未来の刀剣需要について考えてみる
日本刀は高級品。
それは今も昔も変わらない事実。
幾ら安い物は数万円からあると言ってもそれは傷だらけの研ぎ減った居合向きの刀で、鑑賞用の刀を選ぶとやはり80~100万円位はしてしまう。
(短刀や脇差であればもっと安いですが)
若い人で手元に100万円あるとして、その100万円を刀に使う人は今の日本にどのくらいいるのか。
100万円あれば軽自動車は買えます。
家電は一式揃えられるし、生活も当面出来る。
投資する人も増えているからそっちにお金を回す人もいるでしょう。
自分が言うのもなんですが、そう考えれば普通は購入の選択肢に刀が入っていることはまずありません。
刀は無くても困らないので。
特に今はコロナで財布のひもを締めている人は多いし、これから数年その傾向は更に強まることが予想されます。
そんな中、刀の需要はこの先どうなるのか、増やす為の活路はあるのか?
あるとしたら何か?
個人的に考えてみました。
※因みに私は刀剣店で働いているわけではありません。
実際の需要の変化など事実とは異なる場合もあるかもしれません。
これはただの刀好きが個人的な感覚で書いているだけの記事です。
①現状
・鬼滅の刃や刀剣乱舞の影響で刀の認知が若い世代の中で進む
・刀の展示会は増えている
・美術館などでの展示会来場者は若い人が多い
・反面、刀剣需要は右肩下がりで刀の価格も下がっている
・日刀保の会員数も右肩下がり
・所有者の高齢化
・お金のある海外へ刀剣流出
つまり、日本ではアニメやゲームで刀に興味を持つ人は若い人を中心に急増していますが、実際の刀剣購入に至っておらず、海外へ刀が流れつつあるのが現状ではないでしょうか。
そこにコロナ騒動があり、大刀剣市をはじめとした展示即売会の開催が続々と中止。
既存客は高齢の方が多くコロナが収まるまでは外出を控えている人も多い。
仕入れた刀はなかなか外に出て行かず、同業者同士で業者価格で交換し合う状況が続き徐々に体力がなくなっていく。
②30年後の未来
まず上で書いたことはこれからも継続すると思っています。
今60歳の人が90歳になるわけですから、今日本で名刀を持っているコレクターの多くが亡くなります。
それに伴い多くの名刀がお付き合いのある刀屋さんへ渡ります。
例えば特別重要刀剣に指定されている刀は現在約1400振。
2年に一度50振増えるとしても、30年後は2150振位になっている可能性。
これらは買おうとすると1振1500万円は越えてきます。
しかしこのランクは不思議といつの時代も収まるところはあるので、大きな問題にはならないかもしれません。
問題は重要刀剣以下。
重要刀剣で言えば現在でも約12000振の指定があり、このペースでいけば30年後は15000振位になります。
指定数については以下をご覧ください。
問題は買う人の数。
因みに現在の日刀保の会員数は令和2年3月末時点で4185人。
(昨対比マイナス156人)
会員数は純粋に買う人の数とイコールではないですが、購入する層に近しい数ではないかと想定します。
毎年100人減るとすると30年後は会員数1000名弱に。
それに対して重要刀剣が15000振。
今は会員の1人が3振重要刀剣を持っていたら市場から無くなる計算ですが、30年後は1人で15振重要刀剣を持っていないと市場から無くならない計算。
明らかに供給過多です。
こう考えると重要刀剣以下の刀も価格が更に下がるのは目に見えています。下げないとなかなか売れない、下げても売れない、そんな未来が来ます。
日本はこれから超お金持ちと貧乏の二極化が加速します。
今いる大半の中間層はいなくなると言われています。
まさに一億総貧乏社会。
明日の生活に心配がある中で刀を買うのは難しいです。
なので、極論を言えば刀剣価格が全体的に下がる中で、国内の超お金持ち数名、数十名に対して全国の刀屋さんが刀を売り合う未来が来ると想像しています。(後は海外ですね)
このままいくと相当に過酷な未来ですので、そんな時に備えて未来のお客さんを育てて刀の需要自体を底上げしておく事が急務の課題の一つであることは皆が同意される事と思います。
その中から今でいうブレストシーブさんや刀剣ワールド財団さんの様な刀業界全体を救う人達が現れるかもしれません。
需要自体の底上げは刀業界に関わる多くの方が既に苦心されていることと思いますし、色々な方法があると思います。
今回は「20代~40代の若い人の刀購入者を増やすには」という視点で
若い人が将来的に刀を買うまでの流れをどうすれば刀屋で作れるか、を私なりに考えてみました。
③自分が刀屋だったらこれをする
30年後を担う今の20代~40代に向けて私が刀屋であれば以下をします。
1.認知の拡大をする
若い人は本物の刀が売ってる事自体を知らない人がとても多いです。
意外に感じるかもしれませんが、これは私が展示会をした中で直接100名位に聞いた事なので間違いないと思います。
大体9割は知りませんでした。
そこで刀を売ってる事を認知してもらうためにメディアへの露出を積極的に掛けます。
SNS(Twitter、インスタ、facebook、Youtube)は当然全てやります。
1週間に一度の頻度では無くて毎日更新して「刀と言えばこのお店」と言う事を脳裏に焼き付けます。
毎日更新するには体力も必要なのでそれが出来るところはほぼ無く、それだけで差別化できるでしょう。
今日も開店してますなどの情報ではなく、扱っている刀の魅力が伝わるような情報を発信します。
チャンネル登録数が多い刀好きYoutuberなどが居れば、そこへ仕事を依頼します。
2.お店へ入りやすくする
得てして刀剣店は古風で入りづらい雰囲気が満点なので今風に改装して入りやすくするか、もしくは初心者でも入りやすいように、張り紙を表に貼るなど入りやすい環境を整えます。
以下は店舗の大きさも大げさですが、店内が見やすくスタイリッシュなこんなイメージです。(防犯上との兼ね合いは難しそうですが)
初めての人が多く入ってきた時に既存のお客さんが来た場合は、当然蔑ろには出来ないので、別室へ通すなど特別感を出します。
そこで表に出ていない刀をゆっくり見てもらったり話をします。
(これは今の刀剣店のスタイルと同じですね)
そしてもし初心者の方が一人で来店された場合は、なるべく常連さんから初心者のお客さんへ刀の話をしてもらうように促します。
(同じお客さんの立場なので話易い)
初心者からしても刀に詳しい人と知り合えるのは嬉しいですし、何よりも同じ趣味で繋がれるのは年代関係なく楽しいです。
お客同士で仲良くなればそれがその店に来店する理由にもなります。
得てして人間は教えたい欲求があるので常連さんも喜ぶかもしれません。
そうして、お店をお客さん同士が交流できる場にしていきます。
外から他のお客さんが見えると、店内に入りやすいので通行中の人も入ってくるかもしれません。ガラス張りと言わないまでも入口から中の様子が見えるようにはしておきたいです。
3.お客さんを見える化する
そのお店にどんな人がお客さんがいるのかは傍から見て分かりません。
そうなると刀を買う人はきっと60代くらいだろう、と勝手に想像し若い自分が買うものではないと勝手に距離を取ってしまう事もあります。
なので私ならお店のHPやSNSで刀を買ってくれた人を顔ばれ身ばれしない程度に写真付きで紹介します。(掲載の事前確認は勿論必要です)
例えば以下のような感じでしょうか。
・30代女性 大和守安定 購入ありがとうございました
「30代女性が遊びに来てくれました!実は3回目の来店で今日は何と4時間も楽しくお話させて頂きました。来る度にどんどん知識を増やされていて驚かされます。そして何度も悩まれて遂に本日大和守安定ご購入!地刃ともに綺麗な御刀です。大和守安定と共に素敵な日常をお過ごしください^^」
(画像転載元:http://xn--dkqp0gri91r38rn1wmlurtz.com/archives/31648699.html)
画像は適当に拾ってきたものです。
本来であればここに顔モザイクを追加するような感じでしょうか。
こういう事がHPやSNSで見れるだけでも自分と同じような年代の人が買っているんだと知れますし、来店し易さに繋がる気がします。
4.お客さんから発信してもらう
刀屋さんは扱っている刀を知られたくないからか、店内では結構写真NGな所も多いです。
そのため、刀屋さんの店内がどうなっているかを知ることは更にハードルが高く、それも来店のしづらさに繋がっています。
ですので、例えば写真OKなスペースを用意、そこであればどこを撮影しても可という場所を作り、好きなだけ写真を撮ってSNSなどで拡散してもらいます。
その場所では自分の刀を持ってきて他のお客さんと所持刀について語り合うもよし、その様子をSNSで発信してもらってもいい、お客さん同士で和気あいあいとしている様子が自然な形で多くの人に伝わるよう工夫をします。
メディア取材などあればそこに呼び、若い人でも買える物という印象を植え付けます。
…と、長々と思うままに書きましたが、上記は所詮刀商売を知らない素人が客視点で書いたただの戯言です。
④自分は刀屋とは立場が違えど
因みに私は刀を売っているわけでは無くて、刀をインテリアとして飾る為の展示ケースを作っている人です。
ですが刀に多くの人に興味を持ってもらいたいという気持ちは同じです。
私は今32なので20代のように若くはないですが、この業界からすればかなり若いです。
刀の知識はまだ全然ないですが、別の角度から刀の魅力を伝えられるとは思っています。
そして同じ趣味を持った方々と楽しく刀について話せる場があればそれだけで楽しいです。
⑤終わりに
最後にごく一部の刀屋さんに直して頂きたい事を書きます。
私も初めて刀を買う時、色々な刀屋さんを回りましたが、中には刀剣店に入る時に挨拶しても無視されたり、刀を手にとって見せて頂けないかと言っても断られる事が稀にありました。
私以外にお客さんはいません。
きっと買うように見えなかったからかもしれません。
「刀を買いたい」という事を伝えればほぼ手に取って見せて頂けるのですが、ただ「手に持たせて下さい」では断られる事もあります。
(扱っている商品の特性上お店としてもはじめての客に警戒するのは仕方のない事です)
上記は私が経験していく中で、分かった事ですので今からすれば自分の言い方にも原因があったのかなと振り返る事も出来るのですが、
何も知らない状態で断れ続ければ、心が折れる事も、刀剣店に行くのが怖くなるのも無理はない。
若くてすぐに買わなそうに見えても刀屋に来ている時点で、刀について知りたい、見たい欲求は人一倍強いはずなのでせめて挨拶くらいは返してほしい、あわよくば刀について手に取りながら色々説明してほしい、手に取ると客の物欲が刺激されお店にとってもメリットがあると思うのでその点は是非にお願いします。
今は買わなくても1年後、10年後、20年後、お客さんになっている可能性はあると思います。
そういえば以前泰文堂さんがやっていた泰山日本刀スクール、あの企画も凄く良かったんですが中で反対があったのでしょうか。
最近はもうやってないようで残念です。
このような企画が刀剣店から増えて刀に触れられる場所というのが増える事を願います。
今回も読んで下さりありがとうございました!
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それでは皆様良き御刀ライフを~!
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