父が遺した御守刀の行方。電話相談で考えさせられる
今日1本の電話がありました。
先が長くないという60代女性からの電話で、内容を要約すると
というような内容でした。
刀工銘を聞くと昭和の現代刀工で有名な方の作ではない。
加えて為銘(’娘の名前が茎に刻まれている)。
恐らく作った時は50~100万くらい掛けて作られた物かもしれないが、為銘の現代刀(短刀)は次の売り手を見つけるのも難しいだろうし10万程度にしかならないのではないだろうか。正直そこまで付くかも分からない。
これで錆など付いていたらタダみたいな金額かもしれない。
売る場合の相談は刀剣店に持っていくのが良いと前置きをした上で、金額は期待できないだろう事を正直に伝えた。
そして模造刀クオリティで拵を作るにしても安くても10万は最低かかってくるだろう。漆でそれなりの拵を作るなら60万近く掛かるはずである。
女性は当初は蒔絵の短刀拵を作りたいと仰っていたが、サイズや複雑さにもよるだろうが比較的小さな蒔絵でもあるだけで値段が跳ねあがる。
拵を作る事で父の願いを叶えられる事に喜びや満足感が得られれば良いかもしれないが、作った所でその短刀の価値が大きく上がる事はない。
むしろ売る時は製作費に比べればやはり二束三文にしかならず、生活が苦しいのであれば拵など作っている場合ではない。展示ケースも同様。
結局、そのまま娘さんの誰かに渡して必要な時に売ってもらうのが良い気もするが、売ったところで大した金額にはならないだろうしそれであれば出来れば家で代々大切なものとして引き継いでいくのが良いのではないだろうか、という事をお伝えした。
しかし電話を終えてから悩む。
なんと答えるのが良かったのだろうか。
そういえば私も娘にお守刀を作った。
娘の名を刀身に刻んでいるので、同じく売っても大した額にはならないだろう。
この60代女性のお父様の気持ちはどのようなものだったのだろうか。
私自身を重ねてみて考えると、そもそもいつか売る目的でお守り刀を作っているわけではなく、純粋に娘の元気な成長を願って作っている。
元気な成長を願っているので娘の生活が苦しいならば売ってくれて構わない。これが娘の子(孫)でも同様だ。
これが私が感じる父としての気持ち。
であれば、それをそのままお伝えした方が良かったのではないか。
苦しい生活を強いてまで代々大切な物としてその短刀を引き継いでいく必要が果たしてあるのだろうか?
無いのではないか。
そして仮に60代女性の娘さんが短刀を母から受け継いだとして、娘さんからすれば母が祖父から譲り受けた大切な物はやはり手放しづらいだろう。
そうであれば60代女性が生きている今のうちにそのお守り刀を清算して娘に僅かでもお金を渡すのが父の気持ち的にも良いのではないか。
生活の緊急性にもよるが。
実に考えさせられる電話であった。
何が正解だったかは分からないが、最後は考えてみます。と電話は終わった。
この電話先の女性が何だか将来の私の娘と話しているようで、胸にくるものがあった。
この女性やその娘さん達がその後どうなるかは分からないが、幸多き事を願っています。
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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)
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