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インフルエンサーの拡散リスク(日本刀の話)

ここ3年程でインフルエンサーの方が刀を購入するケースが増えてきました。インフルエンサーの方は桁違いの拡散力を持っているので多くの方に刀の魅力が伝わり日本刀の良さが再確認されるとても良い機会だと思っています。
一方で誤った刀の取扱い方法などが拡散されてしまうとそれが大勢の人に瞬時に拡散されてしまう弊害もあります。
刀を所持するにあたって正しい知識を付ける事は怪我や事故の予防であったり刀そのものを守っていく事に繋がるので、その正しい知識を如何にこれから所有する人達に正確に伝えるかというのは日刀保や刀剣店、職方ないし、業界全体の課題であり責務のように感じます。

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①インフルエンサーの拡散リスク2つ

30年前は刀を買うにはお店を訪れなければならず、購入時にそこで刀の取扱いを教えてもらう事も出来たはず。
しかし今はネットでも買えてしまうので、取り扱い方法を教わる事なく買えてしまう。
30年前は間違った取扱いを吹聴する人がいても、その人の拡散力はせいぜい10〜30人程度だろう。
しかし今は何百万人という人に一瞬で誤った情報が伝わってしまう。
この差はもの凄く大きい。
これは業界にとっても所有者自身にとっても大きなマイマスとなる。

・業界にとってのリスク

業界にとってみれば間違った扱いが増える事で錆びたり傷の付く刀が増えるだろう。
他にも刀を買いに来た人に刀の作法を伝えた所で、「そんなにめんどくさいの?インフルエンサーが動画で言ってたのと違う。じゃあやっぱりいらない」と耳を貸さない人も出てくるかもしれないし、購入後1か月して「すぐ刃こぼれするんですが?」と言ってくるなど所有者全体の教養レベルが下がる恐れもある。

ボロボロになる刀が増えて研師は仕事が増えるかと思いきや、そういう人は恐らく小さな傷をあまり気にしないし研ぎに出すという知識も無いはずなので別に研師の仕事が増えるわけでもないだろう。

・拡散したインフルエンサー自身のリスク

一方誤った情報を拡散する事による所有者(インフルエンサー)自身のマイナスとしては、間違った扱いや雑な扱いを大衆に晒す事で品(教養)の無さを視聴者ないし読者に感じ取られる事だろうか。
例えば美術刀剣を居合抜きしたりなどなど。
刀を取り扱う作法なんてめんどくさい、自分が楽しめればそれで良い、所有者の勝手だという人も中にはいるかもしれないが、見る人が見ればその人の品を疑う事に繋がる。
品のある人と無い人での接点は殆ど無くなるだろう。
そうなると教養の高い一部の人が美を中心とした鑑賞を楽しむのに対して、残りの教養の低い大多数の人が古い歴史ある刀で刺身を切ったりペットボトルを斬ったりと、同じ刀剣趣味でも考え方の溝が深まる事になる。

ところで最近色々な方にお会いする中で「所有物≒品格」である事が分かってきた気がする。
刀に限らず一級品ばかりを所有される方で品ないし教養の低い人はいない。
皆凄い成功を収めているにも関わらずとても謙虚で私のような若造の話にも耳を傾けてくれる。
きっとそのような人だから成功もするし一級品も集まるのだろう。

話は戻るが、いつまでもYoutubeや Twitterなどの媒体が続くとは多くの人は思っていないはず。
その先更にその人自身がビジネスを拡大したりなどして取り巻く周りの人々の層が変わった時にこの誤った取り扱い動画などはその人自身の品格を落とす黒歴史として残ってしまう事は注意すべき事かもしれない。
そのような人と交流したいと思う教養の高い人はレアか裏があるだろう。


②刀の魅力や正しい知識を多くの人に伝えてくれるインフルエンサーもいる

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一方でふなっしーをはじめ刀の魅力と正しい知識を伝えてくれるインフルエンサーもいる。
やはり心の底から刀が好きだから知識が深いし、学んだ内容を多くの人に共有してくれるのだろう。
せっかく共有してくれるなら歴史ある刀を振り回す動画や投稿よりも、この方のように正しい知識を共有して刀の大切さや魅力が伝わるような内容を共有してほしいと願わずにはいられない。
そういう人が増えれば刀に対する誤った考え方は減り大切にしていく人が増える事で、業界の盛り上がりに比例して刀も綺麗な状態で後世に数多く残っていくのではないか。

勿論自分自身がインフルエンサーとなってその役目を担えれば一番だが、何十万、何百万人というフォロワーを集める才能は自分には無いので、せめてそのようなインフルエンサーが正しい知識を探した時に、ああこの人の情報は精度高そう、という内容をちりばめておくくらいしか出来ません。
私のフォロワーさんには知識豊富な方が多いので、願わくば同じようにネット上の様々な所に正しい情報というのをちりばめておいてほしく思います。
そうすればそれを見たインフルエンサーの方が正しい情報を拡散してくれるかもしれません。

③終わりに

そういえば有名な方が購入された刀は結構値段のするものでした。
どこで刀を買ったかは不明ですがとにもかくにも拵が付いているとはいえマイナー新刀刀工の保存刀剣でこの値段はあまりにも高すぎる気がする。
重要刀剣が買えてしまうではないか。
それともあまりにも出来が傑出しているのだろうか。
しかしそれであれば最低限特保にはなっているだろう…。
そして大名が持っていたらしいというがそれも本当かどうか…。
画像では細部が見えないがぱっと見の拵の作りが大名家の物にしてはバランスが悪くチープにも見える。
どういったものかは実際に見てもいないので分からないし、見たところで分かる気もしないが、もし仮に相場の倍以上の値段で売っているのだとしたら、全くの無知の人相手にこんな商売をしている人がいるのかと思うと背筋が凍る。

やはりある程度知識を付けてから刀を買う事は大事なのかもしれないが、とはいえこういう商売をする人がいる限り刀を好きで買った人も後日嫌な思いをして離れる人が出るかもしれない。
商売をする人にも生活がある事は分かるが無責任な販売ばかりされていたら人も育たないので刀はこれからの50年で更に多くが破壊されることだろう。

刀を売るなら白鞘の払い方、手入れの仕方、保管の方法、マナーなど最低限の事は必ず伝えなくてはいけないし、ネットで購入する人にも刀の取扱説明書を同梱したり、事前にWEBテストで取り扱いについてのテストを受けて一定得点取らなければ所持出来ないなど、所有者が正しい知識を持って所持出来る仕組作りを刀販売とセットで考えなければならないのではないか。
今は所有者の自己努力に委ねられすぎている気がする。
刀も所有者を選べないのは不運ですね。

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(↑因みにこちらの黒漆太刀拵は名品)

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それでは皆様良き御刀ライフを~!

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