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刀展示ケースの地震対策について
昨夜は久々の大きい揺れがありました。
皆様大丈夫だったでしょうか?
私はというと壁掛けしている展示ケースの動きを撮影していました。
地震が起きるとまず壁掛けしている刀展示ケースの耐震性が気になって動画で撮影してしまう。
— 刀箱師 | 中村圭佑 | 展示ケース作家 (@katana_case_shi) February 13, 2021
先ほどの揺れ(震度4)では刀身は一切動きませんでした。
汚部屋すぎて動画アップできませんが…
(刀箱メモ)
私の住んでいる神奈川県は震度4と比較的弱かったのですが、強い地震が起きた際に、
・刀身位置がずれないか?
・刀掛け部から落下しないか?
・展示ケースが壁から落下しないか?(壁ごと抜け落ちないか?)
は個人的にも製作上特に気になっている点だからです。
過去にも震度4程度では問題ない事を確認していましたが、今回も刀身は動く事無く大丈夫でした。
ケースは壁に固定されていたからか、少し動いてるかな?と感じる程度で殆ど揺れていませんでした。
ただ震度が1上がるだけでエネルギーは何倍にもなるので、この感覚はあまりアテになりませんが。
①刀展示ケースの地震への対策
まず実際にケースを揺らしたときの様子をご覧ください。
地震再現
— 刀箱師 | 中村圭佑 | 展示ケース作家 (@katana_case_shi) March 21, 2021
低反発素材で好きな角度で刀身をホールドできるのでこれだけ揺れても刀身はびくともしません。
これも特許申請中の一部。
また防水性なのでスポンジが空気中の水分を含み刀身との設置点が錆びにくいようになっています。
刀展示ケースは刀の事を色々考えて作ってますよ〜!#刀箱師伊勢丹 pic.twitter.com/9289mQnwUd
上記程度の揺れで有れば刀身は全く動かないように工夫しています。(手で触ってこれだけ揺れるのはモニタースタンドに固定してるからで壁掛けした時はここまで揺れないのでご安心を!)
地震については設計時から意識していた部分で、コスト上で出来る範囲での対策はしています。
・刀身は低反発系のスポンジでホールド
形状記憶するので横揺れではほぼ動かないと考えています。
グリップ力も高いです。
動くとしたら直下型で刀身がジャンプするような時でしょうか。
これはまだ経験が無く具体的には不明ですが、震度6位からこのような事態が発生するのではと想定しています。
振動して刀身が跳ねた時に備えて受けを深く作っています。
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・ケース内は鉄より柔らかい素材で囲う
次に万が一刀身が揺れにより左右にスポンと抜けた場合など、刀掛け部から飛び出して、ケース内部で刀身が落ちた場合です。
その場合は鉄より柔らかい木材や樹脂で周囲を囲っているので、個人的には思ってるほど刀身にダメージはいかない(例えば刃が欠けたりなどはしづらい)と想定してます。
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しかしこれは机上の空論。
実際に起きてみないと分からないなのが物づくりの世界であり、だからこそ実際に起きた問題というのはとても貴重な資料となります。
例えばもし破損の瞬間の動画が撮れていれば、どこを補強すれば良いかなど改善点に繋がる事も多いです。
②検討していたその他の地震対策
・茎にワイヤーを通して固定
因みに以前実験で茎の孔にワイヤー(茎の接触部はシリコン)を通して地震対策していた事があります。
これであれば直下型が来ても刀身が上へ弾むのを防げるのではないかと考えました。
しかしこれは結局刀を鑑賞しづらいので止めました。
刀は飾るだけではなく手に取って鑑賞する事で良さが更に分かるものなので、取りやすい構造にしたいという思いがありました。
刀が取り出しづらいと段々手に取る事が無くなり愛着が薄れていくか、ワイヤーを結局付けない事になり機能として意味をなさなくなります。
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③耐震試験を行うことが望ましい
これらの対策が有効かどうかを見る為には、本当は耐震試験といって壁に展示ケースをかけた状態で震度7までの揺れを疑似的に再現する試験を行うのがベストです。
というかそれをしないと有効かどうかの確証が持てません。
以下の様な感じの試験です。
が、この試験をしようとすると1日あたり200万円以上かかり試験機を準備したり壁となる治具を作ったりなどすると400万円は超えてくるので1人で出来るレベルではありません。
なのでその代わりと言っては何ですが、壁掛けに使う市販のモニター用治具は耐震試験を行っている物で、かつ以下のように実績がある物を使用しています。
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(画像転載元:https://www.ace-of-parts.com/page/26/#anzen)
テレビモニターと同じ固定方法でかつ耐荷重を満たした上でこの治具にケースを装着しているので、理論的には震度6強でもケースが落下する事は無いはずです。
なので後は「ケース自体が地震で破損しないか」という問題と、「刀身が内部で暴れないか」という問題を耐震試験などで確認できれば安全と言えるわけです。
しかしこれは壁そのものが頑丈であった場合の話です。
皆が皆頑丈な壁の家に住んでいるかは不明です。
古い木造建築の家は柱がカビてボロボロになっているかもしれません。
なので例えば治具と展示ケースが頑丈に付いていても、壁ごと抜け落ちる可能性もゼロでは無いわけです。
それは耐震試験でも分からない為、どのような製品でも「地震による破損は保障しない」と通常なっています。
刀展示ケースもこのような理由から保障はする事が出来ませんが、地震は保障外!と突き放すのではなく、万が一の事態に備えて出来る範囲で刀を守る工夫はしたいと考えながら製作しています。
④地震時にケースに飾っておくのは危険?
因みにもしもの大地震の時、ケースに飾っておくのは危険と思われる方も多いかもしれませんが、周りから落ちてくる落下物や倒れてくる物などからは展示物を守ってくれるので、個人的にはケース内に飾っておく事が一概に危険とは思いません。
また、床置きよりも壁に固定している方がケース自体が倒れない分安全かもしれません。
勿論白鞘に入れた上で金庫に入れるのは最強でしょう。
でもそれでは「刀とくらす」という私が目指しているコンセプトは達成できません。
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皆が金庫や箪笥に入れ続ければ多くの人は刀を身近で見る事がないので興味を持つ人も減り愛刀家が減るのは当たり前です。
刀を日常生活に取り入れる(部屋に刀を美しく飾る)ことで、それを見た家族や友人など、刀に興味がない人にも日本刀の美しさを知ってもらい、未来の愛刀家を増やす事に繋げていくことで刀を1振でも後世に残したいという目標があります。
部屋に飾りながら安全に保管するというバランスが難しい所で、前例がない以上自分で実験をしながら前例を作っていくしかないのです。
その上で万が一自分の刀に傷が付いたらショックですが、その経験からケースの構造を見直して人様の刀に傷が付くリスクを減らせるならその位の犠牲はやむなしと考えています。
⑤終わりに
仮に金庫に入れていても津波で浸水すれば錆びます。
桐箪笥に入れていても火災で燃えます。
絶対安全な保管方法というのはそもそも存在せず、リスクをどこまで減らせるかの話になります。
そして現実問題として突きつけられるのはどうしても資金の問題。
個人で作るにはやはり限界があります。
その限界の中でどうリスクと向き合いながら作るのか、そのリスクを購入者の方に理解してもらうのか、は私がやるべき仕事だと認識しています。
つらつら書きましたが、資金が潤沢になれば耐震試験はやりたいです。
やっておくに越した事はないので。
ただ前に挙げた通り、耐震試験で6強で刀身が落ちなかったからと言って、実際の地震の時に落ちないかというと、やはり住宅構造は大きく影響してくるので分かりません。
また、試験で使用した刀身と同じものを実際に飾るわけではありません。
そこでも試験結果は限定的になります。
なので試験をしたからと言って「全て大丈夫、完璧」とは当然言えないのです。
SNSでは綺麗に展示出来るという事ばかりフォーカスして呟いてますが(そっちの方が反響あるので)、制作時は逆で安全に刀を飾るには?という事に比重を置いて設計しています。
綺麗に刀を飾るのはその後です。
※2023/3/27追記
名古屋大学様の協力を得て、遂に耐震試験が実現しました!
そして阪神淡路大震災、熊本地震、新潟中越地震、南海トラフ(まだ起こっていないので想定)の4つの地震全てにおいて、刀身の落下はなく、横方向のズレも1㎝程度で、耐震の高さを証明する事が出来ました。
名古屋大学様、本当にありがとうございます!
悲願…!
— 刀箱師 | 中村圭佑 | 展示ケース作家 | 刀とくらす。 (@katana_case_shi) March 27, 2023
制作した刀展示ケースが耐震に強い事が証明されました!!
名古屋大学さんと共同実験という形で試験が実現。
日本の最強地震4つ(阪神淡路大震災、熊本地震、新潟中越地震、南海トラフ)でも刀身が刀受けから落ちる事なく最後まで刀を傷つける事なく守り抜きました…!!#卓上刀箱 pic.twitter.com/PrVzNmxKdC
今回も読んで下さりありがとうございました!
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それでは皆様良き御刀ライフを~!
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