安い刀を買った事で他の刀の良さを再認識
研ぎ減っている、傷が多い、繕われている、偽銘、再刃である…などなど安い刀には安い刀なりの理由があると実感するが、同時に部分的に光る箇所や面白いと感じる部分が存在する。
それが引き金となって「これはこれで良い味があるな」とどこかスッと穏やかな気持ちで見ていられる、そんな気持ちになる事があるとこの刀を買ってから実感する。
そして何より、この刀を見てから手元にある他の刀を見ると他の刀が今まで以上に良く見えてくるから、他の刀の魅力にも前以上に気が付けた気がするが、これは良い相乗効果であった。
考えてもみれば例えば80点位の出来の刀ばかりを10振持っている状態よりも、そこに20点位の出来の物が1つある事で80点の出来のものが如何に良いかが比較で分かりやすくなるのは想像に容易い。
更に言えば80点が90点位に上がって見える、という現象が起きるのも自然かもしれない。(これは良い面もあれば悪い面もあるが)
尚ここで挙げた点数は全て所有者の主観になるが、実際にどの位の点数かどうかは数多く色々な刀を手元に置いてみないと正確な値は出せないはずである。故にAI畑で刀の良さを真に理解していない人が作ったAIが刀の美しさを見出すのはかなり困難に思う。
出来るとすれば色眼鏡無しに様々な刀工の作を身銭を切って集めた人で100点の刀を多数所持している人が先陣を切って開発すれば正しい判断の出来るAIが開発出来るかもしれない。
以前南北朝期の体配をした刀がAIが最も美しいと判断した、という記事を見たが私は疑問だらけだった。
取り込むデータの量が少なすぎる事と評価軸がブレているのが要因に感じ、それ次第で結果は変わると思う。
そういえばアメリカの偉大な刀剣コレクターであったウォルター・エイムズ・コンプトン氏は、当時アメリカには日本刀に関する資料が殆ど無かったことから、名刀の良さを知る為に、そうでない刀も蒐集して比較していたという。
コンプトン氏は100点までの出来の刀を様々所持する事で、それぞれの刀の良さをしっかり把握していたのだろう。
佐野美術館館長である渡邉妙子さんはコンプトン氏から「なぜ日本のコレクターは名刀しか集めないのか?」と聞かれ返答に窮した事がある、という逸話も残されている(出典元:wiki)が、その質問の本質は「刀の良さを真に理解するには様々な出来の刀を所持しなければ分からないのに、なぜ名刀ばかりを持とうとするのだ?」という事なのかもしれない。
コンプトン氏については以前、ブログにまとめてるので気になる方はご覧ください。
安い刀ばかりでは目が狂い本質が見えないし、名刀ばかりでも真に名刀の良さを理解できない、のだとしたらなかなか奥が深く面白く感じます。
尚、安い刀を買う事を推奨しているわけでありません。
面白い刀ですがこればかり見ていると目が狂わされそうで怖くもあります。
冒頭に書いた通り安い刀には得てして問題も沢山ありますから、最初は特に鑑定書の付いた状態の良い刀を少し高いお金を出して刀剣店で購入される事をお勧めします。
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それでは皆様良き刀ライフを!
今回写真に用いた安い刀は以下になります。よろしければご覧ください。
↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)