刀の王様 備前伝
圧倒的な生産量を誇った備前伝…
刀工数でも圧倒的な備前伝…
品質の高い備前伝…
いつかは欲しい備前伝…
という事で今回は備前伝について紹介します。
①圧倒的生産量
全国で約15000人いたとされる刀工の内、4005人が備前刀工というデータがあります。
なんと全体の約26%と圧倒的数です。
次いで美濃刀工1269名、大和1025名、山城847名、相州438名と続きます。
(「日本刀銘鑑」より)
ここから考えると、当時の刀の総数は分かりませんが、全日本刀の25%くらいは備前刀だったと想像できそうです。
また、隣接する備中も刀工数が山城と同じくらいいたとの事なので、備前と備中を合わせるとなんと、刀工の3人に1人が今の岡山県あたりにいたと考えられます。
王様と言われるだけありますね。
規模が他と全く違います。
②国指定品の半数が備前
国宝数
現在国宝刀剣は111振で、その内なんと52振が備前刀(備中含む)という衝撃。
全体の47%を備前が占めています。
重要文化財数
699振りの内、336振(備中含む)
全体の48%を備前が占めています。
多くの国指定品がある&御番鍛冶を務めた刀工は備前が多いという事から、備前伝には質の高い刀が多かったと言えそうです。
③代表刀工(数が膨大なので古刀のみ記載)
始まりは白根安生(しらねやすなり)という刀工が天皇の御剣を鍛刀したと伝えられていますが、現存はしていません。
実質現存しているのは古備前からになりますので、そこから時代毎に代表刀工を紹介します。
■平安時代後期~鎌倉時代初期
・古備前
友成、正恒
刀身が細身で長く反りが高く、刃文は直ぐ刃に小丁子、小乱を焼く穏やかな作が多いという特徴があるそうです。
これは当時主流であった騎馬戦に適応した姿と考えられます。
この2人は古備前の中でも双璧で比較的現存している作も多いそうです。
ただ銘ぶりに違いがある事から同時期に同名を名乗る者が複数人いた説も有力です。
■鎌倉前期~鎌倉後期
まさに日本刀の黄金時代と呼ばれている時代です。
刀身の身幅が広くしっかりした作りになり、刃文も派手。
しかし1281年の蒙古軍との戦闘を経た後は華美を抑えた質実な作へと変化していくそうです。
一文字派
則宗、吉房、助真
天下一を意味するという「一」の字を茎に刻んだことが一文字の由来とされているそうです。
則宗を祖として、その後の吉房や助真といった刀工が派手な丁子刃を焼いて一世を風靡しています。
助真は鎌倉に招かれて作刀したので、鎌倉一文字とも呼ばれます。
長船派
光忠、長光、景光
光忠は古備前の流れをくむ刀工と考えられ、長船派の祖とされています。
そして長船の名を確立したのが、光忠の子の長光、長光の子の景光です。
この3代の技術を基に、一文字派に代わり備前の主流になります。
この辺りの刀は乱れ映りも鮮明で、非常に美しいです。
直宗派
国宗
国宗は相州伝の礎を築いた人とされています。
畠田派
守家、真守
蛙子丁子と呼ばれるオタマジャクシのような独特の形をした刃文が特徴出来です。
守家には光忠との合作や、銘に「長船住」と書いてあるものから、長船派と関係が深かったとも考えられるそうです。
■鎌倉末期~南北朝
南北朝時代は皇室が北と南に分裂し、各地の有力者がそれぞれの勢力に分かれて全国的な動乱が続いた時代です。
そのため刀身は更に長くなり、切っ先も大きく伸びて貫通力を高めたとされます。
また、この時代から相州の正宗によって大成された相州伝が全国的に流行するので、相伝備前などと呼ばれる作風も登場します。
吉岡一文字派、岩戸一文字派
助吉
長船派
兼光、元重、長義
大宮派
盛景
吉井派
為則
宇甘(うかい)派
雲生、雲次、雲重(総じて雲類)
作風は備前というよりも備中青江に似てるところがあるように感じます。
地理的な関係もありそうです。
■室町前期~中期(応永備前)
南北朝が統一されたこの時期は世情が安定した時代です。
その為刀も優美な姿が好まれるようになったとの事。
この辺りの刀工は応永備前と呼ばれています。
鎌倉時代の一文字派や長船派の華やかな作風を模範にしていると考えられます。
長船派
盛光、康光、師光
■室町後期(末備前)
この辺りの刀工は末備前と呼ばれています。
応仁の乱をきっかけにして、戦乱が全国に拡がり戦国時代を迎えます。
戦闘スタイルも騎馬戦から徒歩による集団戦に変わり、太刀よりも打刀が主流になってきます。
その為、武器になる打刀も短時間で沢山作られました。
この実用本位の大量生産品が「数物」と呼ばれたりします。
長船派
勝光、宗光、清光、祐定
古刀はここまでです。
以降は安土桃山時代に入り「新刀」へと移っていきますが、吉井川の氾濫によって長船一帯が壊滅した事、関ケ原の敗戦で宇喜多氏が滅亡した事で備前伝は急速に衰退していきます。
④終わりに
こう見ると、やはり備前の最盛期(名工が集結した時代)は平安末期~鎌倉後期にかけてでしょうか。
ベテランの方からも、古備前友成、正恒、光忠、長光、景光あたりの人気は根強いと聞きます。
人気なので当然値段も1000万を優に超えてくる頗る高い刀工ですが、同時に凄まじい美しさを放ちます。
この時代の良い物を見てしまうとそれ以降の刀工の作に満足しづらくなってしまう事が個人的にはある気がします。
鑑賞会などで見る際はご注意ください。笑
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それでは皆様良き御刀ライフを~!