどうにも分かりません。
ご存じの方は是非ご教授ください。
・表:人間萬事塞翁馬 裏:非心非仏即身成佛
人間萬事塞翁馬(にんげんばんじさいおうがうま)とは一見、不運に思えたことが幸運につながったり、その逆だったりすることの例えで、つまり幸運か不運かは容易に判断しがたい、という意味のようです。
「非心非仏」については現在調査中。
「即身成佛=即身成仏」であるとすれば、この4語は仏教で人間が究極の悟りを開き肉身のまま仏となることを指します。
表の「人間萬事塞翁馬」という文字から、最後まで何があるか分からないから最後まで諦めない、というような覚悟のような物が伝わってくる気が何となくします。
・終わりに
いつもの如く素人の推測レベルでしかありませんが、「運は天に有り」という言葉はよく使われていたような気がします。
他にも斧の透かしや、南無妙法蓮華経などの信仰を表す文字も信家の鐔には多い事が分かりました。
鐔に刻まれた様々な文字を追っていくとほんの少しだけ当時の武士の想いに気持ちを重ねられそうな気もします。
こういうのを調べているといると信家の作も欲しくなってくるのでほどほどにせねばなりませんね。
信家は鉄鐔だから安いでしょ、と思った方。
重要刀装具などになってしまうと400~500以上はしてしまうようです。
うぐっ…。
という事で最後は私は意味が一切分からなかった鐔を載せてお終いです。
意味の分かる方ぜひ教えてください。
・表:家貧双月少 裏:衣破半風多(古詩)
今回も読んで下さりありがとうございました!
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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)
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