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山銅鐔の偽物が少ない理由
先日とある刀剣店に伺った際になぜ山銅鐔の偽物は少ないのか?という疑問を投げかけてみた。
理由は「利益が労力に見合わない」事と「山銅の古い質感を現在では再現できない」事の2点ではないだろうかということであった。
1点目の「利益が労力に見合わない」点について。
例えば鉄鐔であれば柳生(後代柳生ではなく)などの特保鑑定が付けば100万近くで販売されているし、金山にしても尾張にしても人気なので特保あたりの鑑定書が付けば40万以上で売られている事も多い。出来が良ければやはりこちらも100位はする。
流石に信家や金家などの在銘品は鑑定も厳しいので鑑定に通るのは難しいだろうが、もし金家などで通れば特保でも700万円以上はするだろう。小さい鐔なら500位で買えるかもしれないが。
全て鉄鐔であるので一度技術を習得すれば様々な偽物を横展開出来るという利点ももしかしたらあるかもしれない。
他にも夏雄の鐔などであれば2000万以上で売れるだろうし、こうした物に偽物が多いのは「同じ労力をかけるのであればより利益が多い方に力を注ぐ」という行動心理に立って考えてみれば比較的理解しやすい。
対して山銅鐔は大体は20万以下で安い物だと数千~数万円程度、高い物でも30~40万前後あたりになってくる。100を超えるものはほぼ無い。
勿論重要指定やそれに準ずるものであれば全く違う価格帯にはなってくるが、山銅鐔でそのハードルは指定数から見ても流石に高い。
このように山銅を利用したもので非常に高額なものはないことや、そもそもこの山銅鐔を好む人たちが鑑定書の存在を気にしない人が多い(鑑定書が付いていないで安いならそっちの方が喜ぶケースもまた多い)つまり鑑定書を取る事で物凄く値段を上げられるかと言えばそういうわけでもなく、全体的な需要も少ないので値段もそこまで高く設定はできないという実情があるようだ。
2つ目、「山銅の古い質感を現在では再現できない」という点。
山銅地は素銅のように精製されたものではなく、不純物を多く含んでいる事で、物によって緑っぽく見えたり、青っぽく見えたり、赤っぽく見えたりとなかなか奥が深い。かといってこうした古い山銅鐔を溶かしてたとえば古い雰囲気の銅ハバキを作ろうとしても上手く当時の色を出すことは出来ないらしく、どうしても違う雰囲気になってしまうらしい。
神社仏閣の古釘を用いて刀を製作するとなぜか現代刀が出来てしまったという話に似ている気もする。
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対して鉄はといえば、例えば茎の錆付などを見てもわかるように鉄への錆付技術は非常に精巧なものも多い。
故に鉄鐔は時代感を出せる偽物が存在していると見るべきで(成木鐔でも既にある)、それでいて技術の横展開(鐔だけではなく刀の茎の錆付けなど)が出来る可能性があるので、そうした点からも偽物が生まれやすい環境にある、というのは何となく理解出来る。
山銅の製作技術を極めても鉄鐔や夏雄は作れないし、刀の茎の錆付けも出来ない。
笹野大行氏がこうした古い刀装具にフォーカスを当てた本「刀装具の起源」を出版した時など、山銅地などの古い刀装具が一時期ブームになった事も過去あったらしいが、現在はといえばそうした数寄者は減ってきているようでもある。ただ今でも国内外に数寄者はいるし熱心に古い刀装具を集めている人もいる。
いずれにしても山銅鐔がまた再び注目されて値段が上がらない限りは偽物もほぼほぼ発生しないのではないかという、ある意味安心感みたいなものがある。
山銅鐔は歴史も長く刀疵など残る鐔もあり、実戦的な様子が感じられて個人的には好きなのですが。
先日の刀装具の年代測定など今後進む事で歴史が解明されていけばまた人気になるかもしれないですね。
山銅鐔はそれだけのロマンを充分に持ち合わせている鐔に思います。
という事で明日はいよいよ大刀剣市ですね。
今日は色々想像膨らませて出会いにワクワクしつつ寝る事にします!
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それでは皆様良き刀ライフを!
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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)
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