実際のところ「刀剣本」を読むことで、何が分かって何が分からないのか
日本刀についての本は沢山あるものの実物を見るのが最高の教材だ、とはよく言われる。
では実際本を読むことで何が分かって何が分からないのか、について個人的な経験を基にまとめてみる。
①日本刀(刀身)について
本を読んで分かる事は刀そのものというよりも、それを取り巻く知識であるように感じる。
源清磨という刀工がどのような生涯を送ったのかは分かるが、清磨の作風を本を読むだけで理解する事は出来ない。
例えば刃が冴えると書いてあっても他に比べてどの程度冴えるのかなどは分からないし、地鉄の地景が写真に写っていても鉄の潤いなどの色味は本では分からない。
また刀身の姿の時代変化を本で説明される際は、製作当初の完品状態での理想形をイラストを使って説明されている。
しかし実際の刀を見てみると完品状態の理想形の物がまず殆ど残っておらず(特に鎌倉時代の物など)大摺上げされていて姿が変わっていたり、研ぎ減りで帽子の形や身幅が変わっていたりなどするので、正直本の理想形に形を当てはめて姿を捉えるのは難しい。(脳内で製作当初の姿に直す技術が求められるがこれはなかなかに難しい)
かといって美術館で完品を見ようにも刀身が横に寝ているので姿を捉えるのはこれまた難しい。
理想は美術館にあるような完品に近い状態の物を手に取って見るのが一番良いが、昔の物になる程手に取る事自体が難しくなるというジレンマがある。
更に鎌倉時代の物で完品に近い状態の刀など置いてあるお店は限られるし、一見でいきなり行って見せてもらえるものでもなく、かといってお店と親しくなってもお店によっては置いていない事もあり見る事が叶わない事もあり、頗るハードルが高い。
初心者でこのような刀を手に取る方法は、現実的な所はやはり鑑賞会に参加する事に思う。
そして完品を持つと例えば鎌倉期の太刀と新刀の虎徹などで重心のバランスが違う事にも気づくと思う。
新々刀や南北朝時代の古刀は重量にも驚かされる。
これらは本では得られない生の情報ではないだろうか。
・刀装具について
刀に比べると意匠がデザインされている事もあるので本から得られる情報は多いように感じる。
例えば刀装具は得てして解説が無くとも写真を見るだけで何となく作が分かるという特徴がある。
例えば以下の写真。
梅の樹が描かれていて花咲いているもの、つぼみの状態の物があり、下地に魚子が円形に配されている、櫃孔は2つ開いていて覆輪らしきものが付いているという事までは誰でも分かる。
次に以下は刀身の説明である。
説明文を抜粋すると「地鉄は詰み澄んだ小板目肌。広直刃調にに虎徹独特の連れた互の目を交えた刃文が美しく冴えた同作中の佳品である。」と書かれている。
このように刀身の写真を載せて地鉄や刃文が説明された本もまたとても多い印象がある。
では何も知識がない人がこの刀身の写真を見た時に、先の鐔のような情報量を得られるかを考えると、これはかなり難しいだろう。
せいぜい反りがない刀、くらいの情報量ではないだろうか。
そんな事を考えるとやはり刀身の方が本で理解し難い要素というのは多いように感じる。
しかし鐔の写真でもやはり鉄などの材料の色味や質感は手に取らないと分からないし、載っている写真も一方向のものからが大半なのでやはり実物を見る事が一番の教材である事に変わりはないのは言うまでもない。
・終わりに
総じて難しいのが、やはり「程度」であるような気がする。
本では一行で書かれるような「匂い口がやや沈む」の「やや」がどの程度なのかを理解するのが非常に困難。
しかしこれが自分のなかで何となく分かってくると刀剣本が途端に楽しくなってくるのもまた事実。
その為には今は実物を沢山見ながら少しづつ自分の中に基準を作っていくしかないでしょうが、あと10年位経てば例えばVRのような物で「これが匂い口がやや沈む見え方だ」というようにお手本を誰でも気軽に鑑賞出来るような時代がくるのだろうか。
もしそうなったら今よりも遥に理解を進められそうですね。
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それでは皆様良き御刀ライフを~!
↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)
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