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日本刀「江戸三作」の遭遇率と価格

江戸三作と言えば、水心子正秀、大慶直胤、源清麿の三工が挙げられています。各工についてざっくり書くと以下のような感じ。


①「江戸三作」の刀工をざっくりと

水心子正秀

「日本刀はすべからく古刀の昔に復するべき」つまり、鎌倉時代や南北朝時代などに作られた実用本位の刀を再現するという思想「刀剣復古論」を掲げた人であり、当時100名を超える刀工がこれに賛同。
当時の原材料や作刀方法を研究し再現しようとしたが、結論から言えば完全な再現は出来なかった。
しかしそれらの研究成果を詳細にまとめており、現代の作刀文化にも大きな影響を与えていると言われている。
門人も非常に多く、故に「新々刀の祖」などと言われている。
因みに「新刀の祖」は堀川国広や埋忠明寿とも言われている。
現在「祖」と称えられるほどにそれだけその時代に不可欠な刀工だったと言える。


大慶直胤

水心子正秀の門人となり実際に刀剣復古論を実践した刀工。
水心子正秀が考えた事を直胤が実戦する、そのような感じだろうか。
腕が良く相州伝や備前伝を特に得意としつつも五ヶ伝何でも作れた天才。
その人気ゆえに全国各地から招聘の要望が殺到して全国各地で作刀。
地方で鍛刀した場合は「イツ(伊豆)、ヒッチュ(備中)、イセ(伊勢)」など必ず地名を銘に切る。
匂口が柔らかく地景も巧みに入り見入ってしまう作が多い。重美指定の備前伝の作は乱れ映りも鮮やかに出ており、匂口含めて本歌の長光あたりに紛れるほどに上手い。


源清麿

水心子正秀や大慶直胤とは直接関係がないものの、清麿も復古刀論には賛同していたらしい。
四谷正宗の異名で称えられるほどに自身の作風を確立。
潤いある深みのある鉄に地景を見事にいれつつ刃中にも金筋や砂流しなどが入り、所々に粗い大きな沸が入る。
正宗のようであるが、大切先で如何にも物切れしそうな姿は時代柄もあるかもしれないが決して正宗に似せようとしている雰囲気は感じられない、と個人的には感じる。
酒を飲み最後は自害。享年42歳と若くしてこの世を去る。
出来不出来の差があまり無く大体どれも上手いと聞く。
作刀数の少なさからも希少性が高い。



②鑑賞会や刀剣店で見かける遭遇率

(主観多い点はご了承ください。)

まず刀の鑑定鑑賞会での遭遇率が高い順。
①大慶直胤、②源清麿、③水心子正秀、という印象。
水心子はなぜかあまり鑑定刀などでは見ない気がする。
大慶は比較的よく見る気がするが個人的には当てられず毎回悔しい思いをさせられる。
清麿は鑑定刀に出て来ることも多い。
古色があり一見古く見えるも粗い沸があったり大切先だったりと清麿ワールドが展開されているので結構当たる人も多い。
それだけ特徴が出ている刀工とも言える。

次に刀剣店で売り物として出会う遭遇率高い順。
①大慶直胤、②水心子正秀、③源清麿、という印象。

直胤と水心子はほぼ同じ位な印象があり結構刀剣店で見かける。
ただし両者とも作風は多岐にわたり、それぞれに人気や不人気などがあるようである。
例えば水心子で言えば復古刀論を唱える前の作に優品が多いとも言われ、助広の濤乱刃を写したような作は人気が高いとも聞く。
重要指定品を見ていても濤乱刃のような作や真改風の匂口深い直刃が多い印象があるが、こうした重要に指定された水心子の作は人気なためかお店でも殆ど見ない。そもそも指定品が少ないというのもあるが。(重要に拘る必要もない気がするが1つの指標として挙げた)

大慶直胤で言えば相州伝や備前伝の作は見るが、他の大和伝や美濃伝、山城伝の作はあまり見ない。見ないが製作はしているようなので存在はしているのだろう。
また龍や童子など見事な彫り物のある作も現存しているが、そうした彫り物が施された作はお店ではあまり見ない。やはりそうした作は人気なのかもしれない。
なので「店で見かける事は多いが内容を絞るとなかなか見つからない」これが直胤と水心子の印象。

次に清麿
先の2工に比べて作の総数は少ないが重用指定数は一番多い。
清麿はまず店頭に並ばない。
在庫のあるお店も少ない。
資産家でありコレクターの元に多くが納まっている。1人で沢山持っている人もいる。故に手に入れるにはまず資産家にならなければならない。
資産家になった上で名品を多く扱う刀剣店と仲良くなり頼んでおけば連絡を貰えるかもしれないし奥から出して頂けるかもしれない。
なぜ名品を多く扱う刀剣店かといえば、そうしたお店でないと高くて仕入れられないから、である。
故にちょっと刀に興味を持ったからといって刀剣店にふらっと立ち寄り「清麿ありますか?見せて下さい」と言って見れる可能性は低い。
新々刀でこうした刀工は他におらず、清麿が如何に異例かを物語っている。
とはいえ昔は価格が高くなったのは昭和頃だそうですが。


③価格の話

刀(生ぶ在銘)での値段を書いてみる。ネット掲載品やここ数年で実見したものから。
出来や状態、伝来なども値段に反映されるため、値段が安いから安い、高いから高いというわけでもない点は注意。

水心子正秀
特保で175万、250万、350万、重要で700万、1100万。

大慶直胤
特保で320万、350万、350万、380万、重要で650万、850万、950万。重要になると問い合わせ品も多い。

源清麿
昨年位までは重要で3~4000万円くらいだったが、最近の急な円安で今はもっと高くなっているはず。
特に海外ファンも多いと聞くので、今となっては5~7000万位と想像しているがもしかしたらもっと高い値段設定の所もあるかもしれない。
基本値段は表示されていないので交渉となる。



という事で江戸三作の刀工作を買いたい!と思った場合、遭遇率や資金面で一番難易度が高いのは圧倒的に清麿です。
水心子正秀や大慶直胤の刀は特保で300位してしまうかもしれませんが、脇差などになれば100万位で買える物がありますし、保存刀剣の脇差などであれば100を切るものもあるでしょう。
なのでどうしてもその刀工を手に入れたい方は脇差で探す事をお勧めします。
え、清麿の脇差なら安いかも…って?
確かに刀よりは安いですが2000位は覚悟しておいた方が良いかもしれません。

大慶直胤の相州伝写し



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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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