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海外に刀が出る弊害。登録証問題
海外に刀が出ることの問題として、輸送時の紛失トラブル、海外に出た後長期(例えば100年後など)にわたり刀が行方不明にならずに保管され続けるか、錆びなど何か刀に不具合が起きた際に直ぐに修復できる環境が殆ど整っていない(刀の職人はほぼ日本におり海外にいない)中でどこまで状態良く保管が可能なのか、などの問題があるかと思います。
ただもう1点、必ず起こる問題として登録証問題もあるかと思ったので書き残しておきます。
出来れば今後これに対する対応なども変更されることを切に願います。
誰か力のある方がこのブログを見ることを祈って…。
・海外に刀を持ち出す時は登録証を返還しなければならない
海外へ刀が出る際に例外なく起こる一番の問題は、刀に付いた登録証が外されてしまう問題かと思います。
そして再度刀を海外から輸入する際は、以前付いていた登録証ではなく、新しい登録証を再度付ける事になります。
登録証は基本的に昭和26年3月から発行されています。
登録証については「一江左かさね」さんのブログが分かり易いので以下にリンクを載せておきます。
これを見ると当初は登録数が振るわず、旧華族などに率先して登録して貰ったようですが、これは裏を返せば昭和26年3月登録の物などはその登録地から伝来を探り得るヒントになっている可能性がある事が分かります。
昭和26年登録でなくとも古い登録証であれば何県で登録されたかというのは少なからずある一時期の所有者を探る上でヒントになります。
例えば以下は東京都の昭和26年登録の登録証ですが、これの面白い所は無銘にも関わらず「伝助重」と書かれている事です。
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東京のどの家から出たかはこの登録証からだけでは分かりませんが、助重の刀として伝来してきた事が分かる貴重な資料でもあります。
(因みに現在日刀保の鑑定書では助重とは異なる鑑定がされています。)
そうした事からも古い登録証はそれ自体が1つの時代の歴史を示しえる貴重な資料となっている事も少なくありません。
登録証の紙も現代のものとは異なりますしね。
しかし海外に持ち出すとなるとこの登録証が刀から外されてしまい回収されてしまいます(文化庁に登録証を返還する事になります)。
そして一度海外へ送った刀を日本に戻す場合は、再度登録証を取る必要があります。
その時、以前の登録番号を引き継ぐことは残念ながら出来ず、新規の登録番号になります。
つまり「令和6年1月登録、登録番号40万番台」などの数字になってしまうのです。
現在は無銘は「無銘」として登録されるはずなので、再度発行される登録証には「伝助重」とは記載されないでしょう。
こうなると歴史が1つ失われる事になります。
更に更に不幸な事に、この刀に日本美術刀剣保存協会(日刀保)の鑑定書(保存刀剣、特別保存刀剣、重要刀剣、特別重要刀剣)が付いている場合、この鑑定書もまた登録証番号とリンクしているので、登録証番号が変わると鑑定書との繋がりがなくなり、その刀と鑑定書の繋がりを証明出来なくなってしまうのです。
鑑定書は一般的にその刀の真贋や出来を証明する物であり、その刀の価格の担保にもなっています。
そのため以前の登録証のコピーを持っておくなど、大切にセットで保管されていれば良いのですが、コピーを紛失してしまうと大変なことになります。
海外に刀が出る時の問題というのはあまり知られていない部分で結構深刻な問題でもあると思うのです。
刀が海外に出るのは止められないと思いますが、こうした登録証問題の対策を考える事は出来るはずです。
例えば以前の登録番号をまた付ける事が出来るようにするとか。(きっと照会作業が難しいのでしょうが…)
是非このあたり刀に携わるお偉い方々には色々と考えて頂きたいものです。
あ、そういえばですが。
「登録証と鑑定書の繋がりがなくなる」これを利用して例えば日刀保の審査で無銘刀に不服な鑑定結果が出た時、一度海外にその刀を出して再度輸入する事で登録証番号が変わるので再度鑑定書を取り直す事が出来るという技があるようですね。
そうでなくても以前特保の付いていた刀が再審査に出したら偽銘になった話も聞きます。おいおい…ですが。
これもどうかと思いますが、これで鑑定結果が変わってしまう事があるというのもまたまた厄介な問題な気が…。
今回も読んで下さりありがとうございました!
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それでは皆様良き刀ライフを!
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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)
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