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刀の加工について善悪の判断が難しい
昨日「薫山刀話(著:本間順治)」を読んでいたところ、以下の話を見つけました。
無銘の三郎国宗の作にいたずら心で別の刀の茎を切って額銘を入れた(銘部分だけを別の刀に貼り付けた)という話。
![](https://assets.st-note.com/img/1704719105314-F1Yq6irGmm.png?width=1200)
本来額銘は大擦上げすると刀の銘が消えてしまうので銘を残す行為、つまり元々その刀に刻まれていた銘を残す行為であって、別の刀の銘をくっつける行為ではありません。
![](https://assets.st-note.com/img/1704724988051-Z0lvzW3Xj4.png?width=1200)
故に現代行っていた場合は「刀になんてことを!」「文化財の破壊だ!」「刀の歴史が!」と炎上案件になりそうです。
この話を聞いて私は「これは良くない」と直感的に思ったのですが、しかし冷静にどこまでが「善」でどこまでが「悪」なのかを考えていくと意外に分かりづらくなってしまいました。
今回はそんな話についてだらだら書きますので、暇な方は是非共に考えていってもらえればと思います。
・額銘の真実はそもそも分からない
まず今回の刀は無銘ですが確かに国宗の作と鑑せられる物に、本物の国宗の銘を入れています。
確かに違う刀から銘を取ってきていますが、別の刀に偽の銘を付けて高く売るような行為を目的に作っているのとは訳が違います。
しかし刀の状態は変えています。
後世の人が見たら大摺上げをする際にその刀に元から付いていた銘を貼り付けた(正しい額銘)と勘違いするでしょうが、それはそれで別にその刀の価値に支障をきたす物ではない気がします。
寧ろ銘が入った事でより一層後世大切にされるかもしれません。
そもそも額銘をする際に本当に大摺上げ前のその刀の銘が入っていたかは、額銘を入れた人にしか分かりません。
故に今回の本のように逸話が残っていれば別ですが、基本的に額銘の真実について後世の人が知る手立てはなく、例えば江戸時代に行われた額銘について、当時の人が別の刀の銘を貼り付けている可能性だって十分にあるわけです。
・無銘刀の作者は100%判断出来ない
無銘刀にその刀の作者とは別の刀工の銘を貼り付けるのは偽物作りなので良くないが、その刀工の正しい銘を貼り付けるのは良い、だって作者は同じなんだから、と考える人もいるかもしれない。
しかし無銘の刀の作者が誰であるかを100%証明する手立てはありません。
無銘刀の正体を知っている人は無銘になる前の状態を知っている人、つまり摺り上げた人でないと分からないからです。
古い押形などに摺上げ前の状態が載っていれば別ですが、そのような刀は稀です。
なので「無銘刀に正しい銘を貼り付ける」というのは、国宗として伝来してきた事や、大先生と呼ばれるような人など確かな鑑識眼を持った人が国宗と見ているのだから国宗なはずだ、という仮定の上で判断している事になります。
・伝来と大先生の見立てを正にするなら
では仮にそれを「正」とするとしましょう。
しかし大名家伝来と言っても偽物も沢山あると聞きます。
大名家も将軍から賜った物が偽物であると言える人は誰もいません。
言ったら首が飛ぶでしょう。
なのでずっとそれが本物として伝わってきたのです。伝来品に偽物があるのはそうした理由からです。
次に大先生の鑑定(鞘書)があっても、日刀保は極めを変える場合もあります。つまりこれは大先生もしくは日刀保のどちらかが間違っているという事になります。
それだけ鑑定は難しいという事でしょう。
そう考えると、「無銘刀に正しい刀工の銘を入れるなら良い」と言っていた人も、「正しい」をどう判断するのか、難しくなるはずです。
・刀の状態を変える事がそもそも良くない
という人もいるかもしれません。
では聞きますが仮に全く同じ出来で、額銘入った特保の国宗と、同じく特保の無銘極めの国宗、同じ値段ならどちらが欲しいでしょうか?
恐らく額銘のある方を選ぶ人が多いのではないでしょうか。
それは額銘がある事でその刀の作者を証明する物と考える人が多く、魅力的に見えるから、でしょう。
言い方を変えれば、刀の状態を上手く変えた事で刀がより求められるようになった、刀の魅力を上げたとも見れます。
・終わりに
今回思考のままに書いたのでまとまりがなくダラダラした文章になってしまったのですが、私の場合このような事を1つ1つ考えていくと、本に載っている内容を最初は直感的に否定する気持ちになっていたのですが、今回の本の行為がどこまで悪いと言えるのか、いまいちよく分からなくなってしまいました。
似たような話で言えば、偽銘刀の銘を消すか消さないかという問題などとも似ている気がします。
最終的にはどう鑑定するのか、その鑑定はどこまで正しいのか、という所に行きつく気もしますがいやはや私には難しい問題です。
今回も読んで下さりありがとうございました!
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それでは皆様良き刀ライフを!
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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)
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