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刃切れの刀はなぜ公の場であまり売られないのか?
刀の疵の1つに「刃切れ」があります。
この疵は刀の疵の中でも最も嫌われている疵の一つと言っても過言ではないと思うのですが、恐らく初心者の人からすればその見た目から「そこまでの傷なの?」と思う人もいるかもしれません。
①刃切れとは
刃から横にスッと線のように入った疵のことを言います。
これは焼き入れの際に刀が反ろうとする力に耐えられなかったり、外部から強い衝撃を加えられたことによって入るとされ、この傷から刀が折れてしまうと言われています。
(画像転載元:日本刀専門買取.com)
(画像転載元:日本美術刀剣新潟支部)
しかし以下の実験では刃切れがあってもなかなか破断しないという興味深い試験結果も出ています。
②刃切れの刀を売る時の暗黙のルール?
この刃切れが1箇所でもあると価格は大幅に安くなるようです(後述)
また日刀保の鑑定審査も不合格になります。
その為、刃切れのある刀が刀剣店で「無断で」売られる事は通常はありえません。
売るにしても必ず明記もしくは口頭で伝えられるはずです。
また昔から購入時に刃切れがあるにも関わらずそれを知らされないで買ってしまった場合は無条件で取引をキャンセル出来ることが不文律の決まり事のようです。(参考:黒金の舎)
以下のように記載されているお店もあります。
(画像転載元:日本刀販売の葵美術)
刃切れがあると刀の価値としては大幅に下がりますが、刃切れの部分をちょっと欠いて刃こぼれにしてしまえば鑑定審査も問題なしとなってしまう事があるらしい。
そんなこともあってか、刃切れの刀を見つけては買っている人がいるとかいないとか…(参考:黒金の舎)
刃切れがあっても正真作なら合格にすればわざわざそんな破壊するような事をする人は出てこないのに、とも感じてしまいます。
③刃切れの刀は価値が無いのか?
では刃切れの刀は価値が無いのでしょうか?
刀は武士のもの、命を託すものなので致命的な疵に繋がる刃切れは避けるべき、という考え方はよく分かります。
しかし現在では鑑賞がメインとなっており、自分の命を守る為に刀を持っている人はいません。
では鑑賞時に凄く気になる疵なのかというと…
確かにぱっと目に飛び込んでくる疵ではある気がします。
刀について詳しい人は刃切れがあるというだけで「あぁ…」と思う人も多いと思うのですが、刀についてそこまで詳しく無い人からすれば「他にも目立つ疵があるのに何でその位の疵で?」と思う人もいるはず。
特に初心者のうちは親切心から「刃切れがあると良くない」とは色々な人が教えてくれます。
しかし刃切れが良くないだけでは「刃切れ=悪」とだけイメージが先行してしまい刃切れの刀を見ただけで「この刀は駄目だ」と決めつける風潮が出来かねない気も。
刃切れが無い方が良いのは事実としても、なぜ刃切れが悪いとされているのかもセットで説明すべきではないかと個人的には思います。
ちなみに個人的に刃切れが良くないとされる理由は以下の3点だと思っています(私が知らないだけで実際はもっとあるかもしれない)
・刀という命を託すものに破断の原因になりうる疵がある事による不快感
・日刀保の審査に合格しないので鑑定書がない
・修復出来ない(疵を消せない)
これらを許容出来る人もいるとは思うので、それで値段が凄く安くなるならむしろありがたいかもしれない。
刃切れの部分以外は他の名刀と遜色ない刀もあるかもしれません。
刀が道具として使われなくなった現代においては刃切れというイメージを絶対的な悪とするのではなく、少しづつ変えていっても良いのでは思うですが如何でしょうか。(現実的には日刀保がまず審査で刃切れの刀を合格するようにしないと鑑定書が付かないのでなかなか変わらないとは思いますが。。)
④刃切れの刀も店頭に並んでいれば良いのに
現状で売ってる所もあります。
但し刃切れがある事を明記して値段を下げています。
具体的にいくら位安くなるかは分かりませんが、例えば刃切れが無ければ1000万円を超すような刀の場合200万円位になったりしないのだろうか。
40%ダウンの600万円位なら別の刀を選びそうですが、80~90%ダウンするなら検討する人もいそうです。
実際いくら位なんでしょうね。
しかしそのダウン率だと安い刀ほど研ぎ代を考えると割が合わなくなってしまいそう。
あと冒頭に書いたように刃切れのある刀には現行の日刀保の鑑定書が付かないので無冠状態での販売となるはずです。
刀の値段は一般的に鑑定書の影響を受けます。(中には名刀で鑑定書ないものもあるので絶対では無いですが)
無冠で1000万円以上の美しさを持った刀でかつ刃切れがあるといった刀は果たしてどの位あるのか…相当に数は少ないかもしれませんが、ゼロではないはずです。。
⑤実際に売っていた刃切れの刀
葵美術さんのサイトで過去に販売されていたようです。
(画像転載元:葵美術 則光(刃切れ))
ここに刃切れがあるそうです。
確かにあるがこれはなかなか分からない…!
(画像転載元:葵美術 則光(刃切れ))
(画像転載元:葵美術 則光(刃切れ))
という事で映りもしっかり入った室町時代の刃切れのある則光(未鑑定品)の脇差で12.8万円との事でした。
単純比較は出来ないのですが、以下は同じお店の保存刀剣の則光脇差で60万円です。実に21%の価格。
(画像転載元:葵美術 長船則光)
別のお店だと特保の則光脇差で140万円。
実に価格が13.5%位。
(画像転載元:銀座誠友堂)
という事で刃切れのある刀の出来は不明ですが大体15~20%位の価格設定になっているのかもしれません。
⑥終わりに
刃切れは疵の中でもとりわけ警戒&特別視されてるように感じますが、刀を使わない現代において本当にそこまで気にするべきものでしょうか?
何となく駄目な風潮だから駄目と判断しがちではないでしょうか。
普通に店頭に並んでいたら良いのにと思うのは私だけでしょうか。
大刀剣市で格安刃切れコーナーとかあっても良いかもしれない。
私が知らないだけで売るデメリットなども沢山あるのかもしれませんが、少なからず刀を買って後からこんなところに疵が!と気づく場合なんて沢山ありますし、それなら最初から明言された刃切れは買う側からすれば大した疵に思えないような気もします。
むしろあらかじめ疵について説明してくれている分気持ちが良いかもしれない。(買ってから疵に気づくという経験があるからこそ眼が養われるとかはありそうですが…)
という事で刃切れの刀は値段のダウン率にもよりますが、先に書いた様に1000万円クラスの刀が150~200万円位まで下がるのであれば個人的には欲しい所。
とは言いつつも以前刃切れが5か所くらい入った刀を見た事があり、それは流石になんというか気味が悪かったです…。
物にはやはり程度があるなと。
1つや2つであれば許容出来そうですが、沢山あると許容するのは個人的に難しそうです。
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それでは皆様良き御刀ライフを~!