刀屋商売の成立と歩み
以下の本に刀屋商売の成立と歩みについて書いてあります。
今回はこの本に記載の内容を基に、平安時代から昭和の終戦までどのような刀剣需要の変化があり、刀商売がおこわなわれていたかについて追います。
・平安時代末期(元永年間)(1118~1120年頃)
(画像転載元:http://www.heianjidai.com/busi.html)
奈良東大寺に「鍛冶座」が存在していたという記録があります。
(座:平安から室町時代にかけて、同一業種または商品を扱う商工業者や芸能者が結成した組合のこと)
座は公家や社寺を領主として税金を納める代わりに、営業上の特権として
職場の独占、販売、仕入、営業方法の保護を受けていたとされます。
千手院、手掻、尻懸などは東大寺の鍛冶座に属していたと思われますが、
備前や美濃も同様にこのような鍛冶座が存在したと考えられてます。
座が成立する前は、朝廷や豪族の支配下に刀鍛冶が使役されるいわば産地直送方式と思われますが、座は製造と販売の機能を併せ持ち、領主である社寺も各地の刀の需要をまとめる窓口の役割として機能しています。
その為当時の神社やお寺は多面的な機能をもっていたようです。
・室町末期(1549年頃~)
(画像転載元:https://rekishi-memo.net/img/muromachijidai_16b.jpg)
座以外の商人が出現。
戦国時代には、各大名の領国経済の拡大政策により座の特権を廃止する楽市楽座制度となり、急速に座の制度が解体。
代わって登場するのが堺、博多などを中心とする豪商達。
鉄砲の輸入や製造も併せたまさに刀剣武具の商社として活躍。
各戦国大名たちは自領内で刀鍛冶を養成する一方で、これらの豪商からも武器類を調達。(因みに室町時代、中国への輸出品の主力は日本刀)
また刀は本来の武器としての役割の他に、戦功のあった武将の論功行賞を土地の代替品として下賜したり、国主同士の和睦、主従関係を結んだ時の献納品の役割も持つようになりました。
・慶長(室町~江戸時代)(1596~1615年)
(画像転載元:https://colbase.nich.go.jp/collection_items/kyuhaku/A124?locale=ja#&gid=null&pid=1)
いわゆる「古刀」から「新刀」に変わる時代。
従来の刀工は鍛刀に使う炭や卸鉄を自給自足してましたが、この時代は刀の大量需要の時代になり、刀鍛冶が使う原料を専門に仕入れる業者「炭屋」
「鉄屋」が出現。
これらは刀剣の販売も兼業していました。
美濃はこの時代主要な刀剣産地でしたが、その美濃の記録によると、刀剣を全国的に販売していた問屋が8軒あったとの事。
次に紹介する江戸時代と時間軸は被ります。
・江戸時代初期(1603~1660頃)
(画像転載元:https://mag.japaaan.com/archives/82471)
徳川家康が江戸幕府を開くと、全国の刀鍛冶が江戸に集まるようになります(越前から康継、虎徹、駿河の繁慶など)
同時に大阪も天下の台所として、流通経済の中心地になり、津田助広、
井上真改などが居住し、江戸と変わらないほどに盛況。
江戸初期は大阪の役、島原の乱などの影響で刀剣需要はまだかなりあり、
江戸や大阪では大道商人が安物の数打物を並べて立売りも盛んだった様子。
京都や奈良では「奈良物」と呼ばれる観光土産の刀も盛んに売られたとの事。
・江戸時代前期以降(寛文以降)(1660年頃~)
戦のない泰平の世となり、刀の需要が減ります。
それに伴い立売りは影を潜め、店売りだけに。
この頃の文献によると、神田紺屋町に刀の問屋があり、大阪など各地から安い数打物を仕入れて小売りや地方へ卸していたという記録もあります。
(「紺屋物」と言われ安物の代名詞になっていた様子)
また今でいう日本橋の久松町の刀屋は脇差や小道具などの安物ばかりを並べ武家の奴隷用の木刀まで売っていたらしく、基本的に高価なものは売れなかったようです。
その為新作刀の値段も安く、井上真改の刀でも現在の価値で約70万円程の値段設定だったそう。
今真改の作を買おうとすると脇差でも700以上するので、如何に安いかが分かります。(70万円とはいえ、今の体感値的にはもっと高い気もしますが)
それゆえ大体の刀鍛冶は貧乏だったといいます。
また試し斬りで有名な山田浅右衛門は新作刀の注文を取るなどもしており、刀鍛冶に取り次ぎ、刀鍛冶から謝礼を貰っていたというエピソードもあるらしいです。
・江戸時代末期(幕末)(1853年頃~)
(画像転載元:https://rekijin.com/?p=14936)
いわゆる新選組の時代になります。
動乱の時代相を映して、それまで沈滞していた刀剣業も再び隆盛。
復古刀を推奨した水心子正秀、源清磨、大慶直胤、左行秀など新々刀の名工が登場します。
この時代の刀屋については記載がありませんでした。
・明治廃刀令直後(1876年頃~)
(画像転載元:https://suumo.jp/journal/2013/07/30/49118/)
徳川幕府が倒れ、明治新政府になると明治9年に帯刀禁止令が発布。
日本刀の需要が皆無になり刀鍛冶、刀剣商、研師は廃業を余儀なくされます。
それまで相当な財産を築いていた江戸でも十指に入る刀屋。
廃刀令が発布された途端、刀の価格が暴落。買い手が一人もいない状況。
刀剣商一筋に生きていた店主はあまりの事態に呆然としたが、やがて気を取り直して刀を安く買い取る事に。
しかし、買っても買っても尽きず、蔵が刀でいっぱいになり、居間や台所にも刀が溢れる事態に。
これを見て気がおかしくなった店主はとうとう狂死してしまったといいます。(壮絶さを物語るエピソードですね)
因みにいつの時代も愛刀家はいたようです。
この時代は1振の刀に5円以上(今でいう約10万円)を投じてはいけないという不文律があったそうです。
・明治20年以降(1887年頃~)
不文律を破って明治20年頃、光忠を600円(約1200万円)で買って話題となります。その少し後に鶯丸が1500円(約3000万円)で売買されさらに話題になります。
明治30年頃になると中央刀剣会が旧大名、財閥、政治家、軍人などにより創立。ようやく刀剣が美術品として復権する風潮になります。
それでもどんな名刀も鶯丸の1500円を超える事は無かったようです。
また、江戸時代から続いている刀剣市場である「永久会」が復活したのもこの頃。明治末には神田や上野の貸席で刀剣市が盛んに開催され、他の骨董品と肩を並べるようになります。
この頃の代表的なコレクターは、岩崎弥之助、西郷従道、谷干城、今村長賀など。
・大正時代(1912年頃~)
(画像転載元:http://www.city.shinjuku.lg.jp/kusei/70kinenshi/taisho.html)
大正5年の伊達家を皮きりに旧大名家の蔵品の売り立てが盛んでしたが、刀が売り立てに出てくることは少なかったようです。
武士の魂と言われる日本刀を売り立てに出すことを良しとしなかったようです。
しかし困窮した旧大名家は年を越す為に非公開の場を中心に徐々に名刀を手放していきます。
・昭和初期(1926年頃~)
日本刀の売り立てが本格的になります。
原因は世界的な経済恐慌により、銀行への取り付け騒ぎが起こった事。
正宗、貞宗といった蔵刀も売立られます。
同時に刀剣商も増えます。
東京では網屋、松谷豊次郎、橋本元佑、斎藤栄寛、藤井現次郎、林田等、
日野雄太郎、服部善次郎、大沢豊、
大阪では中宮敬堂、加島勲などが活躍します。
しかし、日本刀の収集は軍人、政界人、財界人など一部の特権階級のものであり、今のような大衆的な拡がりはありません。
刀屋は東京では士官学校のある市ヶ谷や九段に集中、地方では連隊本部の門前などにも軍人相手の刀屋があったそうです。
ですが、昭和10年ごろまではあまり刀は売れず、業者同士の売買で食い繋いでいた時代だったようです。
・昭和10~20年頃(1936~1945年頃)
(画像転載元:http://ohmura-study.net/701.html)
昭和12年に日華事変が起こると翌13年に「国家総動員法」が施行。
軍刀ブームが到来します。
昭和17年頃になると軍刀ブームのピークで、この頃は30万円を超える軍刀が飛ぶように売れたそうです。
この頃のエピソードとして、母親が出征する2人の息子に一振3000円する軍刀をへそくりを叩いて渡した。
この頃の3000円はかなりの広い敷地に門構えの立派な二階建ての家が買えるほどの大金だったようですが、戦後この刀を調べたところ、末関の大すり上げ無銘のただ古いだけで、現在の価値でも10万円程度しかない物であったようです。
このように、生きては帰らぬ出征する息子にせめて立派な軍刀の一振を持たせてやりたいという親心を金儲けに利用した悪どい刀屋商法も増えたようです。
この軍刀ブームも終戦とともに終わります。
・終戦後(1945年頃~)
敗戦とともにGHQにより大量の刀が廃棄される危機を迎えます。
それを食い止めようと、刀を美術品として認めさせようという刀剣保存運動がおこります。
これについては以前書いたので以下をご覧ください。
その活動のお陰で今刀を見たり買う事が出来ます。
・終わりに
今回書きながら思いましたが、やはり色々な時代の政治的背景を受けて刀に対する人の見方や考え方の変化を感じる事が出来ます。
アニメやゲームと言った昨今の刀剣ブームは明らかに従来とは異なる異質なもので、平成や令和の特徴としてこれから語り継がれていくことでしょう。
また50年後のどのような世界になっているかも気になるところです。
今回も読んで下さりありがとうございました!
面白かった方はハートマークを押してもらえると嬉しいです^^
記事更新の励みになります。
それでは皆様良き御刀ライフを~!