円安の弊害と日本刀
刀屋さんから聞いた話も含めて。
ここ1年で日本刀(美術刀剣)の値段が急激に上がったものがあるが、ごく一部の最上作に限っての話であり2極化している状況。
新刀や新々刀、並出来の刀は変わらないかむしろ少し下がっているとも聞く。
最上作がなぜ値上がりしたかといえば円安の影響による海外需要、という事になる。他には海外で日本刀が美術品として評価されてきているのかもしれない。
海外の人からすれば、1ドル100円の時に4000万円(40万ドル)だったものが、1ドル150円の時なら実質26万ドルで買えるので、この数年の急激な円安によりたった3年程で4000万円→2600万円になったような感覚であると考えれば円安の影響は充分プラスに働く事が容易に想像できる。
しかし現実はドル換算の所も多く、元々40万ドルに合わせて円が1ドル100→150円になったのであれば4000万円だった値付を6000万円に変えて…。
だと流石に海外の人から見て心理的に何も変わらないので日本円で5000万位に、ドルで見たら少し下がったくらいに見えつつも、円では値上げしている、そんな価格設定というのが今年の大刀剣市などを見て何となく感じた今の状況。
日本円しか持っていない人は買いづらいが、外貨を持っている人からしたら買いやすい、店も4000万で売っていた物が5000で売れるならプラス…という事で刀は海外に売った方が儲かる…。
という単純な話でも実はないようで。
これは一般的に刀剣店は刀を循環させて成り立っているからで、つまり客に売り、客から安く買い取り、利益を乗せてまた売るという、刀の所有者が変わる時に利益が出るビジネスモデルであるが故。
売るのも大事だが売った刀が戻ってくる事もまたお店継続の為には非常に重要とのこと。
市でも仕入れる事は出来るが、良い刀はここ最近めっきり減っていると聞く。そういう事もあるからか、もともと自分の店にある良質な刀の行先を管理する事は巡り巡って将来的に自分のお店を守る事に繋がるのだろう。
なのでとりわけ最上作などは売り手を選ぶというが、それは人間的にしっかりしているから売るという抽象的な見方よりも、お店に刀を戻してくれそうな人に売る、という視点の方が直接的には近い気がしている。
勿論刀を乱雑に扱う人は刀の状態を悪くするから(将来の商品価値を下げるから)論外である。
そういう視点で考えれば問題なのは最上作を海外の人に売る事ではない。
海外の人でも度々日本を訪れる人は多いし、日本に在住している人もいる。
つまりいずれお店に刀を戻してくれる人であれば海外の人であろうが売っても問題ないのである。(輸出時の紛失トラブルリスクなどは別として)
問題は国内外に限らず刀をどこに売り飛ばすか分からない(刀を行方不明にする)ような人、刀を乱雑に扱う人、こういう人が仮にお金持ちで大金を出すからといってホイホイ売ってしまうと目先は儲かるかもしれないが、長い目で見れば販売サイクルから在庫が1つ無くなる事になり、これを繰り返せばいずれ自分の首を絞める事になる、という話である。
もし今後これが顕著になる事があるとすれば、いずれ刀剣店の人が海外にこぞって刀を仕入にいく、という活動が今よりも顕著になると思われます。
この時に円高になっていれば今と逆の事が起こり、海外にあった刀が日本に戻って来るわけです。
なので円高の方が刀は海外に流出しにくい、はず。
因みに重要美術品などは基本的に海外に持ち出せない(国内でしか売れない)=為替の影響を受けない、ので値上がりの影響などはそこまで受けていない可能性が高いと想定しています。(これはあくまで私の予想)
とはいえ重美の中でも最上作は結局のところ国内だけでも需要があるので値上がりする事はあっても値下がりする事はないと思われますが。
それとは別に今現在生きていて製作活動をしている現代刀匠の方などは刀剣店に持ち込んでも安く買い叩かれてしまうので刀剣店の販売サイクルからは外れて、どんどん自分主導でSNSなど活用して自分の現代アーティストとしての地位を確立していく工夫をしていく方が良いと思うのです。
若い方で既にそれをしている人もいます。
個人的には現代アーティストとコラボしたような以下の展覧会なども今後の現代刀の立ち位置を昇華させる可能性がありそうでとても楽しみです。
ヤノベケンジさんの作品を集められているアートコレクターの方が購入する事で刀の世界にも興味を持つかもしれませんしね。
という事で自分には自分の出来ることを、私も少しづつですが美術館以外で偶然刀の魅力に出会える場所というのを世界各地に用意し続けようと思います。
愛刀家だけでなくその周囲の方々も美しい刀の世界に巻き込んでいきたいです。
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それでは皆様良き刀ライフを!
↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)